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受付窓口29

受付は安全な職業だ。


 少なくとも、そう思われている。


 剣を振るうこともなく、


 魔法を撃つこともなく、


 血に塗れることもない。


 ――だが。


 誰も知らない。


 窓口という名の最前線を‥。

「受付マスターランクとは何か」


「……お前、理解していないだろう」


 静かな声だった。


 だが妙に重い。


 執務室。


 珍しく王もいない。


 姫もいない。


 受付マスターと、俺だけ。


「何をです?」


「自分の立場だ」


 机に積まれた書類。


 いつもと同じ光景。


 なのに空気が違う。


「受付マスターランク」


 その言葉が出た瞬間、背筋に僅かな違和感が走る。


「名前の問題ではない」


「制度上の階級でもない」


「ましてや役職でもない」


「……違うんですか?」


「違う」


 即答だった。


 マスターは椅子にもたれ、天井を見上げる。


「受付とは何だと思う」


「え?」


「業務内容ではない」


「概念としてだ」


 珍しい質問だった。


 だが答えは自然に出た。


「……境界線、ですかね」


 マスターの目が細められる。


「続けろ」


「冒険者とダンジョン」


「国家と危険領域」


「生と死」


「その間に立つ存在」


 言葉にしてから気付く。


 受付とはただの職員ではない。


「正解だ」


 マスターは小さく頷いた。


「だからこそランクが存在する」


「力量ではない」


「責任でもない」


「では何なんです?」


 一拍。


「許容量だ」


「……許容量?」


「この世界の歪みを、どれだけ受け止められるか」


 意味が分からない。


「ダンジョンは災害だ」


「人は欲望だ」


「国家は都合だ」


「その全てが窓口に流れ込む」


 確かにそうだ。


 理不尽。


 矛盾。


 狂気。


 日常的に見てきた。


「普通の受付は処理する」


「優秀な受付は裁く」


「だが――」


 視線が刺さる。


「マスターランクは背負う」


「……何を」


「世界の後始末だ」


 冗談には聞こえなかった。


「受付マスターランクとは」


「制度の頂点ではない」


「人材の最高位でもない」


「この世界が選んだ“安全装置”だ」


 言葉を失う。


「ダンジョンが暴走しても」


「国家が狂っても」


「英雄が破滅しても」


「最終的に調整役となる存在」


「それが受付マスターだ」


「そんな……」


「だから希少なのだ」


 淡々と告げられる。


「能力では到達できない」


「努力でもなれない」


「加護と適性」


「そして――」


 一瞬の沈黙。


「異常性が必要になる」


「最後悪口ですよね?」


「最大級の褒め言葉だ」


 即答された。


「お前は理解していない」


「何を」


「自分がなぜここにいるのか」


 空気が重くなる。


「ハズレスキルだと思っていたな」


「……はい」


「違う」


 静かに断言される。


「受付男子も」


「ダンジョンガイドも」


「極めて危険な加護だ」


「危険?」


「世界に深く干渉する側の力だからだ」


 ぞくり、と背筋が冷える。


「お前は戦っていないのではない」


「常に最前線に立たされている」


「窓口という形で」


 何も言えなかった。


 確かに俺は武器を持たない。


 だが。


 毎日、何かと戦っている。


「受付マスターランクとは」


 最後にマスターが言う。


「この世界が“壊れてもいい範囲”を決める存在だ」


 笑えない話だった。


「……なりたくないんですが」


「だろうな」


「断れます?」


「不可能だ」


「やっぱりか……」


 深く息を吐く。


 するとマスターが僅かに笑った。


「安心しろ」


「何をです」


「大抵の者は途中で逃げ出す」


「安心要素どこ?」


「お前は逃げなかった」


「逃げられなかっただけです」


「同じだ」


 この世界は理不尽だ。


 だが一つだけ確かなこと。


 どうやら俺は――


 思っていた以上に、とんでもない立場らしい。

英雄はダンジョンで語られる。


 王は歴史で語られる。


 だが受付は語られない。


 なぜなら。


 何も起きなかった日常こそが、


 彼らの仕事の成果だからだ。


 受付マスターランク。


 それは栄光ではない。


 称号でもない。


 この世界が抱えきれなかった歪みを、


 黙って受け止める者への役割。


 そして受付男子は、まだ知らない。


 自分が既に――


 その領域へ踏み込み始めていることを…。

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