受付窓口27
王の問いは、時として命令より残酷である。
拒否は許されない。
沈黙も許されない。
選択だけが強制される。
――だが。
受付男子は、その前提を静かに破壊した。
「王の三択、受付男子の答え」
――謁見の間は、異様な緊張に包まれていた。
赤い絨毯の先。
玉座に座る国王の顔には、隠そうともしない怒気が浮かんでいる。
「貴様に問おう」
低く、腹の底から響く声。
壁際に控える近衛騎士たちすら視線を伏せた。
「受付窓口の業務を取るか」
一歩。
王が玉座から降りる。
「我が娘を取るか」
さらに一歩。
怒りの圧が空気を歪ませる。
「あるいは――」
足音が止まる。
「この国から消えるか」
完全な静寂。
誰も息をしない。
視線の全てが俺へと集まっていた。
(何だこの状況……)
理不尽にもほどがある。
だが王の目を見た瞬間、理解した。
これは王ではない。
父親の目だ。
「答えよ」
逃げ場はない。
言葉を誤れば国家問題。
普通なら喉が凍りつく場面。
だが。
「……どれも選べません」
自分でも驚くほど、声は平坦だった。
謁見の間がざわめく。
王の眉間が歪む。
「ほう?」
「前提が間違っています」
「何?」
「受付窓口は俺の仕事です」
王の怒気が増す。
「姫は俺の妻です」
さらに空気が張り詰める。
「比較対象になりません」
騎士の一人が息を呑む。
王の目が細められる。
「……つまり」
「どちらかを選ぶという発想自体が無意味です」
妙に落ち着いていた。
本音だからだ。
「俺は受付を辞めません」
王の瞳が鋭く光る。
「姫も手放しません」
不敬罪の匂いしかしない。
だが止まらない。
「消えるつもりもありません」
真正面から言い切る。
「全部、守ります」
空気が凍りつく。
やがて。
「……は」
王の口元が僅かに歪んだ。
「ははは……!」
突如、謁見の間に笑い声が響いた。
騎士たちが困惑する。
俺も固まる。
「愚か者め……」
王は肩を震わせながら笑う。
「王に対して損得で答えぬか」
「……受付なので」
「便利な言葉に逃げるな」
ぴしゃりと斬られる。
だが王は小さく息を吐いた。
「よい」
背を向ける。
「消えろなどと、本気で言うと思ったか」
「……え?」
「娘が選んだ男だ」
振り返らぬまま続ける。
「それほど柔な覚悟であるはずがなかろう」
思わず言葉を失う。
「ただし」
王の声が再び重くなる。
「泣かせた場合は別だ」
「……はい」
「国ごと潰す」
「規模がおかしい」
「王だからな」
あまりにも横暴で。
あまりにも父親らしい。
「下がれ、受付男子」
「は」
「業務が溜まっているのだろう?」
「……よくご存知で」
「娘から聞いている」
やはりか。
王は最後に小さく呟いた。
「まったく……」
微かな苦笑。
「厄介な男に嫁いだものだ」
謁見の間を後にする。
国家の頂点に睨まれたというのに。
(……窓口、混んでないといいな)
結局。
俺の思考は、いつも通りだった。
王として見れば暴論。
父として見れば正論。
立場が変われば、正しさの形も変わる。
それでも。
三択を前にしてなお、
この男の答えは異質だった。
捨てない。
譲らない。
逃げない。
合理性も打算もない。
ただ職務と感情を同列に置いた、
受付男子らしい愚直な答え。
そして王は知る。
娘が選んだ男が、
想像以上に面倒で――
想像以上に厄介な存在であることを。
物語は、さらに騒がしくなる。
王家を巻き込んだまま。




