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受付窓口20

本編とは関係ない。


 命も世界も揺るがない。


 ただの、どうでもいい一幕。


 ――のはずだった。

給料の差

――これが皇族の姫なのか


 問題は、何気ない一言から始まった。


「ねえ」


 湯上がりの姫が、牛乳瓶を片手に首を傾げた。


「受付って、給金いくらなの?」


 吹きかけた。


「急だな」


「気になっただけよ」


 嫌な予感しかしない。


「……階級制だ」


「あなたは?」


「マスター受付」


「つまり上位よね」


「ああ」


「で?」


 仕方なく額を告げた。


 姫が固まった。


「……え?」


「だからそのくらいだ」


「……それだけ?」


「それだけって言うな」


 沈黙。


 そして、


「少なすぎない?」


 悪意ゼロの純粋な疑問だった。


 だが受付男子の心には刺さる。


「受付は公務職だ」


「危険手当もある」


「安定職だ」


「安定って……」


 姫が本気で理解できない顔をしていた。


「私の侍女より少ないわよ?」


「比べる相手が悪い」


「護衛騎士の半分以下よ?」


「職種が違う」


「臨時楽団員より――」


「やめろ」


 本当にやめろ。


 姫はしばらく黙り込み、

 やがて小さく呟いた。


「……命に関わる職業なのに」


 俺は少しだけ視線を逸らす。


「受付は戦わない」


「でも死線を管理してる」


「…………」


 言葉が詰まる。


 それを見て、姫はさらに追い打ちをかけた。


「国を支えてる職業でしょう?」


「言い過ぎだ」


「言い過ぎじゃないわ」


 静かな声だった。


「あなたがいなければ

 この街は崩壊するのでしょう?」


 否定できないのが厄介だった。


 そして――


 最悪の一言。


「ねえ」


「私の個人口座から補填していい?」


「絶対にやめろ」


 即答だった。


「なぜ?」


「受付の給金は制度だ」


「個人感情で歪めるな」


「でも不公平よ?」


「公平だ」


「どこが」


「全員同じ基準だ」


 姫は納得しない顔をしていたが、

 それ以上は言わなかった。


 ただ一言。


「……皇族って不便ね」


「今さら気づいたのか」


「違うわよ」


 小さく笑って、


「あなたの世界が、よ」


 受付窓口20。


 金銭感覚。


 価値観。


 立場。


 身分違いの結婚とは、

 こういう現実の連続である。


 そして俺はまだ知らない。


 この会話が後に、

 国家規模の問題へ発展することを。





おまけ


姫と自販機


「……ねえ」


「今度は何だ」


 温泉宿の休憩所。

 姫が壁際の機械を指差していた。


「この箱、何?」


「自販機だ」


「じはんき?」


「金を入れると飲み物が出てくる」


 姫の目が輝いた。


「魔道具!?」


「まあ似たようなもんだな」


「すごいわね異世界文明!」


 言い方。


 姫は財布を取り出し――固まる。


「……小銭が無いわ」


「両替してこい」


「嫌よ面倒」


「わがまま言うな」


 仕方なく俺が硬貨を入れる。


 ガコン。


 牛乳が落ちた。


「おお……!」


 本気で感動していた。


「選んだのはお前だろ」


「だって絵が可愛かったのよ!」


 基準が雑すぎる。


 姫は瓶を手に取り、しげしげと眺めた。


「これ、どうやって開けるの?」


「え?」


「え?」


 まさか。


「……知らないのか?」


「え、なに、特殊な魔法?」


「違う」


 俺は木の栓抜きを渡す。


 ポン。


「!!」


 姫が目を見開いた。


「なにこれ!?」


「栓抜き」


「原始的!!」


「うるさい」


 一口飲んで、


「……おいしい」


「ただの牛乳だ」


「嘘よ」


 真顔で言う。


「苦情を言いたくなる味じゃないもの」


「褒め方が受付基準すぎる」


 しばらく黙って飲んでいた姫が、

 ぽつりと呟いた。


「ねえ」


「ん?」


「あなたの仕事、やっぱり変よね」


「今さらだな」


「だって」


 牛乳瓶を揺らしながら笑う。


「飲み物ひとつでも

 世界の見え方が違うんだもの」


 受付窓口の男と、皇族の姫。


 価値観は違う。


 だが――


「……もう一本飲む?」


「飲む」


 こういうところは、妙に噛み合う。

英雄譚には残らない。


 歴史書にも記録されない。


 だが、こういう時間こそが、


 人間を人間でいさせる。


 ダンジョンも国家も加護も関係ない。


 ただ隣に誰かがいて、

 くだらないことで笑うだけ。


 それはきっと、


 どんな最強スキルよりも

 得難い奇跡なのだろう。


 窓口の外の物語。


 まだ、続く。

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