はいい!?
そのあと。
半ば意識が朦朧としたままランスロット様の手で医務室に運ばれたわたくしは、巫女様の治療を受け早々に帰宅することとなりました。
パニックで卒倒するやら泣き過ぎて過呼吸を起こす女生徒が続出し、医務室はとても安静にできる状態ではなくなったからです。
事情説明のため学園に残ったお兄様に代わり、ランスロット様とマリナ様、リディア様がわたくしを送り届けてくださったのですが……事の次第を聞いたルビーの怒りといったら、もう……。
早々に引き上げるお三方を見送ることもできず、わたくしはルビーの勧めるままベッドに潜り、翌日の欠席が決定したのでございます。
そして、2日後…週末となった今日。
我が家の玄関ホールでは。
「………当家のたいせつなお嬢様に公衆の面前での平手打ちなどという辱めを与えておいて、よくもまあ、のうのうと顔を出せたものですわねぇぇぇ?デミトリオ殿下?」
「…………申し訳ありません………」
仁王立ちになった侍女の前で、一国の王太子が正座で小さくなるという、世にも珍しい光景が繰り広げられております……。
「ルビー殿、そのへんで許してやってくれないか?デミトリオもそんなつもりではなかったようだし」
「そのつもりでの暴挙なのでしたら、今後一切当家の敷居は跨がせませんわ!」
苦笑するオレイアス殿下のとりなしで、ようやくルビーは殿下の謝罪を受け入れる気になったのでしょう、ふんっ!と鼻息も荒く踵を返しました。
「やれやれ……本当に手厳しいな、ルビー殿は。とはいえ、自業自得だ。判っているだろうね?デミトリオ」
「はい。反省しています。兄上」
それでもルビーのお許しが出たことにホッとして、ようやくお兄様とわたくしは両殿下と、苦笑するマリナ様、ランスロット様、そして予想もしなかっただろう光景に(……ですわよねえ…)オロオロしていた巫女様をサロンへと招き入れたのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「では……あらためて。本当にすまなかった、アリア嬢。正しい指摘をしてくれたきみに手を上げるなんて、あの時の私はどうかしていた」
「ええ、謝罪を受け入れますわ。殿下」
サロンに落ち着いた途端、もう何度目かも判らない謝罪を繰り返す殿下に、わたくしも頭を下げました。
「ですから、もう謝るのはおやめくださいな。殿下が反省なさっているのはよくわかりましたから。それに、王族ともあろうお方が、そんなに何度も臣下に頭を下げるものではありませんわ」
「とはいっても、だな……」
ちらりとお兄様に目をやってため息をつき、殿下はカップを取り上げました。
「本当に……自分でも、何が起こったのかよくわからないのだ。巫女殿とのワルツが終わったのは覚えている。従者殿がパートナー交代を提案したのも、傍に来て腕に触れられたのも。ただ、あまりに気安く触られたものだから、ぎょっとして………………」
「………殿下?」
不意に黙り込んだ殿下。どうなさったのかしら……お兄様も不審そうに殿下の顔を覗きこみます。
「……ああ、いや……そう、ぎょっとしたんだ。ぎょっとして………それから……よく思い出せない。ただ、なにかとても悍ましいものに纏いつかれたような……そんな気がして……必死で振り払おうとしたんだ。そうしたら……」
「……図らずも、アリア嬢を平手打ちにしていた……というのだな」
カップを覗きこんだままぽつりぽつりと話す殿下の言葉を引き取って、オレイアス殿下も眉を顰めました。
「……どういう……ことでしょうか。確かにあのときの殿下は変でした。私が声をかけても耳に入っていないようで……」
「ええ、お顔の色も悪くて、なんだか目にも光がないようでしたわ。だから、ご気分でも悪いのではないかと思いましたの」
そう、今思い出してもあの時の殿下は異常でした。何かに憑りつかれていたと言われても納得してしまうくらい。
「巫女様……巫女様のお力で何か感じたりは……?」
「あ……」
難しい顔で聞いていたマリナ様に話を振られ、巫女様はちょっと驚いたようにびくっとして、それから俯いて首を振りました。
「……ごめんなさい。巫女姫なんてお役目をいただいているのに……わたし……特に何も感じなくて……」
「あ!すみません、別に責めたわけじゃないんです!」
