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永遠の魂  作者: 突撃バカ
17/23

第15話 改造エースパイロット

2話連続投稿です。1日に2話です。

4月1日、第三独立機動艦隊は北京近くの海にいた。

しばらく、北京近くで警戒しておけ、という命令があったのだ。



そして、その日は……

純也のナノマシン手術が行われる日でもあった。


重傷を負った純也は早く復帰するために、ナノマシン治療を受けることにした。

……少なくとも、第三独立機動艦隊の人間、艦魂はそう聞かされていた。



だが、真相は違う。確かに重傷を負ってナノマシン治療を受けるというのは間違ってはいない。だが、続きがあるのだ。


純也が目覚め、谷水艦長と龍太が見舞いに来る少し前……


純也が思いもよらない人物がやってきた。



「やぁ、元気かい?」

「……これが元気に見えるか?」

「おやおや……性格まで変わったのかい?」

「あんたに対しては、前もこんなんだったろ?」

「言われてみれば……」

純也とそんな問答をしているのは、新城裕一郎あらぎ ゆういちろう技術少将。30代前半のヘロヘロの科学者である。純也と彼は、前に一度、会ったことがある。


耐G強化手術のときだ。


純也に耐G強化手術を勧めたのも新城少将である。



「……で、また俺の体をいじくり回すと」

「人聞きの悪いことを……」

「お前ら、こういう言われ方するのには充分なことをしてるだろうが」

「人を悪人みたいに……」

「悪人、死ね」

「嫌だな、傷つくよ?」

「ズタズタにしてやる」

「……お許し」

純也はコイツが嫌いだった。腹黒い上に、説明を意図的にし忘れて、後で文句言いにいったら、ごめん、の一言ですまされたり。



「純也君……君は機体を失った。だから、新たな機体をあげるよ」

「……どうせ何かの試作機で、俺をモルモットの代わりに使おうって考えだろ?」

「……バレた?」

「機体によっては許してやる」

すると、待ってましたと言わんばかりに新城少将の目が輝いた。


新城少将は持っていたアタッシュケースから書類を取り出した。


「アナログだな」

「あはは、これでも色々考えた結果なんだよ?」

「サイバー攻撃に備えて、か?」

純也の言葉に目を丸くした新城少将だが、すぐに笑顔に戻った。

「さすが純也君。死に損ないになっても、君の洞察力は健在だね」

「殺すぞ?」

「……ごめんなさい」

怪我人のくせして、やたらと迫力のある純也に気圧された新城少将は、階級が上にもかかわらず、謝罪する。

これが彼らの関係だ。


「ともかく、オ○コンもどき、早く資料見せろ」

純也は新城少将が某潜入ゲームのキャラクターに似ていることをいいことに、彼をそのキャラクターの名で呼んだ。

「はいよ……でも、僕嫌いじゃないよ、オ「うるさい」……すみません」

仮にも‘将’である男には、あまりにも威厳がなさすぎた。



新しい機体の概要はこうだ。


名は《FーX 爆牙》である。日本の次期主力機のための戦闘能力データを取るために、予算を湯水のように使って開発された試験機の3号機だ。

世代は第8世代機とされている。

核融合ジェネレーター、粒子エンジンシステムを、より強力に、より効率良くし、あらゆる性能において他国を圧倒する烈火を、さらに圧倒する機体である。

しかし、性能を追求しすぎて、普通のパイロットには扱えない。耐G強化手術を受けた強化パイロットでなければ、扱うことができないのだ。

そして、日本軍に僅か3人しかいない成功体の1人、純也に話を持ちかけたのだ。

他の成功体は、機体のテストパイロットとして活躍している。成功体は貴重で、データを取りたい上に、失いたくない‘もの’なのだ。


だが、純也はここにいる。なぜか?


