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第1話(1)

 パンドラの箱。

 それは災厄の箱。

 開け放たれた途端に、封じられていた害悪が暴れだす。

 3年前、パンドラの箱が封を解かれたことで、世界は大破壊をこうむった。

 文明社会の破壊。情報社会の混乱。泣き喚く子らの顔。暴走する悪意の結晶。

 神の救済など無い。

 何故ならそれは、神と呼ばれる存在が望んだ破壊だからである。

 否。

 最初から神など居なかったのだろう。

 パンドラが振り撒く災いはあまねく衆生を襲い、科学が支配する都市は跡形もなく荒野に帰す。

 これまで感じてきた、欲望、欲望、欲望の渦。

 物質が満ち足りてきた代わりに心が満たされなくなった人々は、引き起こされた大破壊で目を覚ます。

 今まで当たり前だと思ってきた毎日こそが幸福であったのだと。

 何気ない日常の1ページが、どれだけかけがえのないものだったのかを。

 灰と化した過去を胸に秘めて、人類は生きながらえた。

 もはや荒野を行くしか道はなく、開拓者フロンティアたちが再び跋扈ばっこする時代が幕を明ける。



 1台の改造車が、砂煙を上げる荒野を走る。

 かつてハンヴィーだったと思われる土色の四輪駆動車が、黒煙を吐きながら陽炎かげろうを行く。

 目指す街は「フロントライン」。

 最前線を意味する、世界屈指の大都市。

 その名の通り『復興の最前線』を掲げる街。

 物流が盛んで、住人も流民も旅人も多く、なんだかんだで人が集まる。

 通りを歩けば客寄せの声が飛びい、一歩裏路地に入れば迷路のように入り組んで、都市の中心部には塔がそびえ立つ。

 ただ、やはり賑わいを見せるだけあって、闇の取引や勧誘なんかもしばしば起こる。検挙数は日に日に増加して鳴りを潜めているが、それでも後を絶たない。

 子供が無邪気に駆け回る姿を見るとそんな物騒な街にはとても見えないが、事実は事実である。

 大破壊が起きた時代なだけに銃の所持は合法化されており、いわば一種の西部劇さながらの様相を呈している。

 この街の良いところは「来る者拒まず、去る者追わず」というスタンスが暗黙の内にある事である。来る分には一向に構わないし、去りゆくタイミングも規制しない。

 ただし、罪を犯した場合はまた別問題。他の街とも情報を共有して、犯罪者を裁こうとする。


 さて、私がこの街に来た目的は物資の補給、つまり食料の確保と銃弾の補充。いては服の洗濯など雑多なこと。

 そして、情報の収集。

 情報とは即ち、偽・パンドラの箱「パンドラ・フェイク」の情報。パンドラ・フェイクによって引き起こされる犯罪は増加の一途を辿っている。

 そもそもパンドラ・フェイクとは大破壊の際にばらまかれた、パンドラの箱の欠片。持ち主の欲望を叶えると言われているが、実際には自制心を失くす程に暴走させるだけで、そこには悪意しか無い。

 私、青年であるアランはくだんのパンドラ・フェイクを回収することを目的、乃至ないし生業なりわいとしている。

 それはまさしくブラックボックス。人知の及ぶ代物しろものではない。

 しかし人類に対して害を成すことは自明じめいであり、回収し封印しなければ、再び大破壊が起こる可能性もある。

 よって、かつてパンドラとその箱を封印したノーステルダム博士が組織した「コード666(トリプルシックス)」の一員として、パンドラ・フェイクの回収をおこなっている。

 しかし私には、それとは別にもう一つ、パンドラ・フェイクを回収する理由がある。

 それは「封印されたパンドラを探し出し、封印を解いて再会する」こと。

 実を言うと、パンドラという女性は私の恋人である。

 あの日、不覚にも禁じられた箱を開けてしまった彼女は、箱の中の最後の1つが解き放たれる前にノーステルダム博士の手で箱もろとも封印された。

 将来を誓い合っていた私たちは無残にも、あの悪魔の箱のせいで引き裂かれてしまった。

 彼女が封印された場所は知るよしもない。

 ただパンドラ・フェイクを追っていれば辿り着けるだろうという朧げな信念を胸に歩き続けているだけである。

 会いたい。

 今なお逢いたい。

 あの姿を、私は未だに忘れられない。

 だから旅を続けている。

 だから探し続けている。

 この広大な荒野を行く。

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