身を縮こませる巫女様に、マリナ様も慌てたように手を振ります。
「ただ、歴代の巫女様の中にはそういう……邪気を感じる、みたいな力がある方もいらっしゃったので、つい。そうですよね、巫女様の『魂の力』は治癒でしたよね」
早口でそう言って、マリナ様は申し訳なさそうに頭を掻きました。
「そうですわ。巫女様のお力は凄いんですのよ。わたくしの傷も、ほら、このとおり」
場を取り持とうとそう言って、わたくしは自分の頬に触れました。
右頬に大きな絆創膏を貼った殿下とは違い、わたくしの頬にはもう腫れもなく、切れた唇も綺麗に治っています。それもすべて巫女様の―――巫女様の守護精の持つ『魂の力』のおかげなのです。
我が学園の入学条件の一つとして守護精の具現化があることは以前にも申し上げましたが、王家やいわゆる大貴族と言われる家柄、古い貴族の家柄には、特別な力のある守護精を持つ者が生まれやすいと言われています。
とはいえ、それは小説や童話で描かれるような、魔法や魔術のようなものではありません。
呪文を唱えれば誰でも使えるようなものではなく、『魂の力』……そのひとの守護精に宿った、たったひとつの力なのです。
「いえ、そんな。治癒の力といっても、わたし、命にかかわるような怪我や病気は治せませんし……まだまだ未熟で」
「いいえ、本当に感謝しておりますのよ。おかげで眩暈も吐き気も、すっかり治まったのですもの」
「そんな、とんでもない!今回のことは………元はと言えば、ドリーが……いえ、わたしの従者が招いたことですもの」
巫女様に改めてお礼を申し上げると、巫女様ははにかんだように微笑まれました。
「その、従者殿だが」
こほん、と小さく咳払いをして。
「3日間の謹慎処分となった。今回の騒動は、元を辿れば彼女の礼儀知らずな振る舞いが原因だからね。加えて、謹慎明けには当分の間、放課後、作法の補習授業だ。いくら平民出身とはいえ、他の特待生と同じ作法の授業を受けている。一人だけ作法が身につかない言い訳にはならない」
オレイアス殿下がそう言ってカップを取り上げました。
「ちなみに、デミトリオは1週間、ランスロットも3日間の謹慎処分だ」
「まあ!」
「しかたないよ。私は放校も覚悟したくらいだ」
驚くわたくしに、殿下はそう言って肩を竦めます。
あの日の夜、帰宅したお兄様によると、多目的ホールの騒動はちょっとやそっとでは収まらず、学園長先生までが出陣する事態になったそうです。
無理もありません、ただでさえ顰蹙を買っていたダンス練習の挙句、王太子がなんの落ち度もない婚約者を公衆の面前で平手打ちにし、それを見た第一王子の命でその側近が王太子を殴り飛ばしたのですもの。ああ、せめて音楽室とかダンス室とか、もっとこじんまりした場所で練習なさっていたら、ここまでの大騒ぎにはならなかったでしょうに。
「きみを平手打ちしたうえ、1年生が10人も倒れる大騒ぎになったからね……。学園長から連絡が行って、父上と母上から大目玉を喰らった。特に母上の怒りはすさまじかったよ。なにしろアリア嬢は母上のお気に入りだから」
「……俺も、まさか王太子ぶん殴って王妃殿下に褒められるとは思わなかった」
「……王妃様……」
ため息をつく殿下と微妙な顔をするランスロット様に、わたくしもちょっと頭を抱えました。
王妃リリアーナ様は学生時代、お母様とともに「イグネシアの名花」と呼ばれ、親友同士の間柄だったそうです。
そのため、王妃教育には厳しいものの、親友の忘れ形見であるわたくしをとても可愛がってくださいます。
そんな王妃様ですから、事件を聞いてお怒りになったというのは想像に難くないのですが……
「それでも王太子殿下が謹慎処分なんて……」
しかも、その原因がわたくしだなんて!!……ああ、こんなの前代未聞ではないかしら!?
悶々とするわたくしに、両殿下とランスロット様は顔を見合わせました。
「え?でも………ねえ?」
「ええ」
「おう」
「?」
腕を組み、うんうんと頷き合うお三方。
意味が判らず首を傾げるわたくしに、こほん、とお兄様が咳ばらいをなさいました。
「あー……確か、学生時代に陛下とヒューレイ辺境伯は西棟の3階を爆破しかけて謹慎処分をくらったことがあるはずだよ?」
「はいい!?」
思わずわたくしは素っ頓狂な声を上げてしまいました。謹慎!?陛下とヒューレイ辺境伯が?いえ、それより……爆破!?
