ちょっと待って
翌日。
予定通りわたくしは学園に復帰いたしました。いつもの日常、いつもの風景。ほぼ1週間も休んでしまったとあって、授業に遅れてしまったのではないかと思いましたがそれも杞憂に終わり(ありがたいことに、マリナ様たちが完璧なノートを取っていてくださいました!)ひと安心……したのですが。
「…………はあ……」
山のような課題を前に、わたくしはため息を禁じ得ませんでした。
まあ、授業を休んだのは事実ですし?その分の課題が出るのは仕方ありません。でも、提出期限が短すぎませんこと!?次の授業まで、ということは、半分は明日までってことですわよ!?通常の課題もあるというのに……。
もう一度ため息をつき、わたくしは諦めて図書室へと足を向けました。嘆いても仕方ありません。期限が早いものからさっさと終わらせましょう。
そう思って腰を据え、いくつかの課題を終えた頃。
「………ドネ様が……」
ふと自分の名前が聞こえた気がして、わたくしは手を止めました。
「そりゃあアリアドネ様だってお怒りになるわよ!いくら不慣れだって言っても……毎日でしょう!?」
「しかも、あの生意気な従者まで!いったい殿下は何を考えておいでなのかしら!」
声のした方に注意を向けると、どうやら書棚の向こう側で女生徒が二人、何かの噂話をしているようです。わたくしがいるのは図書室の隅っこの、人目につかないテーブルなので、彼女たちはわたくしがいるのに気付いていないのでしょう。ああ、でも困りましたわ。もし鉢合わせたらあちらも気まずいでしょうし……このまま気付かずに行き過ぎてくださらないかしら。
……そう、思ったのですが。
「あっ…アリアドネ様!?」
「いつからそちらに!?」
願いもむなしく、書棚を回り込んだ彼女たちはわたくしを見て悲鳴を上げました。
「あら、ごきげんよう」
こうなったら聞こえなかったふりをするしかありません。わたくしはさも今気付いたというように顔を上げ、穏やかに微笑んで(わたくし比)みせました。
「あ……あの……」
「わ…わたくしたちは……その……」
ああ、それでもやっぱり怖かったのでしょうか。お二人は、なにやら手を取り合って震えていらっしゃいます。
……しかたありませんわね、明日までの課題もあらかた終わったことですし、ここはわたくしが退出して……と、そう思ったとき。
「わ……わたくしたち、アリアドネ様の味方ですから!!」
「そうですわ!いくら巫女様とはいえ、あんなの、酷すぎます!!」
「…………はい?」
突然お二人にそう詰め寄られ、わたくしはまとめかけた課題を取り落とすことになったのです。
「本当に!酷いんですよ!アリアドネ様!これ見よがしに殿下やジークハルト先輩たちにベタベタして!!」
頬を染め、そう憤慨するのは1年のジュディス・コーランド子爵令嬢。
「そりゃ、平民のドロレス様が踊れないのは判りますけど!でも、なんで殿下に!?いくら巫女様の従者だからって……これって、職権乱用ですよね!?」
同じく、小さく手を振り回してご立腹なのは1年のマチルダ・ワイト子爵令嬢。
図書室では他の方々の迷惑になりますから、と場所を移した近くの四阿で、お二人は憤懣やるかたない、というように訴えます。
「巫女様は高貴な方だから、ダンスとはいえそのお相手をするのは高貴な方じゃなきゃいけないって!」
「そのくせ、ダンスの練習にはブルーノ先輩とか、ジュリアン様を付き合わせてるんですよ!ジュリアン様のおうちは子爵だし、ブルーノ先輩は騎士の家系とはいえ平民じゃないですか!!」
「ま……まあ、そうですわね……」
あまりの勢いにそう返すしかできず、わたくしは内心天を仰ぎました。
要するにダンスに不慣れな巫女様とドロレス様が殿下に教えを乞うて、ここ数日というものそれに殿下たちが付き合わされていると。
そして、その様子が酷すぎて目に余るというのです。
まあ、来月に迫った年越しの冬祭りや新年の夜会など、これから先ダンスをする機会は何度もありますし、今のうちに練習を、というのは理解できます。
ただ問題なのは、その相手をしているのが殿下はもちろんのこと、お兄様やハルベルト先輩、2年のブルーノ様、1年のキッペリング様など……いわゆる、見目麗しい方ばかり、というところなのです。
