第3話 第三独立機動艦隊創設
模擬戦から3日経った、2月6日。
「こんにちは、初めまして!」
武蔵に負けず劣らず天真爛漫な12歳くらいの子が、自室にいた純也と4人の艦魂の目の前に現れた。髪型はツインテールだ。後ろには同じくらいの年頃の子が3人いた。
「えーっと……君は?」
「私は、神楽級駆逐艦1番艦『神楽』の艦魂です! こちらは、私の妹たちです!」
「私は2番艦『葵』です!」
「私は3番艦『紅桜』です!」
「私は4番艦『紅梅』です!」
『よろしくお願いします!!』
全員ツインテールで天真爛漫だ。顔も似ている。
違うのは胸にあるリボンの色だけだ。神楽が緑、葵が青、紅桜が薄い桃色、紅梅が赤だ。
「たしか、第三独立機動艦隊は8隻で構成されるって話だったな。これで第三独立機動艦隊は完成か」
『はい!!』
神楽姉妹が全員で肯定した。
「私達、神楽級駆逐艦には換装型多目的ヘリコプター《MAHー8D 海竜》を6機搭載できます! 対潜能力、歩兵戦力は私達が担います!」
神楽が元気よく言った。それに続いて葵が口を開いた。
「もう第三独立機動艦隊は完成です! 旗艦は大和です! 大和長官、これから……」
『よろしくお願いします!!』
また神楽姉妹が全員で言った。
「私が……長官?」
大和はいきなりのことで、少々驚いている。
「よかったな、大和。いい役職じゃないか。長官と言っても、艦魂の間での第三独立機動艦隊8人の代表だ。気負いすぎることはないよ」
純也は優しく大和に言ってあげた。
「まぁ、そうですけど……」
大和はあまり納得していない様子だ。まぁ、無理もない。純也が現れてからというもの、ずっと甘えていた女の子だからだ。いきなり代表なんて少し酷だが仕方ない。
「あと、私達の艦長は全員、艦魂が見える人です!」
神楽が言った。
「まじかよ!?」
近江が驚いて声をあげた。4隻の艦長が全員艦魂が見えるなんて、かなりの低確率だ。
「そういや、スパロー飛行隊のパイロットに、換魂らしき女の子を見たって言ってた奴もいたなぁ~」
「えぇっ!!」
驚くのは大和だ。知らないうちに、純也以外の人間に見られていたのだ。驚くのも仕方ない。
「今度会わせてやるよ」
純也は大和に言った。
「……うぅ、よろしくお願いしますね……」
明らか不安な大和に笑って話しかける。
「大丈夫だ。2人いるんだけど、片方は女の子だ。俺より1歳上だけど」
「2人かよ! どっちもパイロットなのか!?」
近江がびっくりした声で尋ねた。
「ああ。どっちもこの前の武蔵航空隊との模擬戦で真っ先に墜ちたけどな」
笑いながら純也は応えた。
「楽しみだなぁ~」
無邪気な武蔵はにこやかに呟いた。
ここで第三独立機動艦隊について説明しておこう。
第三独立機動艦隊は4隻の大和級航空巡洋艦と4隻の神楽級駆逐艦で構成される。
搭載戦力は以下の通りだ。
艦載戦闘機《烈火》
32機
汎用ヘリコプター《海竜》
24機
歩兵戦力
特殊部隊16小隊(計80人)
無人航空ドローン
40機
最新兵器と練度の高い兵士で固められた第三独立機動艦隊は、日本の3つある独立機動艦隊の中でも最強である。
空母は無いものの、最新鋭機を搭載しているので、空母打撃群に引けをとらない。
旗艦は大和。艦長兼艦隊長官は谷水大佐。
全ての艦が核融合エンジン搭載艦であり、最新の粒子推進器を使用しているため、速度は全艦80ノットを超える。独立機動艦隊であり、高速機動艦隊でもある第三独立機動艦隊は、日本の切り札といえる。
その艦魂達は今、大和の使われていない空き部屋で討議が行われていた。
神楽達が大和に来た次の日の朝、艦魂達はある問題について検討している。それは……
「純也さんは大和の所属だから、私がデートします!」
「姉貴ぃ! それは関係ねぇって前にも言っただろ!?」
「お兄ちゃんは誰にも渡さない!」
「あの……私も少尉とデートしたいです!」
『神楽お姉ちゃん、頑張れ~!』
「……バカ?」
嵐のように吹き荒れる互いの純情。それが、少し広めの空き部屋をカオスへと変えていた。
何故か、神楽までもが純也に惚れてしまったことが原因で戦争が起こってしまっていた。
神楽曰く、
「誠実で、謙虚で、実力もあって優しい少尉と一緒にいるとドキドキするです!」
……らしい。
3人の妹たちは、もちろん神楽の味方だ。強力なライバルの出現に大和、武蔵、近江は大いに焦った。
「お、俺はデートなんか、ど、どうでもいいから、少尉に少し話を……」
「お兄ちゃんをたぶらしちゃダメェ!!」
「ちがぁぁぁうっ!!」
「違わないです。妹とはいえ、そんなことをしたら容赦しません!」
「容赦しろぉっ!! 実の妹を殺す気かぁ!!」
「きっと少尉はロリコンです! ですから、私が有利です!」
そんなとんでもないことを言ったのは神楽だ。
「んなわけあるか!」
「そうです、純也さんを汚さないで下さい!」
「ロリコンなら私も有利かな?」
それぞれの反応を見せる、信濃以外の大和姉妹。
その頃、純也はどうしていたのかというと……
