第16話 新城少将の器
なんか、今回は少し話が強引だった気が……(汗)
純也は、新城少将から聞いた強化内容を思い出していた。
まず、耐G強化だが、今まで14Gまで耐えられたのを18Gまで引き上げた。短時間なら20Gを超えても耐えられる。
次に脳内思考加速強化だ。その名の通り、思考を10倍近くに加速できる。ただし、いろいろと制限がある。2秒分しか発動しないし、10倍になるのはほんの一瞬だけだ。倍率も安定せずに、絶えず変化する上に、使用するタイミングが自分で決められない。集中力が一定を超えたら勝手に発動し、それが有利に働くか、不利に働くかは神頼み、といったところだ。仕組みは複雑で、脳の思考回路と爆牙内にある、人間の脳を模した人工思考回路を無線接続するものらしい。脳内にはチップが埋め込まれており、それが爆牙の人工思考回路と双方向通信をするのだ。要は、人間の脳の容量を一時的に外部から増やしているようなものだ。人工思考回路には純也の脳のスキャニング結果がフィードバックされており、人工思考回路と生身の脳が双方向通信しても、さしたる異変は起こらない……はず、らしい。
次に眼球内蔵型HMDだ。目の角膜をHMDのバイザーの仕組みに作り替えて完成させたものだ。また、首にあった神経電気信号を書き換える装置も多機能化していた。機体情報や戦況情報を直接、脳に送り込んでしまうのだ。なので、純也は損傷チェックやレーダー確認を行わなくても、機体損傷度や、敵味方の配置がわかる。
耐G強化以外は、爆牙でしか使用できないが、思考加速は爆牙から多少離れても使えたりする。もっとも、自分の意思では使えないが。
そして、残念なことにもうひとつの‘人格’もある。
純也は、もう既に純粋な人間ではないことは明らかだ。
この純也の状態を知ったら、艦魂達はどうするだろうか。
いや、それよりも……純也を、小さい頃から知っている幼なじみの奴らはどう思うだろうか。
3人の女の子なのだが、純也が軍に入ると言い出したときは猛反発していた。怪我せず、無事に軍隊生活を送るという、バカな約束をさせられてようやく説得できた。そんな約束は守れるわけもなく、先日には瀕死状態になった。さらに、体を改造していることがバレたら……
純也は彼女達に醜い肉塊になるまで痛めつけられるだろう……
ところで、読者の皆様は、爆牙を純粋な戦闘機と思っておられるだろうか?
確かに戦闘機ではある。
何が違うのか。
戦闘攻撃機?
宇宙戦闘機?
正確には宇宙戦闘機にも当てはまるが、今回重要なのはそこではない。……まぁ、世界初の宇宙戦闘機なのだが。
重要なのは……
爆牙が、あらゆる電子兵装を搭載し、粒子兵器をより一層、取り込んだ戦闘機……まさに近未来的戦闘機と言えるということなのだ。
そんなんだったら、宇宙戦闘機の方が凄くないか、と思うだろうが、粒子エンジンシステムを搭載する機体には、全て宇宙戦闘機としてのポテンシャルがある。大気圏から出ることができても、再突入することができないだけなのだ。
大和格納庫
「純也君、これが爆牙だ」
新城少将は嬉しそうに言った。
純也の目の前にあるのは、先ほど無人操縦で送られてきた爆牙だ。
Fー22にカナード翼をつけたようなシルエットだが、尾部辺りに、ECMP(電子的対抗手段ポッド)らしきものも見える。機体はかなり大型で、尾部のエンジンもよりパワフルなエンジンを計4基もつけている。普通は単発か二発ぐらいだが、爆牙は四発なのだ。これにより、莫大な推力を得られる。減速用のエンジンも取り付けられていて、かなり強引な設計であると言える。核融合ジェネレーターも2基搭載し、それが大型化につながった。
大型といっても、烈火に比べて、だ。烈火のサイズは、2000年くらいの時の航空自衛隊の支援戦闘機Fー2A程度だ。爆牙は一回りくらい大きく、Fー15よりもやや大きい程度だ。
これだけの機体を作り上げるのに、どれだけの技術が注ぎ込まれたのだろうか。
「これが電子戦機も兼ねているのか?」
「ああ。電子兵装は一般的な電子戦機よりも強いかもね」
「電子戦機か……。何か名前だけだと結構トロそうだが?」
「電子戦闘機だよ。最高時速はマッハ8・5くらいだよ」
「目がまわるぞ?」
「死に損ないになってまでしぶとく生きてるんだから大丈夫だよ」
「殺そうか……?」
「命だけは……」
「却下」
「ごめんなさい!!」
一時は復讐に燃えていた純也だが、今はそれほどだ。いや、もちろん復讐はする気だが、敵がいないときは精神が安定しているのだ。これも艦魂達の努力の賜物だろう。
「電子兵装って、戦闘機動をとってても使えるのか?」
