第2話 最新型戦闘機《烈火》
第2話です!
第七世代戦闘機《Fー6 烈火》が激しい模擬戦を繰り広げます!
2月の頭……3日、横須賀基地に戦闘機が到着した。パイロットは1日に到着していたが、機体はロールアウトしたばかりだったので遅れてしまった。
横須賀基地の軍港部に1人の士官と4人の艦魂がいた。
「おい、少尉。あれがお前の機体か?」
無人操縦で垂直着陸をした烈火を指差して、近江が尋ねた。
「そうだよ。最新鋭戦闘機《Fー6 烈火》。欧米やロシア、中国の戦闘機の性能を凌駕する機体として開発された」
「ふ~ん。で、お前以外のパイロットは?」
「しばらくやることがないから、兵舎でゴロゴロしてんじゃないか?」
そこで大和が口を挟んだ。
「あの……失礼ですけど少尉、腕前の方は?」
「俺のか?」
「はい」
「……うーん……。明日、烈火同士で模擬戦するから、それで確かめてくれ」
「少尉も参加されるんですか?」
「いや、参加するから言ってんだけど……」
ちなみに、今回の模擬戦は模擬弾も使わない。相手をロックオンして仮想空間上での機関砲やミサイルを発射。コンピューターの計算上で被弾した機は脱落というやり方だ。
「4隻全ての戦闘機が参加するんだ。全部で32機の烈火が参加する。形式は各艦の8機の烈火でチームを組んで戦うチーム戦だ」
「へぇ~、勝ったら何か良いことあるの、お兄ちゃん?」
武蔵がニコニコしてきく。
「ああ、あるよ。その日の晩飯が豪華になる。負けられないなぁ」純也は晩飯がかかっているのでかなり本気なご様子。
「……まぁ、明日が楽しみ……。……ところで、今から何するの?」
信濃がみんなに尋ねた。
「うーん、俺は特にする事ないかな~」
純也は少し考えるようにして言った。
「じゃあ、お兄ちゃん。私と遊ぼ!」
「何言ってるの、武蔵! 純也さんは私の所属だから、私と一緒にいるの!」
「姉貴! そんなの関係ねーぞ! 俺は少し少尉に相談が……」
「そんなこと言って、お兄ちゃんをたぶらかす気だ!」
「アホかぁ!! んなことしねぇよ!! 誰がこんなへニョヘニョ野郎に……」
「……素直じゃない」
「信濃ぉぉぉっ!! てめぇ、ぶっ殺す!!」
「てか、近江って大和以外を姉呼ばわりしないよね……」
純也はこの騒乱の原因が自分であることも気づかずに、そんなことを呟いた。
彼はものすごく短い期間で、艦魂3人に恋をされていた。ちなみに、純也はモテているのに、それに気づかずにいるという才能を持つ。そのせいか、彼は恋愛経験がまったくない。
天才的な鈍感なのである。
翌日になって、烈火の模擬戦が始まろうとしていた。
「少尉……」
大和は心配そうな顔で純也に近寄ってきた。
「大丈夫だって。ただの模擬戦なんだよ? お前、実戦になったらどうなっちゃうんだよ」
「でも、事故だってありえるし……」
「それは俺の腕が心配だと言いたいのか?」
「い、いえ! そういうことでは……」
彼らがいるのは航空戦艦大和後部のVTOL機用の飛行甲板だ。8機の烈火がスタンバイしている。それぞれの機体にパイロットが既に乗り込んでいる。
「……気をつけてくださいね……」
大和は諦めたように言った。
「ああ。勝つのは大和航空隊だ」
「あの……戦いの様子はどこで見られるんですか?」
「横須賀基地指令部の第2指令室だ。仮想空間画像処理をした映像が見られるから、実戦そのものに見えるぞ。4人で見に行ってくれ」
「はい!」
大和は大きく頷くと走って行った。
しばらくすると、飛行隊長から隷下の烈火に無線が入った。
「こちら、スパロー1。全機、今日は負けられんぞ!? 美味い晩飯のために勝つぞ! いいな!?」
『サー、イエッサー!』
夕飯がかかっているので士気は高い。
【こちら、基地司令部。模擬戦を開始する。大和航空隊、武蔵航空隊は離陸し、所定の座標まで移動せよ。模擬戦開始の合図はこちらからする】
「聞いたな、お前ら! 行くぞ!!」
スパロー1の無線を通しても耳が痛くなるような大声とともに、8機の烈火が垂直離陸を開始した。
高度20メートルほどで加速して、全機が大空へと旅立った。
ちなみに、純也はスパロー3だ。
ここで烈火について少し説明しておこう。
第七世代戦闘機《烈火》は、第五世代戦闘機Fー22に似た胴体をしている。主翼はFー14のように可変翼になっている。さらに、主翼の前方にはカナード翼がついている。水平な翼が3対、垂直(斜め外だが)な翼が1対という外見だ。機体色はメタリックな銀色である。
だが、重要なのはそこではない。この機体には日本独自のスーパーテクノロジーが積み込まれている。
