第14話 純也の変化
救助作戦が成功したという知らせを聞き、大喜びする艦魂達は純也に会うために大和飛行甲板に向かった。
海竜は駆逐艦所属機だが、純也が大和所属のため、先に大和へ着艦してから駆逐艦に戻るらしい。
「純也さん……生きてるって信じてました……」
「お兄ちゃんは強いからね」
「……良かった……」
「まったく……心配かけやがって……」
「少尉が死んだら……私、自殺してましたです……」
「お姉ちゃん、ダメです!!」
「こうなったら少尉を意地でも延命すべきです。死んでも生き返ってもらうです」
「少尉には神楽お姉ちゃんと一生、一緒に暮らしてもらうです!」
艦魂達がそれぞれ言いたい放題にしているが、ついにヘリコプターが来た。
歓声を上げる8人の艦魂。
だが……
彼女達に与えられたのは深い悲しみと絶望だった。
2つの意味で……
片方はすぐに訪れた。
ヘリコプターが着陸してまず、兵士が1人降りて叫んだ。
「救護班!! 瀕死の兵がいる!! 早く来てくれ!!」
そう言っている間にその瀕死の兵士が他の兵士に、肩に引っ掛けて引きずられるように出てきた。
黒いパイロットスーツは血まみれで弾痕が生々しいほどある。甲板に血のレッドカーペット引いていたのは……
純也だった。
「あ……あっ……」
大和は声が出なかった。血まみれで意識もなく、まるで死体のような純也。
大和は足が震えて、ついに座り込んでしまった。
他の7人も似たり寄ったりの状態だ。
いつも冷静な信濃でさえ、目を見開き、呆然としていた。まるで……目の前の状況を理解できないような、そんな状態だった。
純也は救護班の担架に乗せられて、医務室に直行した。
純也がいなくなって10秒ほど後に、本日2回目の艦魂達の悲鳴が響き渡った。
2日後、大和は純也がいる医務室にいた。今は1人だ。
「純也さん……どうして……こんな……」
彼は今、生死をさまよっている。体の損傷が激しく、助かっても、まともな体かどうかは微妙らしい。彼はずっと昏睡状態だ。
「純也さん……私を残して死なないで……下さい……」
涙を流しながら大和は言った。
この4日後、純也は意識を取り戻した。
だが、彼は変わってしまっていた。その事実は純也のことが好きな艦魂達の心を傷つけてしまう。
スパロー5である龍太の知らせで、純也の意識が戻ったことを知った、第二・三独立機動艦隊の艦魂、総勢18人は医務室に向かった。
だが、龍太と晴香ともう1人……純也の父親の谷水艦長の3人は会わない方がいいと言っていた。
だが、そんなことで諦める艦魂達じゃない。
それを聞いた谷水艦長は悲哀に満ちた目で言った。
‘後悔するな’と。
長門と陸奥以外の艦魂達はその言葉をまったく気にかけていなかった。
だが、長門と陸奥はある情報を得たのだ。菊常中尉のことである。
それを聞いていた長門と陸奥は、もしや、と純也の状態について最悪な予想をしていた。
そして……予想は当たり、2つ目の意味での悲しみが艦魂達を襲った。
医務室に入ると、ベットの上で純也は座っていた。……というより、上半身を起こして窓から海を見ていた。
「純也さん……」
大和がポツリと呟く。その呟きを聞いたのか純也が包帯だらけの頭をこちらに向けた。
……が、一瞬見ただけで顔を窓に向けた。
そして、一言。
「出てけ」
え?
