第12話 北京強襲partⅤ
再び交戦する2人のエースパイロット。彼らは、最後の最後まで関わり合うことになる……。どんな形になるかは、ここでは言わないが、少なくとも今は交戦状態だ。
純也の烈火とアレンのトルネードが圧倒的な高G機動で互いを撃墜しようとする。周囲では敵味方入り乱れた大乱戦だ。
アレン機が烈火に粒子機関砲を撃つが、華麗にかわされる。逆の場合も同じ。
輝く粒子をばらまきながら、乱舞する2機。
互いに背後を狙い、取られては取り返す一進一退の攻防。
「やはりあの時の……!! だが、墜ちてもらうぞ!?」
純也は激しい高G機動を取りながら言った。
……その時。
「ぐっ……!!」
頭に強烈な痛みを覚える純也。それでも機動は変えない。
頭の中に別の意識があるような感覚。アイツだ。
オイ……俺ニ変ワレ。俺ガあいつヲ破壊スル。俺ニ‘殺シ’ヲサセロ……。
ダメだ!! 貴様は寝てろ!!
ナゼダ? 俺ハ日本軍ノ為ニ敵ヲ殺スノニ……
お前は危険なんだ!!
失せろ!!
クソ……イツカ変ワッテモラウゾ……
誰が変わるか……!
ようやく解放された純也は敵機との戦闘に集中した。
ようやく……とは言っても15秒程度だが。しかし、ドッグファイトで15秒は長い。あの状態で高G機動を続けられた純也は、やはり逸材であろう。
大和CIC
「大和航空隊隊長機……シグナルロスト……」
CIC要員が力無く言った。その言葉に、大和は驚愕した。
「あの人が……」
深い悲しみに襲われる大和。久我山大尉は艦魂は見えないが、純也と仲が良く、よく話をしている光景を目にしていた。
その人が……死んだ?
大和は倒れそうになった。知っている人が殺された。彼女にとっては、かなりの重荷だった。
「姉貴……しっかりしろ!」
近江の声で我に返る大和。
「少尉が言ってたろ!? 戦争では誰が死ぬかわからないって!!」
「う、うん……」
「少尉も悲しんでるだろうけど、それでも戦ってるんだ!! 姉貴がそんなんでどうすんだよ!!」
そうだ……純也さんも戦ってるんだ。
私もしっかりしなきゃ……。
そう思った大和。だが次の瞬間、大和はともかく、艦魂達を大混乱に陥らせる報告が届いた。
CIC要員が大声で叫ぶ。その内容は……
「スパロー3、戦闘中の敵機とともにシグナルロスト!!」
一瞬、思考が止まる艦魂達。
シグナルロスト……識別信号途絶。つまり、墜落。
「えっ……え……?」
戦略マップからスパロー3が消滅している。その事態を唖然として見る艦魂達……。
そして、その後。
普通の人間には聞こえない、悲しみにとらわれた艦魂達の悲鳴が、CICに響き渡った。
純也が撃墜される30秒前。
「そうだ……!」
純也は敵機を行動不能にする方法を思いついた。最後のミサイルを2発選択し、誘導方法を座標指定に変更し、発射。
それぞれのミサイルは、旋回する敵機の前方に突っ込んだ。
敵機の目の前で爆発し、パイロットの視界を奪う。敵機は思った通り、爆発をかわしていく。
……がその先、至近距離にミサイル。
ミサイルは座標指定なので直撃はしないものの、敵機に致命傷を与えた。
「やった……!」
純也はトドメをさすために敵の背後についた。
……が、勝利を確信していた純也に思いもよらない事態が襲いかかる。
敵機がコブラをしたのだ。だが、背後を取り返すような機動じゃないし、そもそも機体が破損していて、敵の残されたのは失速して墜落する未来だけだ。
だが、その機体は純也の烈火の進路上にいたのだ。そして、コクピットから噴射炎。敵のパイロットが脱出したのだ。
そこでようやく敵の目論見を理解した。
「くそっ!!」
純也は素早く脱出レバーを引いた。キャノピーが吹き飛び、座席が射出される。同時に機体中央部にある核融合ジェネレーターも射出された。
そのすぐ後に、パイロットのいない烈火とトルネードが高速で衝突し、大爆発を起こした。爆発したのは敵のトルネードだ。ミサイルが残っていたらしい。
爆発に吹き飛ばされた純也は、どうにか意識を手放さずにパラシュートを開いた。しかし、爆発で救援ビーコンが破壊された。
しかも……
「まいったな……いつの間に北京上空にいたんだ?」
彼が脱出したのは北京上空だった。
北京上空で爆発が起こった。
それを見たのは、地上にいるコマンド部隊だ。α部隊はすでに空軍基地を使用不能にした。α部隊がいなければ、最初のインド軍の航空隊の機数はプラス100されていただろう。
そして、今。α部隊計16人は燃料貯蔵基地を奇襲している。
計16人……4人は死んだ。まぁ、戸籍上もともと死んでいたのだが。
まだ海で戦っているはずの戦闘機が2機、交戦したまま北京上空に現れたときは、さすがのコマンド部隊も肝を抜かれた。
だが、敵機が味方機を道連れにしたときは、もっと驚いた。
「パラシュート……?」
七瀬竜也大尉は、味方機のパイロットのパラシュートを見つけた。
……が、マズい。あの方角は……
「隊長!! 味方のパラシュートが燃料貯蔵基地の方に!!」
「なんだとぉ!?」
隊長は叫んだ。
今、燃料貯蔵基地の近くのビルの影にいる。何の嫌がらせか知らないが、基地は北京都市部のど真ん中にあった。