当然、そういう方々は女性人気も高いわけですし……それはやっかみも生まれますわよね……ああ、頭が痛い。
「ジークハルト先輩やハルベルト先輩は生徒会だから仕方ないのかな、とも思ったんですけど……だったら、ブルーノ先輩やジュリアン様は?練習相手だったら同じ生徒会のランデール先輩とかでもいいじゃないですか!もしくは護衛のトカフマン先輩とか!」
「そ……そうですわねえ……」
まさに『王子様』の殿下や(自分と同じ顔でなんですが)線の細い美形のお兄様、クールビューティのアイザック・ハルベルト先輩、男性的な美形のマティアス・ブルーノ様、煌びやかなジュリアン・キッペリング様……そんな方々と比べたら、失礼ですが地味な外見に分類されるランデール先輩やトカフマン先輩はお眼鏡にかなわなかったのでしょう。……もっとも、ケイトリン様の騒動もありますし、ランデール先輩は頼まれても断ったと思いますが。
「ドロレス様ったら、ランス先輩にもお相手を強請ったんですよ!?はしたなくも、人前で腕に絡みついて!」
「邪険に振り払われてて、見ててすっとしました!」
「まあ!」
何故か自慢げなお二人にわたくしもびっくりしてしまいました。
いろいろなタイプの美形を集めたにしてはランスロット様のお名前が上がらないのは、さすがにあの蛇騒動でのことがあって頼めなかったからだと思いましたのに!
……ちゃっかり腕まで絡めてお強請りなさっていたのですね。さすがドロレス様、すごい心臓ですわ!
―――とはいうものの。
「………そんなに、目に余るご様子ですの?」
やっぱり気になって、わたくしは恐る恐るお二人に尋ねました。
いえ、別に殿下はどうでもいいのです。
ダンスのお相手くらいいくらでも付き合って差し上げればと思いますが、問題はその場にお兄様が付き合わされているということなのです!目の前でこ……恋……その、想い人に他の女性がベタベタしているのを見せられたら、忍耐強いお兄様でもさすがに傷つくのではないでしょうか?
「ええ!それはもう!!」
「アリアドネ様、どうかガツンと言ってやってくださいませ!!」
「婚約者であるアリアドネ様を差し置いて、あんなの許せませんわ!」
「そうよそうよ!!」
「あ……あら??」
ですが、わたくしの問いかけをどう取ったのか、ジュディス様とマチルダ様はがぜん勢いづきました。身を乗り出してそう息巻きます。ついでに新たな声がして、わたくしは慌てて振り返りました。
え?ちょっと待って、ギャラリー増えてる!?
いつの間にいらしたのか、わたくしの背後には数人の1年生が集まり、四阿を取り巻いていたのです!
「さっ!アリアドネ様!!」
「こちらです!!」
「え?ちょっ…みなさま??」
もう、否が応もございません。腹に据えかねているらしい1年生に囲まれて、わたくしは問題のダンス・レッスンが行われている多目的ホールへ連行されたのでございます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
多目的ホールは東館・中央館・西館の3棟からなる学園の中央館1階にあり、どなたでも使用できるように解放されています。
広々としたホールの1面はサンルームのようになっていて、歓談したり軽食が取れるよう、テーブルセットがいくつも置かれています。その片隅にはピアノが置かれていて、時折気の向いた方がそれを演奏したり、それに合わせてダンスをなさったりと自由に仕えるようになっているのですが、殿下たちはそこを利用して練習をされているようでした。
「アリアドネ様!あちらです!」
半ば強引に引っ張って来られ、わたくしはしかたなくそっとホールを覗きこみました。
他の生徒たちが遠巻きに見守る中、お兄様がピアノを弾き、殿下のリードで巫女様がぎこちなくワルツを踊っていらっしゃいます。ドロレス様はキッペリング様と踊り、ブルーノ様は所在なさげにピアノの傍に佇んでおられました。ハルベルト先輩は……逃げましたわね。多分、生徒会を口実にしたのでしょう。
それにしても……自信満々で(その割にはステップは怪しいですが)誇らしげに踊るドロレス様とは裏腹に、巫女様の居た堪れなさそうなことと言ったら!