目の前にいる、威厳もへったくれもない少将……新城裕一郎が関係している。

彼が、純也をテストパイロットとしてではなく、最強の戦闘用パイロットとして引き抜いたのだ。

データを取るなら2人でも充分であると言って……




要は、純也を純粋な戦闘機パイロットにしたかったのだ。もちろん善意で、ではない。

最強のパイロットの極限の戦闘機動のデータを取り、新たな高性能機を作るため。

そして、完成したのが爆牙だ。



烈火を上回る性能だが、パイロットへの負担が異常に大きい。まるで、パイロットを、爆牙という戦闘ユニットの‘パーツ’として見ているかのように。

そして、その負担は成功体に、さらなる改良を必要とする、馬鹿げたものであった。無論、量産化するときには性能を落として、常人にも扱えるようにはするだろうが、少なくとも今の爆牙は怪物だ。



「俺に、ナノマシン治療のついでに人体改造を行うと……?」

「ダメかな?」

普通はダメだ。


しかし、純也は少し考えてから、こう言った。

「いいよ」








そして、今に至る。

2日間かけて治療が行われるが、その大半が強化手術の期間だ。


大和には集中治療室があり、3台のナノマシン治療装置がある。まるで、棺桶のような白い箱。その中に、全身麻酔で眠っている純也がいる。


それを艦魂達は見ていた。

第二独立機動艦隊は、日本に戻っていった。なので、今いるのは第三独立機動艦隊の艦魂8人だけである。

「お兄ちゃん……」

武蔵が心配そうな声を出す。

そりゃそうだ。ナノマシン治療というのは、通常の治療では治らないときに行うものである。今回の場合、ナノマシン治療を行わないと戦闘機パイロットに復帰するのに時間がかかるためである。

ナノマシン治療をすれば、負傷前の体に戻る。それも、リハビリがほとんど必要ないほどに。軍のデータベースに登録された身体情報を元に、アミノ酸を組み合わせて、細胞核はクローンを使って、細胞レベルで体を修復する。

それが、ナノマシン治療の概要だ。治療にナノマシンを使って行うため、ナノマシン治療と呼ばれる。


「純也さん……」

大和は、本当はゆっくりと、普通に治療してほしかった。すぐに現場に戻れるナノマシン治療を受ける純也が、大和の目にはまるで死に急いでいるように見えた。

それは大和だけでなく、他の艦魂達も同じだった。だから、心配なのだ。普通なら、ほとんど失敗することのないナノマシン治療は大歓迎だ。

だが、彼がナノマシン治療を受けたのは、早く現場に戻るため。彼と早く会えるのは嬉しいが、どこか痛々しい。


だが、実際は大和達の想像を超えた、大和達が望まない理由でナノマシン治療を受けているのは言うまでもない。







2日後…


純也は完全に回復し、すぐにでも復帰できるようになった。

そして、彼の体はさらに改良された。さらに高いGがかかっても平気でいられるし、副作用もかなり減った。

唯一、奴だけは居座り続けているが。



純也が自室に向かって歩いていると、大和姉妹が向かいから歩いてきた。

大和、武蔵、信濃、近江の心配さと嬉しさが入り混じったような微妙な視線を受ける純也だが、眉一つ動かさずに自室へと入った。



「お兄ちゃん……何で……?」

「そっとしておいてあげて、武蔵」

大和が静かに言った。

「でも、心配だよ!!」

「ダメ!! 逆効果だから……」

「うぅぅ~」

逆効果と言われてしまえば、武蔵も行動できない。

「行こうぜ、みんな」

すっかり、いつもの調子に戻った近江が言った。

「………………」

信濃だけが、純也の部屋を見つめ続けていたが、しばらくしてみんなを追いかけるように、信濃も立ち去った。





その夜……


いつもは純也と一緒の部屋で寝る大和も、今の純也と一緒にいるのは気まずいので、他の空き部屋で寝ていた。


だが、そんな中でも純也に接触を試みる艦魂がいた。


「……少尉……」


信濃である。彼女は純也の部屋のドアを開けて中に入った。

純也はまだ寝ていなかった。ベッドに座ってただ、床を見つめていた。

「……少尉?」

「……なんだ?」

聞いただけでも、純也が相当ストレスをため込んでいることがわかるような声に、信濃は純也を可哀想に思った。

「……今日、ここにいていい?」

純也も少し意外だったようで、一瞬目を丸くした。

「好きにしろ」

「……ありがとう」

信濃は純也の横に、ちょこん、と座った。信濃が無口なこともあってか、静かな時間が訪れた。

しばらくの沈黙の後、信濃が口を開いた。

「……少尉、アナタは何がしたいの?」

純也は質問の意味が一瞬、理解できなかった。

が、すぐに復讐についての事だとわかった。簡単なことだ。

「俺の前に出てきた敵を生かして帰さない。脱出しても、パイロットを殺す。退艦しても、ボートごと沈める」

「……少尉、きっとあなたを助けた中尉さんも、そんなこと望んでない」

「………………」

純也は言い返せなかった。心のどこかでは、同じことを言っている自分がいるからだ。

だが、復讐していいんじゃないか、とも思っている自分もいる。

だって……そうだろう?


