受付窓口6
受付の言葉は、
助言であり、警告であり、
時には命綱になる。
だからこそ、
それが真実であることを、
誰も疑わない。
――一度だけ、
嘘が混じった。
嘘の助言(彼女を失った代償)
その依頼書を見た瞬間、胸の奥が冷えた。
階層、構成、想定魔物。
数字は整っている。
だが〈ダンジョンガイドの加護〉は、沈黙していた。
――沈黙は、安全を意味しない。
むしろ、その逆だ。
「次の方、どうぞ」
現れたのは、四人パーティだった。
剣士、重装、回復役、魔術師。
魔術師の杖が、新品だった。
それだけで、嫌な記憶が胸を掠める。
「この依頼、受けられますか?」
剣士が聞く。
本当なら、言うべきだった。
やめておけ。
今日は潜るな。
このダンジョンは、人を奪う。
水晶板は、はっきり示していた。
生存率:低
撤退推奨
それでも――俺は口を開いた。
「……問題ありません」
その瞬間、スキルが軋んだ。
〈受付男子〉が、拒絶する。
〈ダンジョンガイドの加護〉が、冷たく遠ざかる。
嘘だと、世界に告げたのは俺自身だった。
「標準的な構成です。
無理をしなければ、帰還できるでしょう」
魔術師が、少し緊張した笑みを浮かべた。
「分かりました。行きます」
背中を見送った瞬間、膝がわずかに震えた。
――ああ、これだ。
彼女がいなくなってから、
ずっと探していた感覚。
同じ場所に立った感覚。
夕方。
帰還予定時刻を過ぎても、誰も戻らない。
夜。
探索不能の報告が届いた。
詳細は、もう聞かなかった。
窓口に立つ俺の前で、水晶板が赤く染まる。
判定:全滅
誰かが、怒鳴った。
「なんで行かせた!」
冒険者だ。
以前、俺の助言で助かった男。
「受付の言葉を、信じたんだぞ!」
その言葉は、剣よりも深く刺さった。
「……申し訳ありません」
それしか言えなかった。
夜。
窓口に、一人で残る。
彼女の杖は、まだそこにある。
触れると、わずかに魔力が残っていた。
「俺は……正しいことを、やめた」
声に出して、ようやく理解した。
彼女を失って、
俺は誰かを救う資格まで、手放した。
それでも――
受付をやめることは、できなかった。
嘘の重さを、
最後まで背負うために。
ダンジョンは、沈黙している。
もう、
何も教えてはくれない。
それが、
彼女を失った代償だった。
彼女を失って、
彼は壊れたわけではない。
ただ、
正しさを選ばなくなった。
嘘は、誰かを守るためではなく、
自分が立っていられる場所を
保つためにつかれた。
それでも、
命は失われた。
受付は、
もう全てを語らない。
次の窓口で、
彼が口にする言葉は、
本当か、嘘か。
――それを見抜ける者だけが、
生き残る。




