第6話 束の間の休息
戦闘終了3時間後。戦闘警戒解除が下令されたので各員は思い思いの行動をしていた。
そして、純也は喧嘩別れした父親と、大和の2人と対面していた。場所は艦長室だ。
第一声は大和の声だった。
「純也さん、ごめんなさい!!」
大和は頭を下げて謝罪した。それを見た純也はかなり慌てた。
「いやいや、俺も悪かったから!! 頭上げて!」
「いえ……私は純也さんが緊張を解そうと冗談を話してくれていたのに……」
「まぁ、大和が冗談通じない単細胞で頭の回転も悪い奴って気づけなかった俺も悪かったよ」
「……なんかそれ、本当に悪いって思ってます?」
「……そろそろいいか、純也?」
「何だ、親父?」
少し剣呑な雰囲気になった2人。そして……
「純也、すまなかった。お前がパイロットになると言ったときに家を追い出して……」
「親父、俺はもう怒ってないよ」
「そうか」
2人の表情が明るいものに変わった。大和は男の人っていいな、と思った。たった一言二言の言葉を交わすだけで互いの心を理解できる。女ではとても真似できない。
「では、純也、下がってよい」
「了解」
純也は軍人らしい動きで艦長室から出て行った。そして艦長は大和に向き直った。
「大和、君には世話になったな……」
「いえ、私なんて……」
「君は純也が好きなのか?」
「むぐっ!?」
「図星だな」
簡単に見破られてしまった大和は耳まで真っ赤になってしまった。
「お礼と言っては何だが、君が純也と結ばれるように応援しよう」
「え!?」
大和は耳を疑った。だって、自分は艦魂……
大和の思考を読んだように艦長は続けた。
「艦魂、人間。そんなものはどうでもいい。大事なのは心だ」
「心……」
「そうだ。恋とは魂がするものだ。なら、君も条件は揃っている。私としては君は大歓迎だ」
「あ、ありがとうございます!! あ、でも……他の艦魂達も純也さんのことを……」
「なんだ? あいつは艦魂キラーか?」
少々呆れた表情で艦長が言った。
「似たようなものです……」
ため息をつきながら大和は答えた。
「だが、俺は君を応援する。頑張れよ」
「はい!!」
大和は可愛らしい満面の笑みで返事した。
夜になり、純也は自室に戻ると大和がいた。喧嘩(?)をしたので昨日は居なかったが、いつもは一緒にいるのだ。もともと大和がこの部屋を使っていたからだ。
「今日は一緒ですよ?」
大和がモジモジしながら言った。
「まぁ、いつものことだからいいよ」
普段、純也がベッドで眠り、大和が布団を敷いて寝るという構図だ。たまに交代することもあるが……。
「さ、寝よう。……って大和、布団は?」
「それが……そのぉ……残った布団は全て洗濯してるみたいです……」実は、艦長が残った布団を全て洗濯しろと命令したのだが、その事を純也はおろか、大和さえ知らなかった。
「う~ん……困ったな……」
「あ、あのぉ~」
大和が恥ずかしそうに続けた。
「一緒に寝るのは駄目ですか?」
「駄目!!」
「うっ……そんなに即答で拒否しなくてもいいじゃないですか!!」
大和は涙目になって言った。
「おい、待て! それを実行すると、なんか俺、犯罪者みたいに見えるじゃないか!」
正直、犯罪者には見えなくもない。
「大丈夫です!! 私達しかいませんから!!」
「待たんかい!!」
勝手にベッドに潜り込んだ大和を引き剥がそうと躍起になる純也。すると……
「お姉ちゃん、ずる~い! 私も!」
いつの間にか武蔵が来て、彼女もベッドへダイブ。
「お前らぁぁぁっ!!」
「いいじゃないですか!! そんなに嫌がられると、さすがに傷つきます!」
「お兄ちゃん、私のこと嫌いなの……?」
2人の女の子の必殺技、上目遣い+涙目に勝つ方法を純也は知らなかった。
「……くうぅぅ……わかったよ……好きにしてくれ……」
『やったぁ!』
2人の女の子がベッドの上で大喜びしている。それをげんなりとした表情で見る純也。
結局、純也は両側から艦魂2人にがっしりホールドされ、なかなか寝つけなかった。
翌日……
純也はいろいろとピンチに陥っていた。
「少尉、言い訳を聞こうか……?」
「少尉……私とは一緒に寝られないですか……?」
『ですです!』
「……なんだか、ムカつく……。……何でだろう、非常に少尉を殴りたい……」
純也は6人の艦魂に事情聴取もとい尋問を受けていた。
「な、なぁ……近江が持ってるライフルは何だ? 信濃が持ってるグレネードランチャーは何だ? それで俺を撃つ気か?」
『事と次第によっては』
近江と信濃が同時に答えた。
「てか、艦内に銃器を持ち込むな!」
それを言うと同時に反転して逃走する純也。
「待て、こらぁぁぁっ!!」
「……逃がさない……!」
近江と信濃が追跡する。それに慌ててついて行く神楽。それを唖然として見つめる神楽の妹3人。
ここに命懸けのデスゲームが始まった。
「ここまで逃げれば大丈夫……」
ここは大和の男子トイレ。ここなら、女の子である艦魂は来な……
「見つけたぁ! 逃がさないぜ?」
トイレの個室の扉を蹴破った近江は殺気だった目で睨みつけながら言った。
すると……
「何で扉を開けたままなんだ、純也?」
久我山雄馬大尉がトイレにやって来て言った。彼はコールサイン・スパロー1である。つまり、大和航空隊の隊長だ。
「あ、いや……今終わったところで……」
純也はしどろもどろにながら弁解した。
「……? そうか……。明日は訓練だからな。今日はゆっくり休め」
「はい」
その間、近江はいきなりの出来事で茫然自失していた。そして、純也が出て行って1分ほどして近江はトリップしていた意識を現実世界に戻した。
「あ! 逃げるなぁ!」
その要求は聞き入れられるはずもなく、それどころか1分前に逃げ出した純也には聞こえなかった。
「まったく……。見えないからって男子便に入るか、フツー?」
純也は愚痴りながら資料室に入った。資料室とは言っても、紙の資料ではなく、パソコンがあるだけである。艦内クローズドネットで艦の状況などの情報がわかる。
部屋には誰もいない。
「ここなら……」
『いたです!』
神楽4姉妹が待ち伏せしていた。
誰だ、誰もいないなんて言った奴?