おそらく、殿下としては密室を避けるのと、どなたでも参加できるようにとの配慮で多目的ホールを選んだのでしょうが……はっきり言って逆効果ですわ。こんな衆人環視のなかでは、初心者の巫女様は委縮するばかりですし、あんな雰囲気の中、とても飛び入り参加なんてできるものではありません。
「アリア嬢!?」
単純なステップを間違えて真っ赤になって俯く巫女様の姿にはらはらしていたところで、横から声がかかりました。
「リディア様?まあ、マリナ様も!」
声の方を見れば、リディア様とマリナ様が、なにやら慌てたような顔でこちらを見ています。
「や、これはその、殿下が無理に頼まれて!」
「そうですよ!殿下はしかたなく、ですね!」
「ええ、だいたいのことは皆様にお聞きしましたわ」
何故か殿下の代わりのように弁明を始めるお二人に、わたくしはつい笑ってしまいました。
別にダンスの相手くらい、目くじら立てることではありませんのに。あ、それとも殿下の婚約者として、ここは怒るべきところなのかしら?
対応に悩んでいると、ちょうど曲が終わり、フィニッシュを決めたドロレス様としっかりと目が合いました。
「シャル様、では今度はパートナーを変えてみませんか?殿下のお相手はわたしがしますので、シャル様はジュリアン様か…それとも、マティアス様と?」
でもそれも一瞬、身を翻したドロレス様は巫女様に駆け寄り、そんな提案をなさいます。……というか……今、鼻で笑いませんでした?あのかた!?
あまりのことに呆気にとられたわたくしですが。
「!!ちょっと、あなた!」
ドロレス様が殿下の腕に手を置いた瞬間に、つい声をかけてしまいました。
殿下は王族、しかも王太子、次期国王となるお方です。
いくら学園内は身分の差に拘らないのが不文律とはいえ、下級生が……しかも平民の少女が気軽に触れていい方ではありません。それに、たとえ殿下が王族でなかったとしても、婚約者のいる男性に無闇に触れるのはマナー違反なのですから。
「アリア?」
「アリアドネ様!」
わたくしの声に、巫女様は一瞬目を瞠り、それからさっと殿下とドロレス様を見比べます。お兄様もピアノの椅子から立ち上がり、ドロレス様はなおも殿下の腕に取り縋りました。
「その手をお離しなさい。殿下は王族、軽々しく触れて良い方ではございません」
その怯えたような仕草がいかにもわざとらしく見えて、さすがのわたくしもイラっとしました。きっと、ドロレス様を嗜めた声は必要以上に厳しく響いたことでしょう。一歩踏み出せば、周りの生徒たちがさっと道を開けます。その間を、わたくしはドロレス様に向かって歩きました。
「学園内では身分の差はないとはいえ、最低限の礼儀は必要です。淑女たるもの、婚約者のいる殿方にみだりに触れるべきではない、と作法の時間に習ったはずですわよね」
「いやっ、アリアドネ様、こわぁい!」
噛んで含めるように言えば、あろうことかドロレス様は殿下の腕に抱き着き、肩に顔を埋めます。
「や、これはアリア嬢、手厳しい。殿下はそのような些事、お気になさるような方では……」
「貴方の出る幕ではありませんわ」
輝くような笑顔を浮かべ、横から口出ししたキッペリング様をバッサリ斬って捨て、わたくしは殿下とドロレス様の前に立ちました。
「ダンスのお相手ならいくらでもどうぞ。殿下はダンスもお上手ですもの、教えを乞うには最適な方ですわ。でも、それとこれとは別でしょう?最低限の礼儀と節度を守れと言っているのです」
「そんな!ひどい!わたしが平民だからって見下してるんですね!」
「平民も貴族も関係ありません。貴族のご令嬢だってそのようなはしたない真似をなさったら同じことを言いますわ。巫女様を御覧なさい。巫女様も最初はうっかり殿下に触れたりなさいましたが、すぐにご自分でそれがマナー違反だったことに気づいて、以後二度とそんな真似はなさらないではありませんか」
話を身分差別にすり替えようとするドロレス様に言い返しながら、わたくしはちらりと殿下の様子を伺いました。ドロレス様にしがみ付かれたまま、殿下はただ茫然とその場に突っ立っておられます。
……変ですわ。
いくら身分に拘らないとはいえ、さすがにこのような無礼を許していい立場でないことは、殿下が一番よくわかっているはずなのに。それに、内情はどうあれ表向きはまだわたくしは殿下の婚約者。その婚約者を前に、他の娘が縋りつくのを許しているなんて……あり得ません!
