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受付窓口30

物語に終わりはある。


 だが人生に終わりはない。


 受付男子の一日は、


 今日もどこかで続いている。


 たとえ頁が閉じられても。

「受付男子という生き方」


 窓口は、今日も騒がしい。


「番号札二百三十一番の方ー!」


「まだ呼ばれないの!?」


「本日ダンジョン三層は封鎖です!」


「聞いてないぞ!?」


「今決まりました!」


 怒号。


 悲鳴。


 理不尽。


 ――いつも通りだった。


「あなた」


 背後から声。


 振り返らなくても分かる。


「休憩、取っていますか?」


「取れると思う?」


「取ってください」


 皇帝姫は容赦がない。


 王家の警護兵たちが遠巻きに緊張している。


 十倍警護はやはり異常だと思う。


「大丈夫ですよ」


「何が?」


「慣れましたから」


「慣れるな」


 笑顔で言うな。


 だが。


 この光景も、もう日常だった。


「受付男子」


 別の声。


 受付マスター。


「例の苦情案件、処理済みです」


「早くないです?」


「あなた基準で話さないでください」


 理不尽だ。


「……相変わらずだな」


 ふと漏れた本音。


「何がです?」


「世界ってやつは」


 窓口に立つ。


 書類を受け取る。


 怒鳴られる。


 謝る。


 裁く。


 説明する。


 そして。


 また次へ。


「だが」


 昔を思い出す。


 冒険者になりたかった。


 剣を振るいたかった。


 ダンジョンを攻略したかった。


「悪くない」


 今はそう思える。


「珍しいですね」


 姫が首を傾げる。


「何が」


「あなたが前向きなことを言うなんて」


「失礼だな」


「事実です」


 否定できない。


「受付は地味で」


「戦いもなくて」


「ハズレスキルだと思っていた」


 全部、本音だった。


「でもな」


 窓口の向こうを見る。


 冒険者。


 商人。


 新人。


 ベテラン。


 泣いている者。


 笑っている者。


「ここが最前線だった」


 マスターが僅かに目を細める。


 姫が静かに微笑む。


「世界の境界線」


「人と危険の狭間」


「無数の物語が交差する場所」


「――それが受付」


 気付けば。


 俺は。


 ちゃんとこの仕事を好きになっていた。


「後悔は?」


 不意に姫が問う。


「無い」


 即答だった。


「一度も?」


「一度もだ」


「嘘ですね」


「なぜ分かる」


「顔に書いてあります」


「やめろ」


 だが姫は笑う。


「それでも」


「今の顔は嫌いじゃありません」


「どんな顔だよ」


「受付男子の顔です」


 意味が分からない。


 だが悪い気はしなかった。


「番号札二百三十二番の方ー!」


 また呼び出し。


 また業務。


 また日常。


「……行くか」


 書類を手に取る。


 説明を始める。


 世界は相変わらず面倒で。


 理不尽で。


 騒がしくて。


 だが。


 それを処理する場所がここにある。


 なら。


 悪くない。


 受付男子という生き方も。

一旦の幕引きである。


 だが。


 ダンジョンは消えず、


 世界の理不尽も消えず、


 そして窓口も消えない。


 受付男子は今日も働き、


 皇帝姫は今日も隣で笑い、


 受付マスターは今日も胃を痛めているだろう。


 この物語が再び開かれるかどうかは、


 まだ誰にも分からない。


 けれど確かなことが一つだけある。


 ――受付窓口は、いつでも開いている。


 また来るかもしれない、その日のために。

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