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受付窓口9

辞められない受付男子/加護の意味とは


 ダンジョンの入口は、思っていたより狭かった。


 冒険者たちは、ここから中へ入る。

 俺は――本来、ここで見送る側だった。


 それなのに今、

 俺はその前に立っている。


 剣はない。

 魔法もない。

 防具も、冒険者証もない。


 あるのは、

 長い間、机の向こうで使ってきた判断だけだ。


 ――それでも。


 ダンジョンは、俺を拒まなかった。


 足を踏み入れた瞬間、

 懐かしい感覚が戻ってくる。


 構造。

 魔力の流れ。

 罠の配置。


 〈ダンジョンガイドの加護〉が、

 ここでは、はっきりと息をしていた。


「……まだ、終わってないのか」


 誰に言ったわけでもない言葉。


 声が、返ってきた。


 ――終わっていない

 ――お前が、まだ“選別している”


 ダンジョンの声だった。


「俺は受付をやめた」


 ――役職を捨てただけだ

 ――役割は、捨てていない


 足元の石が、わずかに脈打つ。


 ――問う

 ――お前は、誰を通す

 ――誰を、止める


 胸の奥が、痛んだ。


 俺は今も、

 無意識に“生き残る道”を選んでいる。


 危険な分岐を避け、

 崩れかけた床を回り、

 一人で生き延びるためのルートを取っている。


 それは、

 冒険者の動きじゃない。


 ――受付の動きだ。


「……結局、俺は」


 ――そうだ

 ――お前は、辞められない


 ダンジョンは、

 責めるようでも、嘲るようでもなかった。


 ただ、事実を述べているだけだった。


 ――加護とは、力ではない

 ――役割だ


 そこで、理解した。


 〈受付男子〉

 〈ダンジョンガイド〉


 それは、

 強くなるためのものじゃない。


 選ばせるためのものだ。


 誰が入るべきで、

 誰が引き返すべきか。


 誰が死に、

 誰が生きるか。


 その境界に、

 立ち続けるための加護。


「……最低だな」


 ――だから、必要だ


 ダンジョンの声が、少し低くなる。


 ――英雄は、前に出る

 ――だが、世界は

 ――前に出ない者の判断で回っている


 思い出す。


 彼女を止められなかった朝。

 嘘をついた窓口。

 名前を呼ばなかった夜。


 俺は、

 受付であることから逃げた。


 でも――

 受付でしか、できないことがある。


「……分かった」


 足を止め、深く息を吸う。


「俺は、前には出ない」


 ――それでいい


「でも、もう嘘はつかない」


 ――代価は重いぞ


「構わない」


 受付は、

 剣を持たない。


 だからこそ、

 一度の判断が、取り返しをつかない。


 ――それでも。


 俺は、再び立つ。


 窓口の代わりに、

 ダンジョンの中で。


 冒険者を導くためじゃない。

 世界に、選択を突きつけるために。


 辞められない受付男子。

 それが、俺の正体だった。


 そしてこの加護は、

 呪いじゃない。


 ――責任だ。

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