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時間外窓口

窓口には、

 開いている時間と、

 閉じている時間がある。


 だが――

 人生には、時間外がある。


 役割を外し、

 名前を外し、

 肩書きを置いた場所。


 そこでも、人は選ぶ。


――姫と俺は、夫婦になる


 時間外窓口は、灯りが一つだけだ。


 冒険者も、依頼も、書類もない。

 あるのは、

 受付の机と、二つの椅子。


 彼女は、そこに座っていた。


 ウサ耳は外套の下に隠している。

 王族の装いでも、冒険者の格好でもない。


 ただの、一人の女性だ。


「……本当に、時間外でいいんですか」


 彼女は、少し緊張した声で言う。


「はい」


 俺は、机の向こうに座らない。

 受付は、もう閉まっている。


「ここは、

 判断を下す場所じゃありません」


 彼女は、うなずいた。


「だから、ここがいいです」


 しばらく、沈黙。


 ダンジョンの気配もない。

 〈受付男子〉も、

 〈ダンジョンガイド〉も――


 何も言わない。


 それでいい。


「最初に言っておきます」


 俺は、正直に話す。


「俺は、

 世界を優先します」


「知ってます」


「間違えます」


「見てました」


「あなたを、

 一人にする時間もあります」


 彼女は、少し笑った。


「それも、受付さんらしいです」


 俺は、深く息を吸う。


「それでも」


 視線を合わせる。


「それでも、

 俺はあなたと生きたい」


 ウサ耳が、ぴくりと動いた。


「姫としてじゃない」


「冒険者としてでもない」


 一歩、近づく。


「俺の妻として」


 彼女は、

 しばらく黙っていた。


 そして、

 小さく、でもはっきり言った。


「はい」


 それだけ。


 派手な魔法も、

 祝福の光もない。


 世界は、

 何も変わらない。


 だからこそ、

 これは本物だ。


 彼女は、そっと手を伸ばす。


「受付さん」


「今は?」


「……あなた」


 その呼び方に、

 胸の奥が、少しだけ温かくなる。


「これからも、

 判断は大変ですか」


「ええ」


「間違えることも?」


「あります」


 彼女は、手を握った。


「じゃあ」


 まっすぐ、言う。


「その横に、

 私が立ちます」


 それは、

 護衛でも、命令でもない。


 同行者の言葉だ。


 俺は、うなずいた。


「よろしくお願いします」


「はい。

 こちらこそ」


 時間外窓口の灯りが、消える。


 明日になれば、

 また列ができる。


 冒険者が来て、

 判断を求める。


 世界は、続く。


 だが――

 もう、俺は一人じゃない。


 受付は、

 今日も世界を選ぶ。


 その横で、

 ウサ耳の妻が、静かに笑っている。

夫婦になることは、

 物語の終わりじゃない。


 むしろ――

 判断が増える。


 守るものが増え、

 迷う理由も増える。


 それでも、

 受付は立ち続ける。


 今度は、

 一人ではなく。


 時間外窓口は、

 特別な場所じゃない。


 誰にでもある、

 続いていく日常だ。


 明日も、

 列はできる。


 新しい冒険者が来て、

 新しい選択を求める。


 その中に、

 彼女と俺の物語も混じっていく。


 ――まだまだ、続く。


 受付は閉まらない。

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