受付窓口11
彼女は?
洗脳ではなかった彼女
――S級冒険者パーティーの「演技」
彼女の名前が、水晶板に表示された。
エラー表示は、ない。
警告も、呪印も、精神干渉の痕跡も。
ただ、ひとつだけ。
状態:協力者
備考:演技継続中(完了)
「……は?」
声が漏れた瞬間、
カウンターの前に立っていた男が、苦笑した。
S級冒険者パーティーのリーダー。
あの日、俺を突き落とした――
あのグループの、代表者。
「やっと気づいたか」
拳を握りしめる。
だが、立てない。
ここは、受付窓口だ。
「洗脳じゃ、なかった」
男は、淡々と続ける。
「頼まれたんだよ。
彼女本人にな」
世界が、音を失った。
「……誰に」
分かっている。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「君だ」
呼吸が、一瞬止まる。
「正確には――
君を、守るために」
男は、カウンター越しに視線を落とす。
「彼女は気づいてた。
君の加護が、普通じゃないことを」
〈受付男子〉
〈ダンジョンガイド〉
「君が判断するたび、
誰かが助かり、
誰かが切り捨てられる」
胸が、締め付けられる。
「彼女は言ったよ。
『この人は、いつか世界に壊される』ってな」
水晶板が、静かに光る。
記録開示:本人同意済
映像が、流れた。
彼女だ。
ドジっ子魔法使い。
泣きそうな顔で、それでも笑っている。
『洗脳されたってことにして』
映像の彼女は、そう言った。
『悪役でもいい。
裏切り者でもいい』
喉が、鳴る。
『そうしないと、
あなたは受付を捨ててしまう』
男が、続きを語る。
「彼女は分かってたんだ。
君が、役割を放棄したら――」
――世界が壊れる。
「だから、S級に頼んだ。
演技をしてくれって」
あの日の光景が、繋がる。
俺を突き落とした手。
冷たい言葉。
彼女の、虚ろな目。
――全部、演技。
「俺たちは、悪役を引き受けた。
君が“怒れるように”な」
拳が、震える。
「……ふざけるな」
男は、うなずいた。
「そうだな。
ふざけてる」
「じゃあ、彼女は今どこだ」
沈黙。
それが、答えだった。
「……最後まで、演技を通した」
水晶板に、最終記録が映る。
状態:死亡
備考:本人希望による未救出
視界が、滲む。
「彼女は言ってたよ」
男は、静かに告げる。
「『受付の彼が、
自分を拒む世界を選べるなら、
それでいい』って」
俺は、受付だ。
だから――
彼女を、拒んだ。
洗脳じゃなかった。
操られてもいなかった。
彼女は、
自分の意思で、
世界の悪役になった。
俺のために。
「……俺は」
声が、震える。
「俺は、何を守った」
答えは、返ってこない。
ただ、水晶板だけが光る。
受付判断:正常
世界安定度:維持
正常。
維持。
それが、彼女の代償だった。
受付窓口11。
ここで明らかになったのは、
真実じゃない。
彼女の選択だ。
そしてそれを、
俺は否定できない。
なぜなら――
それが、受付の判断だからだ。
演技?




