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崩落まで、  作者: 昭如春香
本編
2/9

わらえる、こと

 

 


 精霊と言う存在は、世界の理であり、父母の様な愛情と叡智を内包しているって、一般的には思われている。


 精霊魔導師の俺から言わせれば、意志のある自然だ。


 人に森や川みたいに恵みをもたらす一方、矮小な生命を時に蹂躙する酷薄さ。そして彼らは、自己意志に率直だ。大人の様に冷静な線引きをしつつも、子供のように我侭で自己中心的。


 それぞれの精霊に個性があり、好みや属性があるけれど、一つだけ共通していることがある。



 彼らは、嘘偽りを悉く嫌う。



 精霊魔導師は、嘘を言ってはいけないのだ。そう云っちゃうと、無理じゃね?って思うだろう。


 なんで精霊が嘘偽りを嫌うかって云うと、魂の純度が曇るのだ。


 人間といえども、生まれて来た頃は割と澄んだ色をしているらしい。それが、自我とか智慧とか付けて来て、社会とかそーいう薄暗い所への適応していくと、どんどん曇るのだとか。曇る原因は、大まかに分類すれば欲望だ。


 誰かを妬むこと。誰かを羨むこと。誰かを貶めること。何かを欲すること。


 そんな欲望がごちゃごちゃに入り混ざることで、曇るのだ。


 これだけ聞くと、さぞ精霊魔導師はできた人間かって、勘違いしちゃうぜ。


 混ざっちゃうから、曇るんだ。いっぱい色々手を伸ばすのが、いけなんだ。つまりは、一つだけに突き抜けちゃえばいい。


 ぶっちゃけ、俺の師事している方は性欲に突き抜けている。一に性欲、二に性欲。三に精霊、四に生命維持。人間として突き抜けている変人が即ち、精霊魔導師なのだ。


 俺? 愛慾かな。俺は幼馴染のローザ__イルムヒルト・ローザ・ディンケルを愛している。彼女が欲しくて、欲しくてたまらない。彼女の構成する世界を俺だけにしてしまいたい。


 狂っている? 当然だ。精霊魔導師じゃなくったって、『魔』を扱う奴っていうのは、どこか狂っているんだ。その歪みは才能や魔力量に比例するんじゃないかな。


 お、ローザ発見!!



「ローザ? 何やってんのって、ゲ」


「何でもない……図書館に行く途中」



 もの静かで一見無表情に見えちゃうローザは占術師として、希有な能力を持っている。その為か、人付き合いっていうのが苦手だ。そもそも、人間が苦手みたいだ。


 そんな数少ない例外に、俺が組み込まれているのは、なんて幸運なんだろう!! 俺だけだったらもっと最高なんだけどなぁ。まぁ、気長に努力すればいい問題だよね!!



「ヴィートールト? 良かったら、この後一緒に____」


「先約があるから」


「えぇ! ちょっとくらい____」


「急いでるんで」



 せっかく、ローザの可愛さを堪能していたのに、邪魔してくるゴミ__イズベルガ・マルギット・ロッシュが話し掛けて来た。鬱陶しい。


 このゴミは見目こそ彫刻かと思う程美しいが、精霊に蛇蝎のごとく嫌われている。いや、精霊は蛇や蝎を嫌わないからなぁ……。あれだ、不浄なる者ども!! それに対応する時ぐらいの拒絶反応なんだよね。


 世の中に女垂らしとか、二股とかの話が在るけれど、精霊魔導師に云わせれば、気を付けた方がいい。相手が勝手に惚れちゃったなら仕方ないけど、わざと相手をその気にさせちゃったんだろうなぁ。


 『人の心を弄ぶ』行為は魂の濁りが早い。おまけに、惚れた腫れただ。外野からの嫉妬とかよりも、恋慕の方がヤバい。


 恋って面倒なもんで、欲望が尽きない。もっと一緒にいたい。もっと触りたい。もっと知りたい。もっと知って欲しい。もっと、もっと、もっと。


 おまけに、あのゴミが手を出したのは揃いも揃って、超一級の『魔』を扱う者。魔力量が多ければ、世界に与える影響も強いし、才能が在ればあるほど狂っている。


 こんなことをするくらいなら、真っ裸で竜退治の方がまっしじゃね?


 そんな奴だから、関わりたくないんだよね。適当に会話を切って、ローザの手を握って逃亡!! ローザの白くやわらかいお手て……最高です!!


 もう一生、この左手洗わないぞぅ!! いや、ばっちぃ手じゃ、ローザに嫌われちゃうか。それにローザの体によくないよね。


 真っ白で、俺よりも小さくて、優しい手。アイツ等が見えなくなったら、いつものゆったりとしたローザのペースに戻した。………………手、離したくないな。


 そっと、振り返れば、心此処に在らずなローザ。ローザってあるだけで、俺は最高に幸せだけど、やっぱりローザが別の誰かを気に掛けているのは面白くない。ローザの優しさは美徳なんだけどね!!



「放って置けよ」


「…………でも」


「一人を選ばないアイツが悪いんだから、放って置け」



 そう、俺が言い切ったら、こくりと頷いた。あんな奴らよりも、俺を優先してくれた!! 心が勝手に踊る。


 図書室に付くまでの後数分を、俺はたっぷりと堪能したのだった。





.

笑える/嗤える、こと

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