「隊長……助けましょう!!」
竜也は進言した。
「当たり前だ。仲間を見捨てるほど、俺達は心が‘死んで’ない!!」
隊長は豪快に笑うと、全員に突撃命令を出した。
「くそっ!!」
純也は腰に携帯していた拳銃型レールガンを抜いて、撃っていた。
脱出して降り立った先が敵基地のど真ん中とは……
敵兵は純也の弾丸を食らって、鮮血を撒き散らして倒れる。
だが、純也はパイロットだ。地上戦はあまり得意ではない。
何らかの倉庫の影に隠れて応戦するが、敵は増えるばかりだ。
もう20人はいる。
さすがにここまでか、と思った純也の目の前で、敵兵はプラズマの光に焼かれた。プラズマ弾頭兵器だ。
「君、大丈夫かい!?」1人の兵士が敵兵士にリニアアサルトライフルを撃ちながら駆け寄ってくる。
「大丈夫です……助かりま……」
純也は驚いた顔をした。
「晴香……じゃ、ないな……」
その言葉を聞いて驚くのは、駆け寄ってきたコマンド部隊兵士の竜也の方だった。
「……! 晴香を知っているのかい?」
「はい。……って、アナタは死んだはずの……?」
「…………ああ。兄だよ……」
隠し通せないと思った竜也は余計な抵抗もせずに認めた。
「晴香は元気かい?」
「多分。上空がどうなってるかわかれば、晴香が無事かわかるんだけど……」
「は……?」
竜也の顔が唖然とする。
「え……?」
それを見た純也も唖然とする。
「もしかして……晴香は軍に……?」
「はい。アナタを追いかけて……。ご存知なかった? 彼女は第三独立機動艦隊旗艦『大和』の航空部隊です。俺と同じ部隊なんですが……?」
「何てことだ……」
悲観にくれる竜也を放って、銃撃戦は続く。
「何だかよくわかりませんが……とりあえず、何とかして脱出しないと……」
「そうだね……そういや、君の名前は?」
「谷水純也。階級は少尉です」
「谷水……第三独立機動艦隊司令長官の息子さんか……。僕は特務部隊所属七瀬竜也大尉。よろしく」
「よろしくお願いします。あなた方の任務は?」
「ここの破壊工作。地下にも燃料貯蔵庫があるから航空攻撃じゃ破壊しきれないかも……ってことらしいけど。まぁ、都市のど真ん中にあるのも理由かな」
「なるほど。俺1人では何もできないのでご一緒します」
「わかった、純也君」
こうして、デッドフォースα部隊+純也の燃料貯蔵基地破壊作戦が始まった。
一方、上空では……
「くっ……。敵が多い!」
スパロー最後尾の晴香が敵1機と交戦し、苦戦していた。
背後を取ってもすぐに取り返されて、の繰り返しだ。
先ほど、隊長と純也の反応が消滅したことに戸惑いを隠せない晴香は、焦っていた。
なかなか撃墜できない。
そして……
コクピット内に警報が鳴り響いた。ロック警報だ。至近距離。次の瞬間には粒子機関砲で粉砕される……。
だが、そのときは来なかった。いきなり敵機が爆発したのだ。そして、敵機の爆炎の影から現れる烈火。
「大丈夫か、スパロー8!?」
「ありがとう、スパロー5!」
下山龍太……晴香や純也と同じく、勘魂が見える友人だ。
敵のPMC航空隊は全滅だ。しかし、烈火の残存機も26機と最初の半分以下だった。
「こちら大和、全機帰還しろ。敵航空戦力は殲滅した。繰り返す、帰還せよ」
「だってさ、帰るぞ?」
「……うん」
2人の烈火も艦隊がいる方向へ引き返した。
「ここに爆弾を仕掛けろ!」
α部隊と純也は基地の地下で破壊工作を行っていた。
巨大な壁の向こうには燃料が満載だ。
敵兵士が現れては銃を撃ちまくるα部隊。もうすでに3人の隊員が撃ち殺された。
「脱出だ。階段を登れ!」
部隊は螺旋階段を登って地上に逃げる。地上まで50メートルといったところだ。
部隊の最後尾の隊員が足を撃たれる。
倒れ込んだ隊員を助けようとした純也だが、倒れ込んだ隊員がそれを拒んだ。
「来るな! 逃げろ! 時間稼ぎしてやるから!」
「……っ! ありがとうございます!」
敬礼して、ダッシュで階段を登る純也。
倒れ込んだ隊員はリニアアサルトライフルを撃ちまくって敵を足止めしてくれた。
おかげで彼以外の全員が地上に出られた。
「基地から出るぞ、行け!!」
隊長が叫んだ。
そして、基地から脱出したと同時に基地が大爆発を起こした。さすが、燃料貯蔵基地。
すると、上空からヘリコプター2機が着陸した。海竜だ。
おそらく、神楽級駆逐艦の艦載機だろう。
こうして、純也は意外とあっさり北京から脱出できた。
……と思っていたが。
「対空ミサイル!!」
ヘリコプターパイロットが叫んだ。
只今、4機の海竜が飛行している。
α部隊2機、β部隊2機だ。
その内の1機……純也が乗るヘリコプターにミサイルは当たった。
「被弾!! 墜落するぞ!!」
パイロットのそんな絶叫を聞きながら、純也と、一緒に乗っていた竜也、他4名の兵士は地面に叩きつけられた。
作者
「なんか……当初の予定からだいぶ外れてきたな……内容が」
陸奥
「そんなもんじゃない?」
作者
「そうか?」
陸奥
「そうよ」
…………………………。
会話の続かない2人。
信濃
「……感想よろしく……」




