受付窓口17
剣は、敵を斬る。
魔法は、脅威を焼く。
だが――
受付が向き合うのは、敵ではない。
怒り。
後悔。
そして、理不尽。
最も感情が渦巻く場所こそ、
窓口である。
苦情処理
――エース加護が生きる
受付窓口が一番荒れる時間帯は、
死人が出た直後でも、宝箱の取り分でもない。
苦情だ。
「話が違うんだよ!」
「聞いてない!」
「説明不足だろうが!」
怒鳴る冒険者は三人。
全員、Bランク。
実力も実績もあるが、今日は顔色が最悪だった。
「深層に固定罠があるなんて、
ガイドは一言も言ってなかった!」
俺は、即座に否定しない。
――ここで感情を返したら、負けだ。
〈受付男子〉の加護が静かに働く。
声の震え、視線の動き、言葉の選び方。
本気で怒っているのか、
失敗の責任を押し付けたいだけなのか。
結論は、後者が二人。
だが一人だけ、違った。
右端の剣士。
彼だけは、怒りよりも恐怖が勝っている。
「……仲間が、一人……」
そこでようやく、
〈ダンジョンガイド〉の加護が重なった。
地図。
罠配置。
昨日更新されたはずの情報。
――抜けがある。
俺は、受付台の下から一枚の記録板を出した。
「説明は、ありました」
「ただし――今日の朝、変化が起きている」
ざわめく空気。
「深層三層、魔力流の逆転。
固定罠が“移動罠”に変わった」
「……知らされてねぇぞ」
「知っているはずがない」
俺は淡々と言った。
「更新が間に合っていない。
これは――受付側の落ち度だ」
二人が息を呑み、
一人が崩れ落ちた。
俺は続ける。
「損害補填は最大限出す」
「死亡認定は、特例扱いで処理する」
「そして――」
視線を上げる。
「この情報は、今この瞬間から全体共有に回す」
怒鳴っていた冒険者たちは、
もう何も言えなかった。
苦情は、
叩き返すものじゃない。
正しく受け止め、
正しく裁くものだ。
それができるのは、
剣でも魔法でもない。
エース加護――
〈受付男子〉と〈ダンジョンガイド〉。
誰も気づかない場所で、
誰かを救うための力。
今日もまた、
ダンジョンは回り、
窓口は開いている。
苦情処理は、雑務ではない。
それは、
受付の本質そのものだ。
誰かの怒声の裏にある真実。
責任転嫁と、正当な訴え。
見誤れば、被害は拡大する。
だから受付は、
感情で裁かない。
事実だけを見る。
加護が生きるのは、
英雄譚の中ではない。
こうした、
誰も語らない場所だ。
受付窓口17。
世界が静かに救われる瞬間は、
いつだって目立たない。
それでも――
窓口は、今日も開いている。