「それができなければ電子戦闘機なんていう資格がないよ。少なくとも僕はそう考えてる。なかなか難航したんだよ、爆牙の開発。まあ、これ1機が旧世代の原子力空母や原子力潜水艦の出力を超えてるからね。ほとんどを粒子兵器や粒子エンジンにまわしてるんだよ。その分、速度はマッハ8・5、粒子兵器の中には戦略級の破壊兵器もあるからね。それを自由に扱えて、初めて爆牙のパイロットたりえるんだよ」
「シミュレーターで練習しとくよ」
「扱いに気をつけてね。これ1機で烈火20機買えるんだから」
烈火は1機200億円である。単純に4000億円だろう。
電子戦闘機の試作機という前代未聞なものなのだから、それくらいするのだろうが……
ちなみに、4000億円あると、現代では二ミッツ級原子力空母が購入できて、戦闘機が買えるようなお釣りが返ってくる。二ミッツ級原子力空母は約3800億円である。(ギネス2012より引用)
現在の日本の軍事予算は20兆円だ。国家予算が200兆円。実に一割が軍事費だ。20兆円はかなり潤沢だと言える。
閑話休題。
「そんなに高いなら現場にだすなよ」
純也が言うのも当然だ。高価な試験機は安全な空域でせっせとデータを集めていればいいのだ。
それをなぜ現場に?
その答えを新城少将が言ってくれた。
「君を現場に送り込んだのと同じ。実戦が一番上質なデータがとれるからね。……そうそう。僕もしばらくの間、大和にいるからね。よろしく」
「今すぐ回れ右して帰れ」
「……酷いなぁ~」
すると、新城少将が真面目な顔になって、いきなり切り出した。
「少し君について気になったことがあるから、質問させてくれるかい?」
純也は少し迷ったが、
「ぶっ飛んだ質問じゃなければ」
「君には戦う理由があるかい?」
ぶっ飛んだ質問ではなかったが、純也は若干後悔した。だが、答えられない質問でもない。
「それは……国のためだ」
新城少将は純也の返答を聞いて、やれやれ、と首を振った。
「それは建て前だろう? たまに本気でそういう理由で戦っている奴らがいるけど」
「戦争に理由がいるか? 矛盾だらけで筋が通らない戦争に。俺達は仕事をしているだけだ」
「なるほどね……」
新城少将は、人を見透かすような目で純也を見て言った。
「今はどうなんだい?」
「……どういう意味だ?」
「君が言っていたのは、軍隊に入る当初の理由じゃないか?」
「…………。何でそう言える?」
純也が怪訝そうに尋ねた。
「君のことを調べたのさ……。君のお父さんにも協力してもらってね」
「あのバカ親父……!」「まあまあ。聞いたところによると、君のお母さんは病死しているようだね。……君が軍隊に入る少し前に」
「……………………」
純也は完全に沈黙してしまった。それをいいことに、新城少将は勝手に話を進める。
「君のお母さんは、死に際に言ったそうだね。人の役に立つ人間になりなさい、と」
「……親父が言ったのか?」
「まあね。そして、君のお父さんが軍隊に入っていたこともあり、軍隊に入隊したと……。当初の君の戦う理由は、『母親の遺言を実行するために、国の役に立とうとした』だね」
「だからどうした? 今も同じだ。飛び級してきて、16歳で士官学校に入った。さっさと単位を取って、今年1月に実戦配備。2月に大和に配備された。そんなに時間は経ってない。戦う理由は変わらない」
余談だが、現在の日本には飛び級制度があったりする。純也は4年分、飛び級しているのだ。これは日本でトップクラスの飛び級だ。
「ああ、普通はそうだね。けど、変わったはずだ。久我山大尉や菊常中尉を殺されてね……」
純也はやっと気づいた。復讐のことを言っているのだ。
どいつもこいつも復讐はやめろ、か。
言うことはみんな同じ。だが、目の前のひょろひょろ技術少将は別のことを言った。
「いいんじゃないかい、復讐でも」
「……ふん」
「別にね、戦ってくれりゃいいんだよ。少なくとも上層部は。ただ……」
新城少将は静かに言った。
「君が死んだら悲しむ人……もしくは艦魂がいるんじゃないかい?」
「艦魂を知ってるのか?」
「見えないけどね。知ってるかい? 艦魂の正体を知ろうと、日本には艦魂のための研究機関があるんだ。彼らは、魂というものを、科学的に証明しようとしているよ。彼ら曰く、魂は思考エネルギーの集合体らしいよ」
初耳だった。魂なんて、宗教で出てきそうな概念を科学的に証明しようとしているとは……。日本の科学力が他国を圧倒しているとはいえ、さすがに呆れざるをえない。
「いつか、艦魂が人間として暮らせる日が来るかもね」
「無理だと思うけどな」
艦魂は船に宿る魂。艦の縛りからは逃れられない。
だが……もし、艦に宿っている魂を他の物に移動させることができたら……?
