第21話 幼なじみの入隊
暗殺部隊の奇襲攻撃から3日後……
大和艦内食堂
「今回、新しく糧食班に入った奈緒ちゃん、友紀ちゃん、琴美ちゃんよ。みんな、よろしくね」
食堂のおばちゃんが言った。ここには、純也達戦闘機部隊や艦内要員の大半が集まっていた。
目的は、新しく糧食班に入った美少女達だ。
だが、純也は内心溜め息をついていた。
彼女達は、通っていた学校をやめてまでして、この艦に来たのだ。
独立機動艦隊の給料は、そんじょそこらの仕事よりか、遥かにいい。糧食班の仕事でさえもだ。
まぁ、糧食班もなかなかしんどいところではあるのだが。
だが、給料が高くても、危険がつきまとう。前線で戦う艦隊なのだ、独立機動艦隊とは。
彼女達はそれを理解しているのだろうか。
純也には、彼女達が学校をやめてまでして、第三独立機動艦隊に入隊した理由が、まるでわからなかった。鈍感な純也には一生わかることはないかもしれない。
彼女達の部屋は、あろうことか、純也の隣の部屋だった。
父親の悪意を感じる。
純也は、父親への折檻という使命は後で果たすとして、幼なじみの部屋にお邪魔することにした。
「邪魔するよ~」
純也は、ほんの軽い気持ちで入ったのだ。そう、ほんの軽い気持ちで。
幼なじみだから、ということもあったのだろう。何の気兼ねもなく入ってしまった。ノックなしで、返事も聞かず。
「いっ……!?」
「あっ……」
「えっ……?」
部屋の中には、幼なじみ達の、いつの間にか成長した裸身があった。
「あ、えっと……」
純也はフリーズしてしまった。
奈緒と琴美は羞恥に頬を染めて泣きそうに、友紀は怒りに頬を染めて吠えそうに、純也は美少女3人の裸身を見て、気恥ずかしさに頬を染めて思考回路が停止しそうに、それぞれなった。
「きゃあああああああっ!!」
「いやあああああああっ!!」
「純也ぁぁっ!! このヘンタイっ!! スケベっ!! エロッ!! 死ねぇッ!!」
「ご、ごごご、ごめんなさいッッッッッッ!!」
純也はすぐさま脱走した。
その15分後……
「純也はどこだぁっ!!」
「谷水少尉を殺せぇっ!」
「八つ裂きだぁっ! 八つ裂きにしろぉっ!!」
大和艦内は大騒ぎだった。
新入の美少女達の裸を見たという噂が一瞬のうちに広まり、嫉妬に狂った兵士(暴徒)が、純也の命を狙っていた。
何故か、リニアアサルトライフルや火薬式ショットガン、レールマシンガンなどを、みんなが装備している。
「ヤバい……マジヤバい……」
見つかったら本気で殺害される。
だが、敵は人間だけではなかった。
「あぁっ!! 見つけましたぁっ!!」
通路の角から、大和が現れた。
「なにぃっ!?」
「どこ!?」
「……発見」
「いたです!!」
『ですです!!』
上から順に、近江、武蔵、信濃、神楽、神楽の妹達……
彼女達にも命を狙われているのだ。
「じ、純也さん……許しません!! 私のは見ないくせに、他人の裸は見るなんてぇっ!!」
どさくさに紛れて、とんでもないことを仰る大和。
「そうだよ!! お兄ちゃん、私のこと嫌いなの!?」
「……私、ちょっと自信ある」
「俺だって……って、ちょっと待て!! 俺達ヘンタイみたいじゃねーかぁっ!?」
よく気づいた、近江。その通り、今の発言を聞く限り、お前達はヘンタイ以外の何者でもない。
「ええいっ!! 問答無用ですっ!! 突撃ぃぃぃっ!!」
大和の号令で艦魂軍団が突撃を開始する。一瞬冷静になった近江でさえ、空気に流されて突撃して来る。
「何故だぁっ!!」
純也は自身に降りかかる理不尽を呪いながら逃走開始。
しばらくすると……
兵士達と遭遇した。
「こちらアルファ2、ターゲット補足!! D4区域、第三通路!! 残りのアルファと、ブラボー中隊をこちらに寄越してくれ!!」
「なんでそんなに組織的なんだっ!?」
人1人を艦内で捕まえるのに、これほどの組織力が必要なのだろうか?
「撃てぇっ!!」
仲間(だった者達)がこちらにむけて発砲してくる。もちろん実弾ではなく、模擬弾やペイント弾だが、当たるとかなり痛い。
「殺す気か!?」
純也は弾丸を避けながら叫んだ。
『殺す気だッ!!』
あまりにも非情な言葉が返ってきた。
「あれは事故だッ!! 落ち着いて話を聞けぇっ!!」
「問答無用!!」
「我々の天使を汚した罪、とくと味あわせてやるっ!!」
「コロス、コロス、コロス……」
「理不尽だぁっ!!」
純也は叫びながら、逃走を続けた。
「はぁはぁ……」
息も絶え絶えな純也は、倉庫に入り、物陰に隠れようとした。だが、先客がいた。
「お、お前ら……」
そこにいたのは、奈緒と友紀と琴美だった。
「純也……?」
奈緒は純也が来たことに驚き、すぐその後に顔を赤くした。
琴美は茹で上げられたような赤さにまでなっている。
……マジで大丈夫なのだろうか?