一つ目は、粒子加速エンジンだ。烈火はジェットエンジンを積んでおらず、代わりに粒子加速エンジンを積んだ。
指向性エネルギーを伴った粒子を噴き出すことによって、推進力を得られる。だが、粒子加速エンジンには莫大な電力が必要だ。なので、この機体には小型核融合ジェネレーターが搭載されている。これにより、マッハ5を超える最高速度と、燃料タンクが必要なくなった分、増加した武装搭載量、圧倒的航続距離が得られた。
中でも目を見張るのは、理論上だが宇宙空間での戦闘をも可能にしたことだ。
ジェットエンジンではないので空気が必要なくなったのだ。
大気圏再突入能力がないので、宇宙空間では戦えないが、近い将来には、日本が宇宙戦闘機を開発すると言われている。
そんな化け物みたいな戦闘機が32機も参加するこの模擬戦に近づく敵国機は1機たりとも存在しないだろう。
【スパロー、マンティス、模擬戦を開始しろ。スタート!】
東京から200キロ離れた海域で模擬戦が行われた。周囲には模擬戦の仮想空間画像処理を行う観測船が十数隻浮かんでいた。
「行くぞ! スパロー、エンゲージ!」
互いに向かい合ったスパロー飛行隊とマンティス飛行隊が空戦を開始した。
模擬戦の様子を仮想空間画像処理済みの映像で見ていた艦魂4人姉妹は、その映像のリアリティに驚いた。
存在しないはずのミサイルが、まるで本物のように飛翔しているのだ。
「すっご……!」
武蔵が目を見開いて言った。その気持ちは4人全員の気持ちだ。
「あの少尉がどこまでやれるか楽しみだぜ」
近江は言った。
4人とも、純也がスパロー3であることを知っているから、スパロー3と表示されている烈火を凝視していた。
スパローとマンティスが互いに放ったミサイルが両部隊に到達する。
スパロー5とスパロー8が脱落し、マンティス2とマンティス7が脱落。どちらも2機ずつ失った。
そして、両部隊は衝突して大規模なドッグファイトに発展した。
スパロー3の後方にはマンティス1とマンティス6がついている。
「おいおい、いきなり背後につかれてるぞ?」
近江が呆れながら言った。開始してまだ1分もしないうちに、もうピンチだ。
マンティス1と6がミサイルを2発ずつ発射した。凄まじい速さで4発のミサイルが接近する。はっきり言って、回避はかなり困難だ。
しかし、スパロー3は流れるような動きで全てのミサイルをスレスレで回避した。近接信管がスパロー3から離れすぎる前に爆発したが、その頃には既にスパロー3は効果範囲から離脱していた。
「なっ!?」
近江が絶句した。あり得ないような動きだ。一発目と二発目を回避するときには、樽のような円形を描いて機体を翻すバレルロール。
続く二発を回避するときには、ギリギリまで真っ直ぐに飛び、直撃寸前で身を翻したのだ。
この動きには艦魂だけでなく、指令室の全ての人間に驚きを与えた。そして、パイロットにも……
「何だとぉ!?」
マンティス1のパイロットは叫んだ。彼のヘルメットのバイザーについているHMDには仮想空間画像処理済みの映像が映し出されている。その映像の中で、目の前のスパロー3という烈火は、高命中率を誇る85式空対空誘導弾を回避したのだ。それも近接信管によるダメージをも回避していた。
「バカな! こんなバカなことがあってたまるかぁ!!」
マンティス1のパイロットは頭に血がのぼってしまっていた。
「墜ちろぉぉぉっ!!」
絶叫しながらマンティス1のパイロットは操縦桿についているトリガーを引いた。
仮想空間上では烈火の粒子機関砲がばらまかれている。一発一発が通常の戦車砲を超える威力をもつ粒子弾が凄まじい速度で連射される。
マンティス6も同様に粒子機関砲を連射していた。秒間百発を超える圧倒的弾幕がスパロー3に襲いかかる。
だが、全ての粒子弾はかすりもせずに虚空へと消えた。一発たりとも当たらなかったのだ。スパロー3は高G機動を駆使して、弾幕の合間をすり抜けた。
マンティス飛行隊の2機は、その動きについて行くだけでも精一杯だった。
そして、スパロー3がアクロバット機動‘クルビット’を行った。
機体を慣性で前進させながらバック宙させるのだ。急激に減速するため、この機動で背後にいる敵機の背後をとることも可能だ。
そして、それはマンティス2機の目の前で実践された。
「なんだとぉぉぉっ!!」
度重なる高G機動でヘロヘロになっているところで、更なる高G機動‘クルビット’を行ったのだ。クルビット自体はできるパイロットは世界中にたくさんいる。全員ベテラン中のベテランだが。
