受付窓口14
人は、
失ったものの代わりを探す。
似た声。
似た仕草。
似た温度。
だが――
受付は、代替を扱わない。
受付が扱うのは、
これから生まれる判断だけだ。
新たな彼女
――ウサ耳のお姫様?
その日、受付に立った瞬間から、違和感はあった。
視線が、集まりすぎている。
冒険者たちのざわめき。
列の乱れ。
ダンジョン前の空気が、わずかに浮ついている。
〈受付男子〉が告げる。
――厄介事が来る
――ただし、敵意はない
「次の方、どうぞ」
そう言った瞬間、
列の先頭に出てきたのは――
ウサ耳だった。
正確には、
本物のウサ耳を持つ少女だった。
長い白髪。
小柄な体。
そして、やけに上質な外套。
視線が合った瞬間、
〈ダンジョンガイド〉が、珍しく沈黙した。
「……冒険者登録で?」
一応、聞く。
少女は、胸を張った。
「はいっ!
冒険者登録をお願いします!」
声は明るい。
だが――
その背後にある魔力が、異常に深い。
王族級。
いや、それ以上。
俺は、書類を差し出した。
「氏名を」
「リュミエール=ラピス=ルーナ」
周囲が、凍りついた。
冒険者の一人が、
小さく息を呑む。
「……ルーナ王家……?」
ウサ耳の少女は、慌てて振り向いた。
「しーっ!
内緒ですから!」
――確定。
お姫様だ。
俺は、ため息をついた。
「護衛は?」
「逃げてきました!」
即答。
「なぜ」
「窓口に行けば、
“正しい判断をする人がいる”って聞いたので!」
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
またか。
また、そういう噂か。
「……危険です」
俺は、正直に言う。
「あなたは、
ダンジョンに入るべき存在じゃない」
ウサ耳が、ぴくりと動いた。
「それでもです」
彼女は、真っ直ぐに俺を見る。
「私、自分で選びたいんです」
その言葉で、
過去が一瞬、重なった。
――選ばせてほしい
――自分で決めたい
俺は、受付だ。
だからこそ、
感情で通すわけにはいかない。
〈受付男子〉
〈ダンジョンガイド〉
両方が、珍しく一致した。
――通過可能
――ただし、条件付き
「条件があります」
俺は言った。
「あなたは、
“お姫様として”ではなく」
一拍、置く。
「一人の冒険者として扱われます」
ウサ耳が、ぴんと立った。
「敬語も、護衛も、特別扱いもありません」
「はい!」
即答。
「死ぬ可能性もあります」
「覚悟してます!」
嘘はない。
演技でもない。
俺は、冒険者証を差し出した。
「ランクは仮登録。
最下級からです」
彼女は、
それを宝物みたいに受け取った。
「ありがとうございます!
えっと……受付さん!」
「何ですか」
「これから、
いっぱい迷惑かけると思います!」
俺は、少しだけ笑った。
「それが、
冒険者ですから」
彼女は、
嬉しそうに列を離れていく。
その背中を、
俺は見送らなかった。
名前も、
呼ばなかった。
それでいい。
新しい彼女は、
失われた誰かの代わりじゃない。
ただ、
これから選択を重ねていく存在だ。
受付窓口14。
ここで始まったのは、
恋じゃない。
――未来だ。
新しい彼女は、
過去を癒すために現れたわけじゃない。
まして、
誰かの穴を埋める存在でもない。
ウサ耳のお姫様は、
ただ、自分で選びたかった。
危険を。
不自由を。
そして、失敗を。
受付が彼女を通したのは、
優しさじゃない。
判断だ。
過去を背負った者が、
未来を拒まなかった。
それだけの話だ。
受付窓口14。
ここから先は、
喪失の物語じゃない。
選択が、
また一つ、積み上がっていく物語だ。