「ほら、西棟の科学室って、奥側の壁と天井に改修痕があるじゃないですか?床にも焦げた跡あるし。あれがその名残らしいですよ?」
「言い出しっぺの旦那様は別件で参加できなかったおかげで謹慎こそ免れましたが、大量の反省文と罰掃除を課されていらっしゃいます」
くすくす笑うマリナ様と澄ましたルビーの注釈に、わたくしは開いた口が塞がりませんでした。
……たしかに、陛下とヒューレイ辺境伯様、そしてお父様は学生時代とても仲のいい3人組として有名だったそうですが……………………もう!お父様!?
「なんだか……すみません。わたしがダンスのレッスンをお願いしたせいで……」
「いえ、巫女様のせいではありませんわ。本当にもう、殿方って…………」
巫女様は恐縮なさいますが、巫女様が責任を感じる必要はありません。殿下もランスロット様も……これはもう、血筋なのかしら!?
「そもそも、あのレッスンはどういう経緯で開かれることになったんだい?人選は誰がしたの?」
呆れるわたくしに苦笑して、オレイアス殿下が話題を変えます。
「巫女殿から放課後にでもダンスの補習授業をしてもらうことはできないかと相談を受けたのですよ。兄上」
「はい。どうしても緊張してしまってうまく踊れないので……ドリーが数学の補習を受けるように、わたしもダンスの補習をお願いできないかと思って。そうしたら……」
「なるほど、それで殿下が相手役を買って出たのですわね?」
「ああ。ダンスくらいなら先生がたを煩わせずとも、私でも教えられると思ってね。それに、生徒主催なら飛び入り参加も期待できると思ったんだが……」
「それは甘いですね、殿下」
ため息をついてマリナ様が口を挟みました。
「あれじゃとても飛び入りなんてできませんよ。どうせ、お相手もドロレス様が選んだんでしょう?」
「………はい」
マリナ様に図星を衝かれ、巫女様は肩を落とします。
「殿下がジークハルト様に声をかけてくださって……そうしたら、ドリーが他にも心当たりがあるって……」
「それであの面子ってわけですか。せめて、他の女子にも声をかけるべきでしたね。たとえば、リディア様とか。そうしたら参加希望者も増えたでしょうし、人数も増えて踊りやすかったでしょうけど」
「……確かにそうですわね……」
あの雰囲気を思い出して、わたくしも同意せざるを得ませんでした。
ドロレス様が巫女様に侍らせた殿方を見せびらかすような、あのレッスン。いえ、侍らせているのはドロレス様自身に、かしら。
いずれにせよ、あれでは参加しようとする気も失せるというものですわ。かといって、わたくしが参加したいと言ったらドロレス様が嫌がるでしょうし………あら?
「そう言えば……寮生の謹慎はどういうものですの?登校できないだけ?」
「いえ、謹慎中は寮長先生のお部屋の隣にある、謹慎室に入ることになります。その間はずっと寮長先生の監視下に置かれるわけですから、自宅謹慎より大変かもしれません」
「マジかよ……寮に入らなくて良かったぜ」
マリナ様の説明を聞いて、ランスロット様はげんなりとした顔を隠そうともせずため息をつきます。
ご実家が遠いマリナ様や巫女様、領地の邸宅とは別に王都に自宅を構えていても通学に時間がかかるケイトリン様などは寮に入っていらっしゃいますが……ヒューレイ家のお屋敷は確か王都の中心部ですものね。いえ、問題はそこではなく。
「ということは、あと2日は巫女様はお部屋にお一人なのですね?」
「は?はい。ドリーが謹慎室を出るのは2日後の夜ですから……」
「だったら!今度こそお貸しできますわ!あの本を!!」
「!!」
それを聞いて、巫女様はぱあっと顔を輝かせました。
「本?」
「あの童話の下巻ですわ。ほら、わたくしが時々読み返している。巫女様もあの本をご存知で、下巻を探していたそうなんですの!」
「えっ!?巫女様って、本、好きなんですか!?」
本、と聞いて食いついたマリナ様は、予想通りキラキラした目で巫女様に向き直ります。
「は、はい。……といっても、我が家には本を買うような余裕はなくて……あの本も、上巻を貸していただいただけなんですけど……」
マリナ様の勢いにちょっと押され気味になりながらも、巫女様は両手を握り締めて縋るようにわたくしを見ました。
「あの!本当に……いいんですか?お借りしても?」
「もちろんですわ!感想を聞かせてくださいと申し上げたでしょう?」
巫女様に頷いたところで、タイミングよくルビーが下巻を差し出してくれます。話の流れを察して取ってきてくれたのでしょう、本当に優秀な侍女です!
