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受付窓口10

俺の…

〈受付男子〉/〈ダンジョンガイド〉


――辞められなかった/強制的に戻された


 目を開けたとき、天井は見慣れた石だった。


 ダンジョンの奥でも、野営地でもない。

 湿度、匂い、空気の流れ――全部、ギルドだ。


 俺は、受付の椅子に座っていた。


 いや。

 座らされていた。


 体が動かない。

 縛られてはいない。

 ただ、「ここにあるべきだ」と世界が決めている。


 視界の端で、水晶板が光った。


スキル:〈受付男子〉

加護:〈ダンジョンガイド〉

状態:再配置完了


「……再配置?」


 声は出た。

 だが、それは俺の意思じゃない。


 カウンターの向こう側に、人が並んでいる。

 冒険者。

 新人。

 ベテラン。

 顔を伏せる者。

 俺を見ない者。


 誰一人、

 俺がここに戻された理由を聞かない。


 分かっているからだ。


 ――受付は、戻ってくる。

 ――必要になれば。


「次の方、どうぞ」


 口が、勝手に動いた。


 〈受付男子〉が、完全に戻っている。

 いや、以前よりも鮮明だ。


 数字が見える。

 結末が見える。

 拒むべき者が、はっきりと分かる。


 それでも――

 俺の判断権は、ない。


 止める言葉は出る。

 だが、止める力はない。


 それが、完全な受付だ。


 背後で、声がした。


「無理をさせてしまったね」


 ギルド長だった。

 白髪。

 穏やかな声。


「君は一度、役割から離れた。

 だから分かったはずだ」


 俺は、答えない。


「この世界は、

 判断する者を必要としている」


 一歩近づく。


「英雄は代わりがいる。

 だが――受付は、いない」


 水晶板が、赤く瞬いた。


再配置理由:

・判断精度、規格外

・ダンジョンとの同調率、異常

・代替不能


「……俺は、戻ると決めてない」


 ギルド長は、首を振った。


「君が決める話じゃない」


 静かな宣告だった。


「〈受付男子〉は職業じゃない。

 〈ダンジョンガイド〉は祝福じゃない」


 水晶板が、最後の表示を映す。


役割:境界管理者

状態:固定


 理解した。


 これは強制転生の続きだ。

 異世界に来た理由。

 冒険者になれなかった理由。


 最初から、

 ここに立たせるためだった。


 ――逃げられない。


 そのとき、

 ふと、名前が浮かんだ。


 彼女の名前。


 だが、水晶板は何も反応しない。


 彼女は、

 もう受付の管理対象ではない。


 それが、答えだった。


「次の方、どうぞ」


 俺は、名前を呼ぶ。

 生きて帰る名前。

 帰らない名前。


 選別し、

 見送り、

 記録する。


 感情は、必要ない。


 それでも。


 胸の奥で、

 かすかに、何かが残っている。


 それがある限り、

 俺は完全な装置にはならない。


 だから――

 世界は俺を、ここから動かさない。


 受付窓口は、今日も開いている。


 俺の意思とは、

 関係なく。


 辞められなかった受付男子。

 それが、

 この物語の現在地だった。

次の方どうぞ

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