意外なのは、友紀も顔を赤く染めていることだ。怒りではなく、恥ずかしさで。
「ど、どうしてここに……?」
純也は3人が、親父の陰謀だろうか、ちょっと可愛らしい特別な軍服を着ているのを確認しながら、恐る恐る尋ねた。
「わ、私達も純也を探してて……その……」
「アンタが追われているから、隠れるとしたらここかなって……」
琴美と友紀が言った。
「あ、ああ……そうか……。で、俺の命を奪いに来たと……?」
「違うわよ!!」
友紀の投げた‘スパナ’が純也のすぐ側を通り抜けた。
「こ、殺す気かぁっ!?」
頭に当たれば死亡することもあり得る攻撃だ。もっとも、純也なら片手でキャッチするだろうが。
「ご、ごめん……つい……」
‘つい’の一言で金属製スパナを投げつけるとは……
将来の友紀の夫の冥福を祈る。
などと、友紀の将来の夫を死者扱いにしながら、純也は彼女達の目的を考えた。
考え得る可能性は……
純也に植え付けられた自らの破廉恥な記憶を抹消すべく、純也の脳を破壊しにきた。
もしくは、過去の行いを後悔するような凶悪な折檻か。
……純也には、その程度しか思い浮かばなかった。
逃げない手はない。
「……!!」
純也は消えるようなスピードで倉庫から立ち去った。
「あっ……!!」
「ちょっ……!!」
琴美と奈緒が声を出す。
友紀は溜め息をつき、
「せっかく、助けてあげようと思ったのに……」
実は3人も、ここまで凄まじいことになるとは思わなかったのだ。裸を見られたのは恥ずかしいが、相手が幼なじみで、恋愛的に大好きな純也だから、許していたのだ。
……さすがに露骨に見られると、張り倒すだろうが。
「く、くそっ……多勢に無勢か……」
一個小隊で一個大隊を相手にするような戦力差だ。目が回りそうなくらいな戦力差に涙が出る。
「いたぁっ!!」
大和に見つかった。だが、もう純也は逃げない。
「純也!」
逆側からは幼なじみ達3人が接近中。追いかけてきたらしい。逃げ場はない。
純也は、潔く死ぬことを決意した。
「……って、あれぇ?」
突然、奈緒、友紀、琴美が立ち止まった。
「ねぇ……純也。この艦って、そんな女の子も乗ってるの……?」
奈緒の言葉で、幼なじみ達が驚き立ち止まった理由がわかった純也は、頭を抱えた。
「ふーん……艦魂、ねぇ……」
友紀がイマイチ納得いかないような表情で言った。ここは純也の部屋で、大人数が押し寄せてかなり手狭になっている。
「軍艦の魂で、見える人にしか見えない存在、ねぇ……」
奈緒も半信半疑の様子だ。
「むぅー……本当ですよ? 私は、この艦……大和の艦魂です。そのまま大和って呼んで下さい」
「……うん。でもまぁ……軍艦に普通の女の子が居るわけないし……」
奈緒が自分達のことを棚に上げて言った。
「はい。私達は艦魂です。普通の女の子とは違うんですよ」
「能力的には水上を歩ける以外に優れた点はないけどな」
純也がぼそりと言った。
「むぅー……そんなことありません!!」
「何を根拠にしているのやら……」
大和の否定にため息混じりに呟く純也だった。
結局、その日は奈緒達に、暴走した兵士達を説得してもらい、純也は事なきを得た。
「ねぇ、純也……」
出港を明日に控えた大和艦内。就寝予定時間がせまってきた時間帯に幼なじみ3人が、純也の部屋にいた。
艦魂達も大和姉妹がこの場にいる。
そして奈緒が純也に声をかけた。
純也はベッドに座って、ぼーっとしていたので、反応はタイムラグゼロだった。
「なんだ?」
「この艦隊は……戦いに行くんだよね?」
「当たり前だろ」
「……人を殺しに行くんだよね……純也も……」
奈緒の言葉を聞いて、純也は少し驚いた。
だが、純也は少しも狼狽えずに返した。
「戦場で敵の前に出るんだ。俺も、俺の仲間も覚悟しているよ。だけど、敵も俺達と同じだ。殺される覚悟はあるんだろうよ。俺達に仇なすんだから」
その言葉を聞いて奈緒は笑った。ただ、その笑みには翳りがあった。
「強いね、純也は。……昔とは違うね」
その言葉の真意は、奈緒と友紀、琴美だけが理解できるものだった……
大和
「奈緒さんが言っていた言葉の意味って何なのかな?」
武蔵
「う~ん……お兄ちゃんが小さかった頃から知り合いだったんだよね? 成長したって意味かな?」
近江
「それにしては、あの笑い方が気になるぜ? 哀しみというか、何というか……そういうのを押し殺したような笑い方……」
信濃
「……純也にもいろいろ秘密や過去がある。……それは誰もが同じ。……気にする事じゃない」
大和
「そうだといいんだけど……」