軽く目礼して本を受け取ると、わたくしはそれを巫女様に差し出しました。
「さあ、巫女様。今度こそお貸ししますわ」
「……わぁ………ありがとうございます……」
巫女様は涙目で本を受け取り、うっとりと表紙を眺めました。
ああ、なんてお可愛らしい!
こんなに喜んでいただけたら、貸したわたくしも嬉しくなってしまいますわ!!
「巫女様は、どんな本がお好きなんですか?童話?冒険小説?ロマンス小説なんかもいけちゃったりします!?」
「読めればなんでも!古典と聖書なら数冊は教会の蔵書をお借りできたんですけど……ラファティ領は辺境なのでなかなか貸本屋さんも巡回に来てくれなくて……しかも、お借りするお金がないから、我が家に泊っていただいて、その代わりに本を読ませていただいてりして……」
「ああ~!判ります!!次の巡回まで借りると高いんですよねえ!!」
「そうなんです!それでも、買うよりはお安いんでしょうけど……第一、買えたとしても領内に本屋さん自体がありませんし。だから、王都に来て、初めて本屋さんを見かけたときにはうわあ~って!」
「判ります判ります!うわ~!ってなりますよねえ!でも入ったら二度と出てこれなくなりそうで。巫女様は入ったんですか?」
「いいえ。わたしも根が生えちゃいそうで。だから、学園の図書館に」
あらあら……。本好き同士、惹き合ったのでしょうか。マリナ様と巫女様はあっという間に意気投合なさったようで、きゃっきゃっと楽しそうに本好き談議に花を咲かせていらっしゃいます。
「でも、図書館って、古典しかないんですよねえ……。いえ、古典が悪いわけじゃないんですけど、やっぱり娯楽小説が読みたいって言うか……巫女様は古典ならどれがお好きですか?」
「あ……いえ……わたし、は……」
何故か、そこで巫女様は言い淀んでしまわれました。
「……まだ、あんまりたくさんは読めていないのです。その……ドリーがいい顔をしないので……本ばかり読んでいてると美容に悪いとか……淑女らしくないとか……」
「はあ!?なんですか?それ!!」
「では、まさか巫女様はそれを気にして好きな本が読めないんですの?」
それはあんまりですわ!せっかく好きなだけ本を読める環境にいるのに、そんな理由でそれを妨げられるなんて!
「で、でも!ドリーの言うのに一理あるんです!わたし、本を読み出すと本当に夢中になってしまって寝るのも忘れちゃったりしますし、食事もしなかったりとか!」
マリナ様と二人で非難の声を上げると、巫女様は慌てたようにドロレス様を庇いました。
「寝食を忘れるのは問題だが、だからと言って、そこまで巫女殿の行動を制限する権利はないだろうが」
「確かに歴代の従者は巫女様と寝食を共にして生活とお役目の補助をするのが使命ですけど……でも、それにしたって……」
「……しかたないんです。わたしの神託は……眠りの中で訪れますから……」
眉を顰める殿下とその深い造詣で歴代従者を引き合いに出すマリナ様。巫女様は少し躊躇ってから目を伏せました。
「わたしの場合……眠っているとき、夢の中で神託が下りるのです。よほど印象の強い神託は自分でも覚えているのですが……個人的なこと……たとえば、ケイトリン様の危機みたいなものは自分では覚えていないことがあって。ドリーには、わたしが神託を受ける予兆のようなものが判るんです。だから、わたしが寝言で呟く星詠みを余さず記録してくれて……」
ふう、と息をついて巫女様はぎゅっと本を抱き締めました。
「確かに、もっと本を読みたいという欲求はあります。でもそれでお役目がおろそかになったら元も子もありません。それに……文句を言ったら罰が当たります。わたしのせいでドリーは安心してぐっすり眠ることもできないし、数日以上離れることもできない………それでも傍にいてくれるんだから、わたしは恵まれているんだわ……」
「巫女様……」
静かに語る巫女様に、わたくしは何も言えなくなりました。
巫女様の従者として、ベッタリと傍に貼り付き、時に傍若無人とも言えるほど我が物顔に振舞うドロレス様。正直、好感が持てませんでしたが……そうだったのですね。あのかたにも、いろいろと事情がおありだったのですね……。
「何言ってんだ。そんなん、お前を縛る理由にはならねえだろーが」
そのとき、ケッ!という効果音付きでランスロット様がしんみりした空気を引き裂きました。
「寝るのも忘れるってんなら、消灯までって時間を決めてその範囲内で好きなだけ本を読めばいい。あの従者が安眠できねえのが問題なら、その時間を休養に充てりゃいい。離れるのが問題なら、その間は信用のおける侍女かなんかを夜番につけりゃいい。なんでお前があの女に気兼ねして我慢しなきゃなんねえんだ。そうやって遠慮してっから、あの女が増長すんだぞ」
眉間にしわを寄せ、ランスロット様は食べていたケーキのフォークでお行儀悪く巫女様を指しながら言葉を重ねます。
「まあ、百歩譲って別行動を嫌がるのはまだいいとしよう。だが、あの威張りくさった態度、ありゃなんだ?全方位に喧嘩売ってんのか?それに、とくにこいつ!」
「わたくし?」
いきなりフォークがわたくしの方を向き、わたくしは驚いて思わず背筋を伸ばしました。
まあ!フォークで指されたのなんて初めてですわ!
