受付窓口外伝
本編に影響はない。
国家もダンジョンも揺るがない。
ただの私闘。
――そう思っていた時期が、確かにあった。
⸻
外伝
皇帝姫 vs ドS級美人試験官
――決闘、あるいは誤解と災害
「決闘よ」
「異議ありません」
なぜ成立する。
なぜ迷いがない。
王国訓練場。
立つのは俺の妻――皇帝姫。
対するは、ドS級試験官エリゼ。
観客は異様な顔ぶれだった。
王国騎士。
受付職員。
なぜか高官。
なぜか情報局。
そして――
「……なんでこうなった」
当事者の俺だけが理解できていない。
「安心しなさい」
姫はやたら穏やかだった。
「殺しはしないわ」
「物騒な安心材料やめろ」
「試験の延長ですので」
エリゼも涼しい顔で言う。
「致命傷は避けます」
「お前も言い方を考えろ」
開始の合図。
瞬間。
空気が裂けた。
魔力衝撃。
地面の亀裂。
観客席の悲鳴。
「おい待て待て待て!」
俺だけが本気で焦っていた。
「規模がおかしいだろ!」
「皇族ですので」
「試験官ですので」
「説明になってない!」
常人基準で語ってはいけない二人だった。
激突。
爆音。
視界が揺れる。
――数分後。
「ふぅ」
なぜか互角で終わっていた。
衣服にわずかな乱れ。
呼吸の乱れはほぼゼロ。
何なんだこの怪物同士。
「……実力は認めるわ」
姫が言う。
「光栄です」
エリゼが返す。
なぜ少し分かり合っている。
だが問題はそこではない。
周囲のざわめきだった。
「なあ……」
「聞いたか?」
「試験官……」
「受験者に……」
嫌な予感。
非常に嫌な予感。
「……何の話だ」
視線が集まる。
受付職員たちが妙に気まずそうに逸らす。
「副長」
「えーとですね」
「言え」
「……その」
覚悟を決めた顔で言った。
「試験官殿がですね」
「うん」
「あなたのことを気に入っているのではないかと」
「は?」
意味が分からない。
「どこから出た話だ」
「態度」
「視線」
「距離感」
「言葉選び」
「全部異常です」
「待て」
本当に待て。
だが更に最悪なのは。
「…………」
姫の沈黙だった。
ゆっくり振り返る。
笑顔。
だが目が笑っていない。
「ねえ」
「何だ」
「詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「俺は何もしていない」
「あなたに聞いていないわ」
怖い。
本当に怖い。
「誤解です」
当のエリゼが即座に口を挟む。
「恋愛感情などありません」
「即否定もそれはそれで傷つく」
「ただし」
続けるな。
絶対に続けるな。
「受験者としては極めて興味深い存在です」
周囲が凍る。
姫の視線が鋭くなる。
「……興味?」
「ええ」
試験官は微笑んだ。
「壊れない受付など、滅多にいませんので」
「方向性が最悪すぎる」
受付窓口外伝。
危険な女は大抵、
好意ではなく
執着に近い評価を向けてくる。
そして俺は悟った。
この試験、まだまだ終わらない。
力の衝突は、理解を生むとは限らない。
だが時として、
誤解と誤解がぶつかることでしか
本音は浮かび上がらない。
皇帝姫。
ドS級試験官。
どちらも規格外。
だが最も異常なのは、
その間に立たされる受付男子である。
好意か。
興味か。
執着か。
危険な女ほど、境界が曖昧だ。
外伝とはいえ、
火種は消えていない。
むしろ――
静かに燻り続けている。
窓口の物語は、まだ続く。




