雪
「東京、行くから」
玲にそう言われて、碧は固まった。
「……急にどうしたの、玲」
必死に絞り出した言葉が、宙に浮いて、消える。玲はじっと、どこかを見つめている。
「俳優に、なろうと思って。ほら、ずっと言ってたじゃん」
玲はへらっと笑ってそう言った。けれど、碧には、その笑顔の裏には期待だけでない、色々な感情が混ざっているように思えた。
「だから、さ、碧。別れよう」
「え……」
「だって、新しい人生になるわけだから。お互いがいない方が、幸せになれるかもしれないよ」
そんな玲の言葉に、碧は一人落胆した。碧にとっての玲という存在と、玲にとって碧という存在は別であると、遠回しに突き付けられたようだった。
「そっか、そうだね。別れよう、玲。じゃあね」
口早にそう言って、碧は玲に背を向けた。「あ、ちょっと待って……」という玲の言葉が、聞こえないふりをした。
***
碧にとって、玲はいつも尊敬できる人だった。玲の純粋さ、ひたむきさ、明るさ、すべて碧にはないものだった。碧はいつも玲にあこがれていた。玲はいつも輝いていた。
碧はずっと、玲のことを見てきた。うまくいかないときも、つらいときも、ずっとそばにいた。だからこそ、玲もずっと碧のそばにいると思っていた。
「なんで……」
一人、碧はつぶやいた。誰もそのつぶやきに答えない。
碧の心はどんどん冷えていくばかりだった。