それをさんざん高G機動して、機体の空力バランスやパイロットの負荷が危うい状態の時に、ハイレベル高G機動をとるなど、ほぼ不可能な領域の話だ。
「くそ、振り切らないと……!」
しかし、マンティス1の願いは叶わなかった。
すぐ後ろについたスパロー3はマンティス1と6をマルチロックして85式空対空誘導弾を発射。高命中率を誇るこのミサイルを至近距離で回避するのは、スパロー3以外では不可能と思える。マンティス2機は悪あがきにチャフやフレアを仮想空間上で撒き散らしたが、無駄だった。
寸分違わず、ミサイルはマンティス1とマンティス6に直撃した。仮想空間上で‘撃墜’された2人のHMDには模擬戦終了の文字と、
【YOU ARE DEAD】
という戦死を知らせる表示が現れていた。
指令室ではざわめきが途絶えなかった。
「なんだ、あいつは?」
「見たか、あの機動?」
「初めてみたぜ……」
そして、ざわめく人々と同じ気持ちだったのは4人の艦魂達だった。
「お、おいおい……何なんだよアイツ……」
近江は驚きに目を見開きながら言った。大和や武蔵は言うまでもないが、珍しく信濃まで驚いていた。
さらに、画面の中のスパロー3は圧倒的な操縦技術でマンティス飛行隊の烈火を蹂躙していった。とても同じ機体で戦っているとは思えない。
結局、スパロー5機撃墜、マンティス全滅という結果となった。8機の内、4機を撃墜したのはスパロー3こと純也だ。
16機の烈火は母艦へと帰投した。リーグ戦形式なので後2回、模擬戦がある。
スパローの二回目の相手は信濃航空隊だったが、やはり純也1人に蹂躙されてしまった。
そして三回目の近江航空隊との模擬戦……
「何なんだ、コイツはぁ!!」
ファントム1のパイロットは叫んだ。目の前のスパロー3は高G機動を繰り返して、粒子機関砲の弾幕を回避していく。
そして……
「う、うわぁ!!」
スパロー3はクルビットを行い、ファントム1の背後につき、一息つかずに粒子機関砲をファントム1に撃ち込んだ。
「くっそぉぉぉっ!!」
そう叫ぶファントム1のパイロットの目の前には戦死表示が映し出されていた。
模擬戦大会は、スパロー3の圧倒的な活躍によって、大和航空隊の優勝となった。表彰式の後、純也にパイロットや模擬戦を見た者達が殺到したのは言うまでもない。
「つ、疲れたぁ~」
純也は自室のベッドに倒れ込んだ。周りには艦魂姉妹4人がいる。神の悪戯か、純也にあてがわれた部屋は、大和が使っていた部屋だった。
「お疲れ様です、純也さん」
大和はスポーツ飲料が入ったペットボトルを純也に渡しながら言った。
「ありがとう、大和」
ヘロヘロながらも純也は律儀に礼を言った。
「お兄ちゃん、凄いよ!!」
武蔵がピョンピョン跳ねながら純也を讃えた。
「……私も初めて見た……。……とても人間技とは思えない……」
信濃も無表情(驚きの余韻か、少し崩れかけている)で言った。
「まったく……。大げさだよ」
微笑みながら純也は応えた。
「大げさじゃねぇよ。戦闘機であんな事ができるのか?」
「ああ。機体の空力特性と、それを加味した空力バランス、あとは感覚だ」
「……凄いです。やっぱりナイト様じゃないですか!」
「だから、そんな大したもんじゃないってば!」
「……みんな、少尉は疲れている。……休ませてあげるべき」
「そうそう。疲れたから寝かせてくれ。晩飯前には起こせよ?」
「わかりました。お休みなさい」
大和が優しく微笑んで言った。それを見た武蔵と近江は一瞬、険悪な雰囲気を放出したが、純也に苦労をかけないように、大和に文句を言うのは我慢した。
「お休み」
純也が寝息をたてるのはすぐだった。
作者
「では、よろしく少尉」
純也
「おう」
彼らは烈火で1対1の勝負をしようとしていた。
作者
「レーダーロック!」
背後についた作者の烈火がミサイルを放つ。
純也
「甘いな」
圧倒的な高G機動でミサイルを回避していく純也の烈火。
作者
「バカな!」
純也
「おらよっと!」
純也の烈火がクルビットを行った。
作者
「背後につかれた!? だが!!」
作者も負けじとクルビットをする。
……が、失敗して機体バランスを失い、失速した。
作者
「うわぁっ!! やばいやばい!! ギャアアアア!!」
作者の烈火は墜落した。
近江
「できないくせにアクロバット機動なんてするから……」
信濃
「……おバカ?」
武蔵
「あ、あはははは」
大和
「なんだか作者が可哀想なんで、感想とかもお願いしますね」
純也
「やりすぎたか……」