いや、無理だな。
純也は、そう結論づけた。
「話を戻すけど、待ってくれる人がいるんだから、悲しませてはいけないよ? 復讐もいいけど、その悔しさを他のことに使わないかい?」
「他のこと?」
「ああ。君には護るべき人や艦魂がいる。ならば、命を懸けて護るべきじゃないかい? 菊常中尉は、君を救うために命を懸けた。そして、君を救って死んだ。中尉に生かされた君は彼の遺志を尊重すべきだよ。彼に感謝してるなら、彼のように命を懸けて仲間を守るべきだよ。第一、君は敵を何人も殺している。はっきり言わせてもらうと、君には復讐云々を言う資格は無いんだよ」
「……そうかもな」
目の前のへなちょこ技術者は、見た目よりも強い心を持っているようだ。
その強さは、純也を折り始めた。艦魂達ができなかったことをこのひょろひょろ技術者が成し遂げようとしているのだ。
「艦魂達が死ぬのを指をくわえて見ているかい?」
「……………………」
「そんなわけないよね? なら、護ってあげなよ」
信濃が護ってほしいと言ったとき、純也はなぜか復讐よりもこちらが重要じゃないのか、という気持ちになった。
よくよく考えると、軍隊全員が復讐ばっか考えると守りが薄くなって、被害が大きくなるかもしれない。敵も被害が出るが、こちらも被害が出る。ならば、守りを優先し、仲間を極力護り続け、被害を最小限に留めて敵に自分達より大きな被害を与える。それなら、より勝利にも近づくのではないか?
などという、無理矢理現実的にしようとする純也。だが、別のことにも気づいていた。
感情に支配されてはいけない。だが、感情は人間になくてはならないものだ。なら、それと上手く付き合う方法を考えなければならない。
それができる人間が強いのだろう。
だから、純也は決心した。
この悔しさを忘れない。仲間を殺されたときの気持ちを忘れない。
そして、仲間を護る。全員は無理でも、1人でも多く。
復讐を諦めることはできない。
……が、復讐なんかよりも優先すべきことを発見したのだ。仲間を護る。戦わないと護れない。だから戦う。それが戦う理由。
純也が一歩、真の大人に近づいた瞬間だった。
「あんたの言うとおりだ、バカ技術者。あんたのおかげで吹っ切れたよ。感謝してるよ、へなちょこ技術者」
「……感謝してないよね、それ?」
新城少将はいつもの調子に戻って言った。
純也はこのとき、この某潜入ゲームの技術者、オタ○ンみたいな技術者が、信頼に足る人物だと確信した。
……ちょっと……いや、結構胡散臭いこともあるが。
信濃
「……純也が立ち直ってくれた……。……良かった……」
陸奥
「そうね」
大和
「純也さんは大丈夫だって信じてました!」
長門
「そうねぇ~。これで心置きなく……」
大和
「な、長門さん!? ちょ、やめっ……!! いやあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
武蔵
「お、お姉ちゃん……」
近江
「合掌……だな」
作者
「はぁ……。バカばっかだね」
艦魂達
『アンタには言われたくない!!』
作者
「…………………グスン……(地面に‘の’を書く)」