基地内のシミュレーターで烈火の戦闘訓練をしていた。途中でくしゃみをした純也は、誰か自分の噂でもしてるのかなぁ~、とか思いつつ、シミュレーターを続けた。昼からは悲劇に見舞われるとは知らずに……
横須賀基地内の食堂にて……
「おい、お前ら。狭い」
純也は呆れたように言った。彼の左右には4人の艦魂がひしめき合っている。彼らの前には艦魂が見えるパイロットの2人がいる。
がっしりした男の方が下山龍太少尉、自信なさげにちっちゃくなっている女の方が七瀬晴香少尉である。2人は目の前のよくわからない状況に唖然としていた。
「おい、純也。モテすぎだろ。羨ましいぞ」
「何言ってんだよ。ただ懐いてるだけだよ」
「いや、そのチビどもの必死な形相を見れば、そんな風に見ることができないんだが……」
龍太のその言葉は純也に届かなかった。純也を挟んで艦魂達が喧嘩を始めたからだ。
「おい、姉貴! 引っ付き過ぎだ!」
「武蔵の方がベッタリ引っ付いてるよ!」
「お兄ちゃんは渡さない~!!」
「みんな少尉を離してほしいです!! 少尉ともっとお話したいです!」
その様子を見ていた晴香は、
「……いいな……」
少し羨ましそうに言った。まるで妹たちの世話をする兄みたいで……。
「……お兄ちゃん……。会いたいよぉ……」
人に悟られないように、晴香は涙を一滴流した。彼女の兄は帰らぬ人となっていた。彼女の兄は特務部隊の隊員だった。あらゆる兵器を操り、困難なミッションを遂行する。そして、彼は極秘ミッション中に戦死したと彼女の家に通知がきた。晴香は三日三晩、ずっと泣き叫んだ。最愛の兄が目の前から消えたのだ。
世界が真っ暗になった。そう感じた。
だが、彼女は奇妙な点に気がついた。死因を知らされず、さらには遺体も帰ってこなかった。
そんなことは有り得ない。せめて遺体くらいは……。遺体を回収できなかったのなら、せめて遺品、どういうふうに死亡したのか、ということくらいは知らせてくれるはずである。
少なくとも、彼女はそう信じた。そして、兄が見ていた世界を見るために、最前線パイロットになった。
ゆくゆくは、兄を見つけるために……。
そんな彼女の過去や心境なぞつゆ知らず、目の前では4人の艦魂達が混乱状態の青年士官を取り合うという戦場が完成していた。
つい、晴香はクスリ、と笑ってしまった。
それを目ざとく見つけた純也は、晴香に助けを求めた。
「晴香、助けてぇ!!」
「純君、ゴメンナサイ。私じゃ返り討ちになっちゃう」
『純君!?』
艦魂4人の声がハモった。大和が崩れかけている笑みを浮かべて純也に詰め寄る。
「純也さん……。一体どういうご関係で?」
「い、いや、ただの同僚だけど?」
「同僚にとても親しく接せられているよなぁ、少尉?」
拳を震わせながら近江は言った。
「お兄ちゃん……。私はこんなに大好きなのに……」
「私だってあだ名で呼ぶです!」
武蔵と神楽が必死の形相で訴えかけた。
「ちょちょちょちょちょ! 飯を食いたいから、しばらく休憩をさせてくれぇぇっ!!」
災厄に見舞われる、哀れな青年士官であった……。
北京
この都市を統括しているのは、既に中国ではなかった。インド軍が侵攻してきて占領されてしまったのだ。弱体化した中国に勝てる道理はなかった。
そして、北京にあるビルの一室ではある者達が話し合いをしていた。
「日本侵攻の手筈は?」
「第2艦隊、第3艦隊の戦力は整いつつあります」
「ふむ……予想される敵艦隊の規模は?」
「舞鶴軍港の艦隊が予想されます。空母1隻、巡洋艦4隻、駆逐艦6隻、潜水艦は不明ですが、少なくとも4隻が偵察機の報告で確認されました」
「そんなに接近したのか?」
「できるだけ近づいて高倍率光学センサーで確認しました。しかし、日本の自動対空防御システムが作動して、偵察機は撃墜されました。8人死にました」
「彼らがもたらした情報は大きい。決して無駄死にではない。我がインド軍が侵攻する際の戦力は?」
「空母4隻、巡洋艦12隻、駆逐艦18隻、潜水艦8隻です。航空戦力は戦闘機350機、対潜ヘリが60機ほどです」
「勝てるな?」
「当然です。我が軍の最新鋭戦闘機《CPFー3》は敵戦闘機《Fー5 紫電Ⅱ》と互角以上に戦えます」
紫電Ⅱとは烈火の前の世代の機体だ。彼らは烈火の存在を知らなかった。そして、第三独立機動艦隊の存在も……。
後書き(後から編集した都合上、本文中に書きました)
作者
「うぅ……航空戦ではひどい目にあった……」
信濃
「……おバカ……」
作者
「ひどい……」
信濃
「……はい」
信濃の手にはスポーツドリンク。
作者
「信濃?」
信濃
「……あの人相手にあれだけ戦えたら充分」
作者
「戦いとはいえない結果だけどね。……信濃はアイツ好きじゃないの?」
信濃
「……恋心というもの自体、私は知らない」
作者
「あちゃー。そうきたか。ダメだこりゃ」
信濃
「……ただ、少尉が取り合いされている状況に遭遇するとイライラする」
作者
「前言撤回!! フラグが立ったぁーっ!!」
信濃
「……どうした?」
作者
「信濃……。君のその優しさは強い武器だ。頑張れよ」
信濃
「……?」