表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

受付窓口6

受付の言葉は、

 助言であり、警告であり、

 時には命綱になる。


 だからこそ、

 それが真実であることを、

 誰も疑わない。


 ――一度だけ、

 嘘が混じった。

嘘の助言(彼女を失った代償)


 その依頼書を見た瞬間、胸の奥が冷えた。


 階層、構成、想定魔物。

 数字は整っている。

 だが〈ダンジョンガイドの加護〉は、沈黙していた。


 ――沈黙は、安全を意味しない。

 むしろ、その逆だ。


「次の方、どうぞ」


 現れたのは、四人パーティだった。

 剣士、重装、回復役、魔術師。

 魔術師の杖が、新品だった。


 それだけで、嫌な記憶が胸を掠める。


「この依頼、受けられますか?」


 剣士が聞く。


 本当なら、言うべきだった。


 やめておけ。

 今日は潜るな。

 このダンジョンは、人を奪う。


 水晶板は、はっきり示していた。


生存率:低

撤退推奨


 それでも――俺は口を開いた。


「……問題ありません」


 その瞬間、スキルが軋んだ。


 〈受付男子〉が、拒絶する。

 〈ダンジョンガイドの加護〉が、冷たく遠ざかる。


 嘘だと、世界に告げたのは俺自身だった。


「標準的な構成です。

 無理をしなければ、帰還できるでしょう」


 魔術師が、少し緊張した笑みを浮かべた。


「分かりました。行きます」


 背中を見送った瞬間、膝がわずかに震えた。


 ――ああ、これだ。


 彼女がいなくなってから、

 ずっと探していた感覚。


 同じ場所に立った感覚。


 夕方。

 帰還予定時刻を過ぎても、誰も戻らない。


 夜。

 探索不能の報告が届いた。


 詳細は、もう聞かなかった。


 窓口に立つ俺の前で、水晶板が赤く染まる。


判定:全滅


 誰かが、怒鳴った。


「なんで行かせた!」


 冒険者だ。

 以前、俺の助言で助かった男。


「受付の言葉を、信じたんだぞ!」


 その言葉は、剣よりも深く刺さった。


「……申し訳ありません」


 それしか言えなかった。


 夜。

 窓口に、一人で残る。


 彼女の杖は、まだそこにある。

 触れると、わずかに魔力が残っていた。


「俺は……正しいことを、やめた」


 声に出して、ようやく理解した。


 彼女を失って、

 俺は誰かを救う資格まで、手放した。


 それでも――

 受付をやめることは、できなかった。


 嘘の重さを、

 最後まで背負うために。


 ダンジョンは、沈黙している。


 もう、

 何も教えてはくれない。


 それが、

 彼女を失った代償だった。

彼女を失って、

 彼は壊れたわけではない。


 ただ、

 正しさを選ばなくなった。


 嘘は、誰かを守るためではなく、

 自分が立っていられる場所を

 保つためにつかれた。


 それでも、

 命は失われた。


 受付は、

 もう全てを語らない。


 次の窓口で、

 彼が口にする言葉は、

 本当か、嘘か。


 ――それを見抜ける者だけが、

 生き残る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