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受付窓口2


 受付は、ただ案内をするだけの場所ではない。


 冒険者がどこへ向かい、

 どの時点で戻らなくなるのかを、

 最初に知る場所でもある。


 この窓口から先に、

 剣は届かない。

 叫び声も届かない。


 届くのは、結果だけだ。


 帰還予定時刻を、三十分過ぎた。


 最初は誰も気にしなかった。

 ダンジョンではよくあることだ。戦闘が長引く、回復待ち、想定外の分岐。

 冒険者たちは、だいたい遅れて帰ってくる。


 一時間。

 二時間。


 カウンターの向こうで、俺は何度も水晶板を確認した。

 依頼番号、入坑時刻、パーティ構成。


 三人。

 剣士、魔術師、斥候。


 ――今朝、俺が止めたパーティだった。


「今日はやめておいた方がいいです」


 言葉は丁寧だったと思う。

 理由も添えた。罠の更新周期、魔力濃度の乱れ、下層の不穏な反応。


 剣士は笑った。


「受付の勘か? 俺たちは何度も潜ってる」


 魔術師は視線すらくれなかった。

 斥候だけが、少しだけ迷う顔をした。


 それでも、三人は行った。


 夕方、別のパーティが戻ってきた。

 血の匂いをまとって。


「……下層で、見つけた」


 報告は簡潔だった。

 遺体は二つ。

 残り一人は、見つからない。


 水晶板が、静かに色を変えた。


状態:未帰還 → 全滅判定


 その瞬間、胸の奥が冷えた。


 俺は受付だ。

 叫ぶことも、剣を取ることもできない。

 ただ、次の来訪者に向けて、顔を上げる。


「次の方、どうぞ」


 声が震えなかったことが、少し怖かった。


 夜。

 ギルドの灯りが落ち、窓口に誰もいなくなってから、俺は椅子に座り込んだ。


 止められたはずだった。

 確信が、あった。


 〈受付男子〉のスキルは、間違わない。

 〈ダンジョンガイドの加護〉も、警告を出していた。


 それでも――俺は、受付だった。


 権限はない。

 強制力もない。


 言葉だけだ。


「……冒険者になりたかったんだよ」


 誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。


 翌朝。

 ギルドの掲示板に、依頼が一枚追加された。


 「未回収遺体の捜索」


 俺は、その依頼書を、少しだけ長く見つめてから、窓口に立った。


 今日もまた、名前を呼ぶ。

 帰ってこないかもしれない名前を。


 それが、俺の仕事だった。



 「止めたのに行った」

 それは免罪符にはならない。


 言葉を尽くしたか。

 本気で引き留めたか。

 あるいは、諦めてしまったのか。


 受付という立場は、

 責任を負わずに済むようでいて、

 逃げ場がない。


 今日も依頼書は増え、

 掲示板の紙は新しく貼り替えられる。


 名前だけが、残る。


 次の窓口で、

 彼はまた判断を迫られる。


 それが誰の生死を分けるのか、

 分かってしまうまま。

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