「……殿下?」
異様な事態に、お兄様もピアノを離れ殿下の傍までやってきます。
それなのに、反応しない殿下。ますますもって変ですわ!よくよく見れば顔色も悪く、頬が総毛だって……目にも光がないみたい。まさか、どこかお加減が?
「殿……」
「触れるな!」
心配になって、そのお顔を覗きこもうとした、その瞬間。
いきなりの怒声と甲高い音。
同時に頬に感じた衝撃に、わたくしはその場に倒れ込みました。
……え……?…な……に……?……頬を……打たれた?わたくしが!?
信じられない出来事に、目の前がちかちかします。
でも、頬がじんじんと熱を持っていくのも事実。
わたくしは、ほぼ全校生徒と言っていいくらいの公衆の面前で、殿下に殴り倒されたのです!
「アリア!!」
「アリア嬢!!」
「アリアドネ様!!」
一瞬の空白ののち、ホールは騒然となりました。
当然でしょう。王太子たる殿下が、女性に…しかも婚約者に手を上げたのですから。
お兄様が、マリナ様とリディア様が、そして巫女様までが血相を変えてわたくしに駆け寄ってきます。
「だ……だいじょう……」
「アリアドネ様!血が!!」
何とか身を起こそうとするも、視界がぐるぐる回って、腕に力が入りません。耳がぼうっとして……音が反響して……お兄様の声は判るのに、何をおっしゃっているのかよく判らなくて……ああ……嫌だわ、吐いてしまいそう……。
そのとき、お兄様に抱き起されたわたくしの視界を、何かが凄い勢いで過りました。
そうして。
「っ……にしてやがんだ!!てめぇはあっ!!」
物凄い怒鳴り声と、くぐもった、鈍い音。
「デミ!!」
「ランス先輩!!」
「殿下!!」
お兄様の、リディア様の、ブルーノ先輩の叫び、いくつもの悲鳴。怒号。
「……そん……な……」
殴打のショックで意識を保つのが精一杯のわたくしにも判りました。
―――駆け込んできたランスロット様が、殿下を殴り飛ばしたのです!!
勢いよく倒れ込んだ殿下は、真後ろにいたブルーノ先輩に支えられ転倒は免れたようですが……ああ、なんてこと!いくら女性に暴力を振るったからって王族である殿下に手を上げるなんて!!たとえ辺境伯のご子息でも、厳罰は免れません。退学か……悪くすれば、不敬罪で捕らえられてしまうかも。
周り中から悲鳴が上がる中、わたくしは、そしてお兄様も、ショックのあまり凍り付いたように動けませんでした。どうしよう、どうしたらいいの!?