ふと見れば、ケーキに手を付けていないお兄様や殿下とは違い、ランスロット様の前のケーキは綺麗に食べ尽くされています。わたくしのために殿下を殴ってくださった―――いえ、わたくしのためというわけではなく、オレイアス殿下のご命令あってこそですが―――お礼なのか、ルビーがランスロット様に給仕したケーキは結構大きなひと切れだったはずなのですが……ランスロット様って、甘いものもお口に合いますのね……じゃなくて!
「なんであの女はこいつばっか目の敵にすんだよ?蛇騒ぎの時といい、図書館で最初に会ったときといい。多目的ホールの時だって、酷いもんだったぞ?なぁにが、『アリアドネ様こわぁい』だ!聞いてて鳥肌立ったわ!」
埒もないことを考えてた間にも、ランスロット様は巫女様に文句を付けます。
「え…っと……それ……は……」
「こいつの家が侯爵家で、大貴族だからか?だったらジークはどうなんだよ?ジークだって同じ大貴族で、しかも次期侯爵だ。そのわりには、ジークにはやたらと媚売ってるよなあ?『わたしはお味方ですわ!』なんつって、手ェ握ってよ?」
「まあ!」
「なんだと!?」
思わず殿下とわたくしは声を上げました。
「なんだそれは!聞いていないぞ!ジーク!」
「殿下!」
ああもう!目の色変えないでくださいませ!!ここにはオレイアス殿下も、ランスロット様たちもいらっしゃいますのよ!?
「確かに、蛇騒動の時もアリアドネ様に言いがかりをつけてましたし、ダンスレッスンの時もアリアドネ様見て鼻で笑ってましたね……」
まあ!マリナ様もあれを見ていらっしゃったのですね!そのことを思い出したのでしょうか、マリナ様……ちょっと目が怖いです。そして……壁際に控えるルビーの視線がもっと怖いです……!!
「そうだな、それは私も聞きたいところだ。彼女がアリア嬢を敵視するのには、なにか理由があるのかな?」
「ええ、私もお伺いしたいです。彼女はまるでアリアが私を害するような口ぶりだったが……我が妹はそんなことをするような人間ではない。何か行き違いがあるのだろうか?」
「……あ……」
ランスロット様だけでなく、マリナ様やオレイアス殿下、お兄様にまで見つめられて、巫女様は泣きそうな顔で俯きました。
そうして。
「……アリアドネ様は……悪役令嬢なのです………」
長い沈黙の末、まるで観念したかのように、ぽつりと巫女様が呟いたのは、どうにも理解不能な一言だったのです………。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいのですが。
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貸本屋さん事情
本が貴重なため、レンタルビデオのように本を貸してくれる、貸本屋という職業があります。
ある程度大きな町ならお店がありますが、小さな村や辺境には馬車に本を積んで定期的に巡回してくれることも。
ただし、辺境だとなかなか来ない。来るとしても半年に1回とか、年1回とか。
そのため、本を借りるのも長期間になるため、結構なお金がかかります。
そのうえ、続き物なんか借りちゃうと、次に来た時続きがあるかどうかも判らない!また、小さな町では本は雑貨店などで売られています。専門の、「本屋」があるのは都会の証だと思ってください!




