表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

受付窓口3

強い者が、生き残るわけではない。


 生き残った者だけが、

 強さの形を知っている。


 怒鳴る声の裏にも、

 黙って差し出される手の裏にも、

 理由がある。


 この窓口を通るのは、

 冒険者だけではない。


 生かす側の人間も、またここを通る。



スパルタ指導員/妻の二刀流


 その女は、最初から目立っていた。


 背筋が異様にまっすぐで、足音が静かすぎる。

 鎧は実用一点張り、装飾なし。

 腰には短剣が二本――使い込まれた刃だ。


 冒険者登録の列に並ぶ新人たちが、無意識に距離を取っていた。


「次の方、どうぞ」


 俺が声をかけると、女は一歩前に出た。


「新人パーティの指導枠、空いてる?」


 言い方が、依頼じゃなく確認だった。


 水晶板が反応する。


 ――強い。

 いや、生き延びている。


 何度も死にかけて、

 そのたびに引き返す選択をしてきた人間の数値。


「あります。ただし……かなり厳しい内容になります」


「それでいい」


 即答だった。


 後ろで、新人の一人が喉を鳴らした。

 怖がっている。でも、目は逸らしていない。


「私は教える。

 言うことを聞かない奴は、置いていく」


 そこで、少しだけ言葉が止まった。


「――殺さないために、ね」


 その瞬間、〈受付男子〉のスキルが告げた。

 この女は、信用できる。


「担当、お願いします」


 俺がそう言うと、女は小さく頷いた。


 その日の夕方。

 ギルドの裏手で、怒鳴り声が響いた。


「構えが甘い!

 それでダンジョン入る気か!」


 スパルタ指導。

 泣きそうな新人。

 それでも誰も逃げなかった。


 理由は、もう一人いたからだ。


 訓練場の端。

 木箱に腰掛けて、静かに剣を磨く女性。


 細身の体に、同じく二本の刃。

 動きは穏やかで、視線だけがよく通る。


「……あの人、奥さん?」


 新人の一人が、小声で聞いた。


「そう」


 答えたのは、さっきの女だった。


「私が前で叩く役。

 あれは、拾う役」


 説明はそれだけ。


 訓練が進むにつれ、分かった。

 怒鳴られて崩れた姿勢を、

 無言で直すのが、妻の方だった。


 失敗した動線を、

 別の角度から示す。


 二刀流。

 攻めと守り。

 叱責と補助。


 新人たちは、生き残るための形を、初めて知っていく。


 受付に戻った俺は、水晶板を見つめた。


 ――このパーティは、死なない。


 確信があった。


 夜。

 女が窓口に来た。


「明日、第一層まで案内する」


「……無理はさせないでください」


 そう言うと、彼女は少しだけ笑った。


「無理をさせないために、

 今日は無理をさせる」


 隣で、妻が静かに頷く。


 その背中を見送りながら、俺は思った。


 冒険者になれなかった俺の代わりに、

 冒険者を生かす人たちがいる。


 受付窓口は、今日もその境目だった。

スパルタは、残酷に見える。

 だが本当に残酷なのは、

 何も教えないことだ。


 叱る者と、支える者。

 二人で一つの役割。


 それを理解できた新人は、

 一歩だけ、生き残りに近づく。


 受付の男は、前に出ない。

 だが確かに、

 このパーティの命綱の一端を握っている。


 次の窓口では、

 その「正しさ」が、

 別の形で試される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