物凄く強い伝説の剣を拾った勇者が物凄く悪い魔王を倒す話
「小説書く感覚鈍る訳にはいかないしな」くらいの気分で書きました。
要は描写の練習感覚です。
「ぐはははははー我こそが世界を支配する悪い魔王だー」
突如として空を覆いつくす暗雲が、世界を飲み込みました。
その暗雲を支配するのは「物凄く悪い魔王」です。
齢にして40代半ば、魔王を語るにはあまりにも痛すぎる中年男性が偉そうに、漆黒の鎧と紅蓮のマントをこれ見よがしにひけらかしていました。
暗雲の色に準えるように、人々の心も暗くなって、世界はどんよりとした気持ちに覆われました。
「うわー萎える」
「最悪こんな奴が世界を支配するのかよ」
「くそだる」
世界を支配する魔王のあんまりな傲慢さに人々は辟易とし、SNSは荒れに荒れました。
別に魔王は魔王になったからと言って、何か悪いことをしたわけではありません。ただちょっと、国税をちょろまかしたり、支配する側の人々に中途半端に媚びを売ったりしていただけです。
「世界を支配するというのだからもう少しちゃんとしろ」というのが、人々の総意でした。
ですが地位にしがみつく魔王は、一向に支配者の地位から離れようとしません。
これでは埒が明かない。
そう思った国王は、国民の中から一人の勇者を選出しました。
何やら「女神の加護」を受けたらしい、町はずれの村に住む少年でした。
「アッシが勇者ですかい!?がははっ、あんさん人を見る目がありますなぁ、薬草でもサービスしときますさかいな!」
多分人選ミスだと思います。
道具屋の家系で育った勇者様は、へらへらと茶化すように手を仰ぎます。
国王も明らかに「人選ミスったな」という本心の滲んだ引きつった笑みを浮かべて、話を続けます。
「そなたは物凄く強い伝説の剣を引き抜いたというらしいが。それは一体どこにある?」
「あぁ、なんか珍しいもんあるなー、ご利益あるなぁって思って抜いたはええんやけどなぁ。土とかついてばっちかったから洗って鞘ごと物干し竿に使ってるわ」
「さっさと取ってこい!」
あんまりな扱いを受けている伝説の剣に同情するように、国王はそう勇者を蹴り飛ばしました。
勇者曰く「女神の加護かなんか知らんけどな、早く乾くねん」だそうです。
どうやら、伝説の剣が放つ光の加護が洗濯物を乾かすのに役立つとのことでした。そんな役割で与えられた力じゃないんですけどね、それ。
魔王は物凄く禍々しい雰囲気を纏った魔王城に住んでいるそうです。
本来であれば、魔王城へと続く道を作る為に勇者の剣を使う必要があります。
ですが、人間界の文明の発展により、そんな煩わしい方法を取る必要は無くなりました。
「はい、魔王城まで頼んます。はい、はい。あー、1台で大丈夫っすわ」
勇者は荘厳たる城から出るや否や、早々に街の外にある草原へと足を運び通話を始めました。
どこに電話をかけているのか分かりませんが、何やら事務的な態度を取っています。
しばらくすると、空から空気を叩くような重い音が鳴り響きました。
「おー、待ってたで。あんさんいつもありがとうな」
「お待たせいたしました、勇者様」
「ははっ、相変わらずお堅いでんなぁ」
空から突如として現れたのは一台のヘリコプター。
草木を激しく揺らしながら着地したそのへりの中から颯爽と現れたのは、1人の少女です。
心奪われそうな美貌を持つ少女の隣に、彼は表情を崩すことなく乗り込みました。
「はー、頼んますで。僧侶さん」
僧侶と呼ばれた彼女は、複雑に配置されたスイッチを巧みに操作しながら、遮光加工のされたサングラスを装着しました。
それから申し訳程度の僧侶要素である、目の前で十字を切ってからバーを切ります。
