受付窓口4
受付は、公平でなければならない。
依頼も、助言も、忠告も、
誰に対しても同じであるべきだ。
――たとえ、
その相手が、
自分の大切な人であっても。
この窓口は、
感情を置いて立つ場所だ。
俺の彼女はドジっ子魔法使い
彼女は、朝から転んだ。
ギルドの玄関で、何もないところにつまずいて、
手に持っていた杖を放り投げ、
書類を宙に舞わせて、
最後に自分で拾おうとして、また転んだ。
「いったぁ……」
見慣れた光景だ。
「……おはよう」
「おはよう! 聞いて、今日こそ完璧に呪文詠唱できる気がするの!」
根拠は聞かない。
聞くとだいたい、気合とか夢とか星の並びとか、そういう話になる。
彼女――リーナは、魔法使いだ。
それも、一応は優秀な部類に入る。
一応、というのが重要だ。
魔力総量は高い。
理論理解も深い。
詠唱速度も速い。
ただし――成功率が低い。
爆発する。
逆流する。
属性を間違える。
本人が吹き飛ぶ。
それでも、彼女は冒険者をやめなかった。
「今日のパーティ、どんな感じ?」
受付越しに、彼女が覗き込んでくる。
水晶板が、彼女のステータスを映した。
――危険。
単独行動不可。
後衛固定必須。
〈受付男子〉は、容赦がない。
「今日は……新人パーティだ。
スパルタ指導員がついてる」
「じゃあ大丈夫だね!」
その無邪気さが、少し怖い。
「無理はするなよ」
「しないよ!
たぶん!」
その“たぶん”が命取りなんだ、と言いかけて、やめた。
昼過ぎ。
訓練場から、軽い爆音が聞こえた。
嫌な音じゃない。
致命的じゃない。
でも、嫌な予感はする。
夕方。
彼女は煤だらけで戻ってきた。
「ただいま!」
「……無事か?」
「うん!
ちょっと火力調整間違えただけ!」
後ろを見ると、新人たちが全員生きている。
装備は焦げているが、歩けている。
スパルタ指導員が、腕を組んで言った。
「火力は事故るが、判断は早い。
詠唱ミスった瞬間、即撤退判断した」
珍しく、評価だった。
リーナは胸を張った。
「でしょ!」
その夜。
受付が閉まったあと、彼女はカウンターの内側に来て、椅子に座った。
「ねえ」
「ん?」
「私さ、強くないよね」
珍しい言葉だった。
水晶板は、彼女に対して何も言わない。
スキルは、感情までは映さない。
「でも、生きて帰るのは得意だよ」
俺がそう言うと、彼女は少しだけ笑った。
「それ、冒険者としてどうなの?」
「……最高だろ」
彼女は、また杖を倒した。
今度は転ばなかった。
ドジっ子魔法使い。
それでも今日も、生きている。
受付窓口は、
恋人を見送って、
恋人を迎え入れる場所でもあった。
――それが、どれだけ危うい奇跡かを知りながら…。
ドジでも、失敗しても、
生きて帰ってくることには価値がある。
それが分かっているからこそ、
受付は笑えない。
見送る背中が、
いつもより近いときほど、
不安は大きくなる。
次も、きっと大丈夫。
そう思いたい夜が、
一番危ない。
受付窓口は、
今日も開いている。
――帰ってくると、信じながら。