復讐でも何でもいいから敵を殺す。そうすれば、その敵が殺すはずだった味方が救われる。最初からそうすれば、菊常中尉もあんな事にはならなかったかもしれない。

なら、せめて今からでもそうすべきではないか?

どうせ、インドとの講和は、あっちが降伏するまで有り得ない。ならば、いくら非人道的な殺し方をしても問題ないだろう。



「……少尉、私は……本来のあなたでいてほしい……」

「本来の俺、か……」

「……うん。今の少尉は……痛々しくて見ていられない」

「なら、見なければいい」

「……嫌!」

いきなり信濃の口調が強くなって、純也は怪訝に思いつつ、信濃の顔を見た。

少し意外な状態だった。

信濃は目尻に涙を浮かべていたのだ。紅潮した頬は、怒りによるものか。

「……あなたは、あなただけの存在じゃない! 私にとっても大切な人!」

信濃はついに涙を流し、顔を俯かせた。


そして、今。純也の脳裏に新たな言葉が浮かんだ。


もし、俺が死んだら、コイツらも俺みたいに復讐するのか?


純也は、なぜかそうなることが嫌だった。みんな優しかったり、元気だったりと、普通の女の子みたいな艦魂達が復讐……。



純也の荒んだ心でも、それは許容できないものだった。

純也は復讐しても、得るものなど何もないし、それぐらいなら生かされた命を精いっぱい生きる方がいいと、頭の中では理解していた。

……だが、感情の方が理性に反発するのだ。



「……俺は……どうすればいいんだ……?」

純也は自分のすべきことがわからなかった。

「……少尉、復讐するくらいなら……私を護って……?」

「!?」

信濃の発言に、一瞬頭が真っ白になる純也。

「……お願い」

そう言って、信濃は純也に抱きついた。

純也は、それでもやるべきことがわからなかった。

だが、進展があったのは確かだ。

「考えとくよ」

「……ありがとう」

そして、何日ぶりだろうか……


純也は久しぶりに彼本来の優しい笑みを、一瞬だが浮かべた。


もちろん、復讐を諦めたわけではない。だが、復讐以外の選択肢も得ることができたのだ。



「……少尉、大和姉さんみたいに名前で呼んでいい?」

「……好きにしたら?」

「……ありがとう、純也」

「ぶっ!!」

大和みたいに、って言うからてっきり‘純也さん’だと思っていたが……


信濃は意外と積極的なのかもしれない。



結局、信濃は朝まで純也の部屋にいた。純也が寝た後、信濃は勝手に純也の隣で寝たのだ。

朝起きたら、隣で見た目が15歳くらいで、あどけない表情で眠る信濃を見た純也が、内心大慌てしたのは言うまでもない。


実際は、冷静を装って信濃を起こして、部屋から出したのだが。






その後、信濃の行動を知った艦魂達が、彼女の命を狙ったのは、また別の話……




作者

「純也の精神状態が少しずつ安定してきたね」


陸奥

「でも、前の話ではびっくりしたわ。近江があんなにか弱い子だったなんて」


作者

「意外だよね~」






大和

「純也さんの部屋に侵入!? 信濃、いくら妹でも……」


信濃

「……純也は姉さんだけのものじゃない」


武蔵

「呼び捨て!? お兄ちゃんを呼び捨て!?」


信濃

「……純也が許可してくれた。文句は言わせない」


近江

「くそぉ~。俺だけ階級か……。俺も名前で呼ばせてほしい……」






作者

「純也があの状態になっても、彼女達は変わらないね」


陸奥

「そうね」




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