受付窓口7
真実を語らない者は、
嘘をついているとは限らない。
ただ、
語る資格を失っただけだ。
受付という場所は、
信頼の上に成り立っている。
その信頼が崩れたとき、
残るのは、
制度と沈黙だけになる。
真実を語らない受付(信頼の崩壊)
最初に異変に気づいたのは、冒険者たちの目だった。
以前は、窓口に立つ俺を見て、
少しだけ安心した顔をしていた。
今は違う。
値踏みする目。
疑う目。
――信用していない目。
当然だ。
俺は、真実を語らなくなった。
「この依頼、危険度は?」
「……通常通りです」
水晶板は、沈黙している。
〈ダンジョンガイドの加護〉は、もう答えない。
だから俺は、
自分の感情だけで線を引く。
生きてほしい者。
どうでもいい者。
近づいてほしくない者。
受付がやっていいことじゃない。
分かっている。
だが――もう遅い。
昼過ぎ。
ギルドが、ざわついた。
「S級が戻ってきた」
その言葉で、空気が変わる。
――最悪のS級冒険者。
功績は本物。
生還率も高い。
だが、同行者の死亡率が異常。
自分だけが生き残る。
それを「判断力」と呼ぶ男。
そいつが、窓口に立った。
「久しぶりだな、受付」
顔を見た瞬間、
腹の底が冷え切った。
――俺を突き落としたグループ。
彼女が死ぬ原因を作った連中。
いや。
死んだと思わせた連中。
「紹介しよう」
S級が、後ろを示す。
フードを被った魔法使い。
細身。
慣れた杖の持ち方。
ありえない、と脳が拒否した。
それでも、足が震えた。
「……リーナ?」
彼女は、俺を見た。
でも、
何も映っていない目だった。
「この子、ダンジョンで拾ってな。
記憶が曖昧らしい」
嘘だ。
〈受付男子〉は、もう機能しない。
それでも分かる。
これは――洗脳だ。
「危険な依頼を受けさせてほしい」
S級が言う。
「この子の“実戦訓練”だ」
俺は、黙った。
本当なら、叫ぶべきだった。
引き剥がすべきだった。
でも――
俺はもう、真実を語らない受付だ。
「……問題ありません」
その言葉で、何かが完全に壊れた。
彼女が、俺を見た。
「受付さん」
知らない声だった。
「このダンジョン、危険ですか?」
答えは、一つしかない。
「……通常通りです」
S級が、笑った。
「助かるよ」
背中を見送りながら、
ギルドの冒険者たちが、俺を見る。
失望。
怒り。
理解不能。
「もう、あいつの言葉は信じるな」
誰かが、そう言った。
夜。
窓口に一人残る。
ダンジョンが、
久しぶりに囁いた。
――代価を払え
それだけだった。
彼女を救うには、
S級を止めるには、
俺自身が、
受付であることを捨てるしかない。
俺は、受付だ。
だから、前には出られない。
それでも――
突き落とされた場所から、
もう一度、選ばなければならない。
彼女か。
秩序か。
それとも、
全部を壊すか。
受付窓口は、
もう安全な場所じゃない。
ここは、
真実が殺される場所だ。
彼女は生きていた。
だが、彼の知る彼女ではなかった。
それを告げる言葉を、
彼は持たない。
嘘をついたからではない。
もう、
真実を通す力がないからだ。
冒険者たちは理解した。
この受付は、安全ではないと。
そして彼自身も理解している。
自分が、
最も危険な存在になったことを。
次の窓口で、
彼は選ばなければならない。
受付として世界を守るのか。
一人の男として、
全てを敵に回すのか。
――真実は、
もう窓口には置けない。




