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狂狩  作者:
1/9

親孝行



僕は父親が嫌いだ。 なぜ、母親があんな人と結婚したのかがわからない。


稼ぎもない、家にいても何もしない。 酒に溺れ、金を貪り、欲ばかりに忠実で。 何がしたいのか理解出来ない、したくもない。



僕には兄と姉がいる。 兄は嫌気がさして就職後家を出た。 姉も、大嫌いだと言ってはいるが母親のためにと家に残っている。



優しすぎるのだ。 母も、兄も、姉も。 父親が何を言おうとしようと、黙認して。 僕には分からない、あんなやつに優しさを与える理由が。 家族だから? 家族ならば、向き合えばいい。 意味がない? 諦めた? ならば僕らは死ぬまでこの関係を続けなければならないと? 僕らが何をしたというのだ。



寄生虫のようだ。 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。 殺したい、あんなやつ。 見るだけで腹が立つ、怒りしかこみ上げてこない。 なぜ、あんなやつが。 己の欲のまま生きるために、家族の人生を踏みにじっているのに。 生きているんだ。











ある日。 物音が聞こえて目が覚めた。 一階から、ガサガサと音がする。 …泥棒? そう考えたが、テレビの音で父親だと判断する。 時計を見れば、夜中の2時を過ぎた頃。




……テレビの音がする。 汚い笑い声がする。 何かにぶつかったような音がする。







ウ ル サ イ













雑音だ、耳障りだ。 消さなきゃ。 僕は机からカッターナイフを取り出す。



犯罪? 人殺し? 知らない、そんなこと。 いつかあいつが消えてくれるのかもしれない、でもそれを待つ価値があるか? 無い、僕は今もこうして苦しんでいる。 なんであいつは苦しまなくていいんだ。








………苦しむ?




身体の熱が冷めていくのを感じた。


手に持ったカッターナイフ。 これで父親を殺しても。 その苦しみは、僕らの味わってきた苦しみに見合うものか? …そんなわけがない。 あいつが死んでも。 僕は人殺しとなり、家族も苦しむだろう。 あいつがどこで何をしているかも分からない。 巨額の借金をしていてもおかしくはない。




「……はは」



悲しくて、悔しくて。 涙が止まらない。 僕らがなにをした、ただ産まれただけだろう。変えようと努力しなかった? 変えたくても、変えられないことも存在するのだ。 それに人は… そんなに強くはなれないんだ。











♦︎




久しぶりに、兄が実家に帰ってきた。 家族で食卓を囲むのは久しぶりだ。




「あいつ、またフラフラしてんだな」



お酒も入っていて、兄は父のことをけなし始めた。 姉は特に反応せず、黙って箸を動かす。 母は困ったように笑う。 最近、またやつれたように見える。 ……ごめんね。




一つ空いた席。 誰が決めたわけでもない、父の座る席。 たまには、家族揃って食事したい気もするけれど。








兄は今日、泊まって行くらしい。 リビングのソファーで眠ってしまった。 姉は食事が終わると、さっさと部屋へ戻っていった。

母が立とうとするのを止める。テーブルの上の食器類を片付けようとしたんだろう。



「たまにはやるよ。 母さんはもう休んで」


「でも……」


「親孝行だと思ってさ」



「そう? ありがとうね」




「こちらこそ。 いつもありがと」




母は少し笑って。 部屋へと戻っていった。




















親孝行らしいこと、全然しなかったな。 母さんも歳だし、温泉にでも連れていけば良かったなぁ。



…涙が頬を伝う。 悔し涙かな。 今の結果しか出せなかった僕の未熟さへの。






…… 熱いや、それになんか身体が重くなってきた。












父さん。 最初で最後の親孝行だ。 ようやく、僕ら家族に縛られずに生きれるよ。








僕らがいなくなった後。残りの人生を…… 苦しんでほしいなぁ、泣き喚いてほしいなぁ。 楽には死んでほしくないなぁ。 生きながら、地獄を味わってほしいなぁ……


そして…… どうか……









もう… 僕ら、に…… 出会わない、で………












燃え盛る炎の中、僕はそこで途切れた。








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