そのときです。
「問題ない。今のは私が命じた!」
凛とした声が、パニックに陥っていた空気を切り裂きました。
「オレイアス殿下!!?」
誰かの声にどうにか振り向けば、人混みが割れ、難しい顔をしたオレイアス殿下が姿を現します。
「アリア嬢がそこの娘に意見するところから見ていたが……今のは、完全にデミトリオが悪い。我が騎士は私の命により馬鹿な弟に制裁を加えたまでだ。騒ぎ立てる必要はない」
まだざわつく周りを見渡してそう言うと、オレイアス殿下は殿下とブルーノ先輩の前で仁王立ちになっているランスロット様の肩にぽん、と手を置きました。
「拳でいっていいって言ったのに」
「……や、さすがにそれは」
内緒話というには大きすぎる声でランスロット様にそう言って、オレイアス殿下は茫然と頬を押さえる殿下に歩み寄りました。
「顔を上げよ。馬鹿者が」
「………あに……うえ……?」
聞いたことがないくらい厳しいオレイアス殿下の声に、殿下はのろのろと顔を上げて。
血の気の失せた顔の中、真っ赤に腫れた右頬、混乱したような瞳。それでもその青い目に光が戻っていることに、わたくしはほっと胸をなでおろしました。
「いったい……何だというのです!何故ランスが…私を…」
「たわけ!身に覚えがないとでも言うのか!見ろ!!自分のしでかしたことを!!」
弱々しく抗議する殿下にかっとしたのか、オレイアス殿下はそう叫び、わたくしたちのほうを示しました。倒れこんだまま、頬を腫らし、唇から血を流したわたくしと、わたくしを護るように抱きかかえたお兄様を。
「アリ……ア……?」
その、殿下の顔といったら!!
あそこまで真っ青になったかたを、わたくしは見たことがございません。
「そん……な………私が……やった…のか?……わたしが……この手で……きみを……?」
絶望というよりは恐怖に染まった瞳でご自分の手とわたくしを見比べて、殿下は一歩わたくしたちの方へ踏み出しました。咄嗟に、わたくしの肩を抱くお兄様の力が強まります。まるで、殿下を警戒するかのように。それが判ったのでしょう。殿下は泣きそうに顔を歪ませました。
「……っ…すまない!……ごめん……許してくれ……!アリア……ジーク!!」
呻くようにそう言って、殿下はよろよろとわたくしたちに近付くと、縋るように抱き着きました。―――お兄様に!!!
ちょっ……殿下!!!まずいですわ!!ここ、人前!!!人前ですのよ!!!!?
「デ…デミ?」
「すまない……すまない……私は…私はなんてことを……アリアに……お前の大事な妹に……どうして……」
焦るわたくしなんてそっちのけで、殿下はなおもお兄様に縋りついてうわ言のようにすまないと繰り返します。
「わ……わかったから……デミ!ちょっと落ち着いて!デミ!?」
わたくしを抱きかかえたまま殿下にまで抱きつかれて転びそうになっているお兄様の訴えも耳に入らないご様子。高貴な方であるだけに、巫女様もリディア様も下手な手出しができず途方に暮れるしかありませんでした。
「……ああもう、本当に手のかかる弟だ」
そんなわたくしたちを見兼ねたのでしょう、オレイアス殿下がため息をつきました。そしてポケットから取り出した小瓶の蓋を取り、背後から殿下の顔の前でそれを一振りします。
と、どうしたことでしょう!いきなり殿下がぐったりと倒れ込んだのです!
「……デミ!?おい?」
「大丈夫、眠っているだけだよ。学術塔の友人から貰い受けた、即効性の眠り薬だ」
慌てるお兄様にそう言って、オレイアス殿下はデミトリオ殿下の体を引き剥がしました。
「やれやれ……ブルーノ、手を貸してくれるかい?ランス、お前はアリア嬢を早く医務室へ」
「は……はい!」
名指しされて、呆然と突っ立っていたブルーノ様が殿下に駆け寄ります。その頃になって騒ぎを聞いたらしい教授たちが駆け付けて来ました。
「………大丈夫か?」
お兄様からランスロット様の腕に抱きとられて、心配そうに囁かれて。ようやくわたくしはほっと安心することができました。
お兄様もご無事ですし、殿下も一応は落ち着いていらっしゃいます。あとのことはオレイアス殿下にお任せして……わたくしはもう……気を抜いてもよろしいですわよね……?
そう思った途端、わたくしの意識はゆっくりと闇に沈み始めました。
ふわりと身体が浮くのが判ります。
「アリア嬢!」
「アリアドネ様!」
リディア様の、マリナ様の声。
「ランス兄様!わたしもご一緒に!」
「そんな!ランス様!!シャル!!」
縋るような巫女様の声、何かを抗議するドロレス様の声………。
いくつもの声を聴きながら、わたくしの意識はそこで途絶えたのでございます。
お読みいただきありがとうございます。
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