「さて、行きましょう。目標は魔王城です」
「あいあいさー」
そうして、勇者一行はあらゆるプロセスを無視して魔王城へと向かいました。
「ぐははははー、出たな勇者よ」
魔王城に何のアポも無しに来訪した勇者を、魔王はなんなく受け入れました。
暇なんですかね。世界を支配するくらいですから、1分の余裕も惜しいくらい多忙な存在であるはずなんですが。
相対する勇者は、ぼりぼりと首の後ろを掻きながら魔王へと言葉を掛けました。
「あんさんが魔王ですかぁ。なんか国王さんから倒せちゅーて送られたんですけど、あっしぁ殺人の罪は御免被るんでさぁ」
「正直我も殺されるのは怖い。え、そんなに不満溜まってたの」
「そりゃーもうバチバチでさぁ。SNSとか見ぃひんの?」
「……あー、マジか」
勇者に促されてスマホで状況を判断した魔王。彼は摘ままれたように眉をひそませて、魔王らしい前口上を語りました。
「わ、我の支配に下らないか。我の僕となれば世界の半分をやろう」
「世界の1割もろくに管理できてないあんさんが言わんでもろて」
「すいませんでした」
ですが前口上も勇者の一言によりあっけなく破綻。
それから、勇者は魔王城のガラス窓から顔を出しました。空を覆う暗雲を見上げて、魔王へと語り掛けます。
「なー、魔王さん。あんさんが国王に主導権を返上すれば丸く収まるんちゃいますの」
「いや、それはまだ我にはやるべきことがあって……まだできてないし……」
そう宿題を忘れた子供のように、ごにょごにょと文句を垂れる魔王。
あまりにもいい加減な態度を繰り返す彼に、勇者はついに堪忍袋の緒が切れました。
「つべこべ言わずにはっきりせんかい!あんさん男でっしゃろ!?キ〇タマついとるんやったらつべこべ言わずに『俺について来い』ぐらい言ったらどうかいなぁ!?」
「あ、あっ、すみません。はいっ」
「こっちみんかい!」
項垂れたまま赤べこのように会釈する魔王を勇者は怒鳴りつけました。
魔王の視線が彼へと向くのを待ってから、勇者は伝説の剣を引き抜きます。
「ほれー女神の光やでぇ」
「うわっ眩しい」
ただの嫌がらせでした。
げたげたと笑う勇者に対し、魔王も黙ってはいません。
「お前は嫌がらせをしに来ただけなのか!?我を散々コケにして何が楽しいのだ!」
「あっキレた」
「我だってちやほやされたい!我の存在が人々に影響して欲しい!なんかすげーやつなんだって存在を誇示したいのだ!」
「うわぁ」
物凄く子供みたいな承認欲求をひけらかす魔王に、これまた勇者もドン引きです。
しばらく魔王の子供みたいな欲望の吐露に、茫然としていましたが勇者はしばらくしてからひとつ頷きました。
「まぁそれって魔王でないと出来へんもんじゃあらへんっしょ?」
「魔王って万能でカッコいい雰囲気が」
「ないない」
魔王の言葉をいとも容易く一蹴した勇者は、それからのんびりとした動きで手を差し伸べました。
「あんさんもいっぺん魔王の座を降りてみたらどうでっしゃろ。あっしの元で働いてめーへんか?」
「……良いのか?」
「人手足りやんねん!いつでもウェルカムやで!」
不安げな魔王の問いかけに、勇者は満面の笑みでグーサインを作りました。
こうして魔王は、世界の支配者の座を降りました。
その後、勇者が働く道具屋では。
「へいらっしゃい!安いよ安いよ!お、お兄さんイケメンだね!今日は冒険者の仕事かい!?はっはっは、我を倒すくらいの勢いで頑張ってくれよ!」
元魔王というウリを活かして、道具屋で元気に商売する禍々しい鎧をまとった人物が見られるようになったと言います。
終わり。