「お、お前ら……」
「お姉ちゃんのために覚悟!です!」
葵はそう言いながら純也に突っ込んでいった。
「お前、危ない、っと……」
突進をギリギリで回避する純也。そして……
「うわあぁぁぁ!」
壁に突っ込む葵。
「ですです~……」
葵は目を回して倒れた。
「葵お姉ちゃんがやられたです!」
「仇をうつです!」
『わぁぁぁぁ!』
紅桜と紅梅がダブルで突進。だが……
『わきゃ!』
2人とも、床に転がっていたケーブルに引っかかって転倒した。
「………………大丈夫?」
あまりのことに純也は心配そうな声をあげた。
しかし、2人とも目を回して動かない。
そして、最後に残った神楽は……
「ご、ごめんなさいですぅぅっ!!」
走って逃げていった。
とりあえず、ここも安全じゃないと判断した純也は倉庫に向かった。
「……で、お前がいるわけか……」
「……うん」
倉庫では信濃が待ち伏せしていた。
「なぜ追い回すか、理由を教えてくれ」
「……わからない。……ただ、アナタが他人の好きなようにされるのがイライラするだけ……」
「それは俺を奴隷にしたいってことか?」
「……かもしれない」
超鈍感男と恋が理解できない女の子であった。
「さて……ここは見逃してくれないか?」
「……嫌」
「即答かよ……」
「……覚悟して少尉」
信濃はどこから持ち出したのか、日本刀を構えて純也に突進した。
「お前は俺を殺す気かぁぁっ!?」
さすがに日本刀からは逃げ惑う純也。
「……私と一緒に寝てくれたっていいのに……!」
信濃は涙目になりながら日本刀を振り回した。
「わかった、わかった! 今日一緒に寝ていいから、とりあえず落ち着け!」
信濃の動きがピタッと止まった。
「……本当?」
「本当だから、落ち着け。まぁ、大和もいるから狭いぞ?」
「……構わない。……楽しみにしてる」
信濃は日本刀を納刀して立ち去った。
「何なんだ、あいつ……?」
信濃の真意が理解できない純也だった。
「艦長、これを」
艦長室では副官が艦長にパソコンを見せていた。友軍の別動隊の情報だ。我々が敵の気を引いている間に特殊コマンド部隊を伴った潜水艦2隻が北京に近い海域に到着した。
第三独立機動艦隊は福岡軍港に入港後、補給し、第二独立機動艦隊と共に北京攻撃を開始する。
独立機動艦隊とは独立、とは言っても、指揮系統が独立しているわけではない。裁量権は多いが、上からの命令は絶対だ。
独立の由来は、上層部に意見を提出できることにある。
北京強襲は3つの独立機動艦隊が提出した意見だった。北京強襲をすれば、朝鮮半島は補給路を断たれる。そうして上陸部隊を朝鮮半島に送り、侵攻する。そして降伏勧告をするのだ。その状況に陥れば降伏するかもしれない。
朝鮮半島上陸は第一独立機動艦隊と第一、第二汎用艦隊、第二空母打撃艦隊が担当する。
もちろん、彼らとは別に上陸部隊はいる。
そのため、福岡軍港には北京強襲部隊、舞鶴軍港には朝鮮半島攻略部隊が入港する。
その間に北京の各地にコマンド部隊を潜入させる。独立機動艦隊の強襲とともに破壊目標の破壊工作を開始する。
「うまくいけば、朝鮮半島の民衆を傷つけないで勝利を収められる」
艦長は言った。できれば犠牲を増やしたくないのが日本という国家の総意だ。
「とりあえず、コマンド部隊には頑張ってもらわなければな……」
そのコマンド部隊は今……
「こちら、α1。潜入開始」
【α1、こちらHQ了解。α2、α3、α4も潜入を開始した。β部隊は準備中】
「了解。交信終了」
α1の隊長は通信を終了してから、4人の隊員に振り向いた。ここは暗闇の海岸。全員、スキューバダイビングみたいな装備をしている。潜水艦から泳いできたのだ。
全員、装備を外して私服に着替えた。日本人とはバレないように日本製の製品は身につけない。そして、大きめのアタッシュケースを個人で1つずつ持っていた。中には最新型で日本製の88式電磁加速銃やプラズマ手榴弾が入っている。
「では、行くぞ」
隊長が言うと、隊員達が歩き出した。その中には、ある人物がいた。
そして、その隊員は誰にも聞こえないように呟いた。
「ごめんね、晴香……」
彼は七瀬 竜也大尉。大和航空隊の七瀬晴香少尉の兄だった……
大和
「また戦い……」
近江
「大丈夫だ、姉貴。味方もたくさんいるんだからよ!」
武蔵
「そうだよ!」
大和
「だよね! きっと大丈夫よね!」
信濃
「……うん」
作者
「まだ戦いは先だから今から緊張しなくても」
大和
「うぅ……面目ないです……」