艦魂達は純也の台詞の意味がわからなかった。
そこで冷静だった長門姉妹の妹、陸奥が言った。
「やっぱり憎んでるのね……菊常中尉のことで」
長門姉妹以外の艦魂にはチンプンカンプンな話だ。
「ああ。……絶対に許さない……!!」
あまりの迫力に戦慄する艦魂達。
「アナタ……復讐する気ね」
長門が珍しく真面目に言う。
その言葉に驚いたのは大和と近江だ。大和と近江は純也に色々と世話になった彼女達は、純也は復讐はしない、というポリシーであることを知っていたのだ。
彼女達じゃなくても、他の艦魂達も知っていた。純也には復讐など似合わないことを。
だからこそ……
艦魂達は猛烈に反発した。
「純也さん!! アナタは私に復讐してはいけないって言ったんですよ!? そんな感情で敵を倒したって……」
「知るか。インド人の屑を皆殺しにしてやる……!!」
まるで純也じゃないようだ。大和は思った。
「お、おい……。少尉らしくねーぞ?」
近江の言葉に純也は想像を絶する言葉を放った。
「俺らしいって何だ? お前は俺という存在の全てを理解しているのか? お前ら艦魂が、俺に元に戻ってほしいと思うなら、俺は谷水純也でいることをやめる!! インド人を皆殺しにするまで……!!」
怪我人とは思えない声の強さに、艦魂達は恐怖した。
そして、大和、武蔵、信濃、近江、神楽、嵐山は悟った。
自分達が大好きな純也は、もうすでに死んだのだと。
「わかったら帰れ!! お前らが知っている俺は死んだ!!」
しかし、大和と近江は帰らなかった。他の艦魂は帰ったのにも関わらず。
「純也さん……本気ですか?」
「……少尉、俺は……信じられないよ……」
大和と近江は泣きそうな声で言った。だが、純也の心にさざ波はたたない。
「純也さん……私、信じてますから。また、いつもの純也さんに戻ってくれるって」
「俺もだ……だから……」
しかし、近江は感情を抑えきれなかった。そして、大和も驚いたが、純也もさすがに驚いた事態が起きた。
「あたし……少尉が、別人になるなんて耐えられないよぉ!!」
近江が自分を‘あたし’と言ったのだ。口調が変わったのだ。
そして、近江の本当の姿を見た。
「ううっ!!うっ……うっ!」
近江は、本当は泣き虫で、か弱い女の子だった。
その場に泣き崩れる近江を見て、さすがの純也も驚いた。大和も驚いた表情をしている。
だが、純也の意志は固かった。
「泣かれても……変わらない。敵討ちはする」
「うっ……ううっ……少尉ぃ……」
だが、純也にも少し心の変化が表れた。
「ごめんね……近江」
純也は確かにそう言った。かなり小さな声だったが、大和と近江は聞いたのだ。
彼は……いつもの純也は死んでなどいなかった。
それがわかっただけでも、大和と近江には充分だった。
「純也さん……信じてます。私はあなたが再び元の優しい純也さんに戻ってくれることを信じてますから」
大和は、かわいい……というより、綺麗な微笑を浮かべて医務室を出て行った。
「少尉……やだよ……ずっと、そんなのだったら。あたし……本当にやだよ……!」
近江は泣きながら訴えた。だが、すぐにこう付け加えた。
「でも……優しい少尉は死んでないよね……? あたしも信じてる……」
そう言って近江は立ち上がり、医務室を出て行った。
1人残された純也は呟いた。
「みんな……ごめんよ……。でも、許せないんだ。間違っていても……許せないんだ……!」
近江が出てくるのを医務室の外で待っていて、近江と合流した大和。その大和に近江は頼み事をした。
「お姉ちゃん、このこと……黙っといてね?」
このこととは、近江の性格のことだろう。
「わかったけど……どうして自分の性格を隠すの?」
大和は当然気になる疑問をぶつけた。
近江も予想していたようで、一度頷くと説明をしてくれた。
近江の友人であった老朽艦が空軍の実弾訓練の標的になったのは、物語を読んできた読者の皆様には覚えて頂けていることと思う。
その時に近江は決めたのだ。強い自分になることを。強がりでも、相手に弱いところを見せないと。
結局、純也には見せてしまったが。
「なるほど。……辛かったんだね、近江……」
「うん……」
「たまには、私を頼ってよ? 私はアナタのお姉ちゃんなんだから」
「お、お姉ちゃん……。……うん!!」
そう言って近江は大和を抱き締めた。
「お、近江……ち、力強すぎ……い、息……くるし……」
「ご、ごめん……!」
近江は大和の消え入りそうな悲鳴を聞いて、慌てて解放した。
そして、2人は見つめ合って微笑むのだった。
作者
「純也の精神状態が……」
長門
「大和ちゃんを傷つけた罰~」
作者
「プラズマ弾頭のロケットランチャー……やめろ……洒落にならんぞ?」
長門
「あらら~。本気よ~? ふふふ~」
作者
「わかった!! お前の大和への愛はわかったから、笑顔で死刑宣言すな!! 怖いから」
陸奥
「騒がしいわね、まったく……。読者の皆様、こんな駄文に付き合ってくれてありがとうございます。感想とかもお願いしますね。ああ、そうそう。何でも書いて構いませんよ。この作品に関係あるなら。お気軽に……ってヤツです。……まぁ、こんな小説、感想を書くまでもない、っていう人もいるかも知れませんけど」
作者
「俺が悪いと言いたそうな目で俺を見るな!!」
陸奥
「アナタがわるいんでしょ。バカ」
作者
「くそぉ!! 否定する要素が見当たらない!!」




