9.決算書で世界は変わる
カーセ戦線が整い、物資が回り、兵士たちが笑い始めたころ。
私は、戦場から送られてくる全補給報告・予算・戦果報告をまとめていた。
そう──いつもの“決算処理”である。
私は戦わない。
魔法も使えない。
剣も振れない。神託も下さない。
だけど──数字は読める。流れを見通せる。未来を設計できる。
王宮に戻った私は、全戦線の状況を1枚の報告書にまとめた。
【王国軍・戦局再建決算書】
・予算消費率:63.4%(前年比-21%)
・兵站効率:160%(前年比+44%)
・負傷者回復率:92%(前線バフ影響)
・補給遅延件数:0件(記録更新)
・士気維持率:平均+3段階上昇
【特記事項:陽属性精霊“ミカン・ザ・テンアゲ”による士気強化】
【副次効果:戦闘時離脱率減少・再出撃率上昇・恋愛感情拡散(!?)】
──うん、やっぱりおかしい。
これ、経理処理の範囲を越えてる気がする。
「白河殿、これは……」
報告書を見た王と王太子が、言葉を失っていた。
「そもそも“戦争”に勝ったというより、“組織改善”で勝ったと言った方がいいのでは……」
「いや、“ギャル的組織美学”が、軍に通用している……?」
「もはや戦術より、概念が勝っている……?」
王宮は騒然となった。
“異世界に転生したOLが、地味に帳簿を回しただけで戦争を変えた”という記録が、王国の史書に刻まれた瞬間だった。
だが──それだけでは終わらない。
私は、あの“帳簿の魔眼”に、ひとつの質問を投げかけた。
「ねえ。……このスキル、なんで“ギャル”だったの?」
【問いを受理】
【補足情報:文化的バランス補完スキル“陽性中和特化型”】
【解析中……】
返ってきたログは、かつてない量だった。
【対象世界:陰性エネルギー過多/過去神代から“抑圧・規律”が支配】
【召喚者:構造化思考・規律志向・合理性=陰性適性MAX】
【相殺のため、“陽性文化圏”よりギャル的感性を補完スキル化】
【意義:世界の“バランスを整える”】
──つまり。
私は、“地味で合理的すぎる性格”だった。
だからこそ、私には“真逆”の概念──ギャル文化のような、
明るく奔放で、ノリと勢いと感情で動く力が必要だった。
それがスキルという形で融合し、
今、私という“存在”が、この異世界でバランスを取っている。
「……じゃあ、私は──この世界の“補正値”なの?」
返事はなかった。
けれど、私の胸には妙な納得感があった。
経理。帳簿。整理整頓。数字。無駄の排除。
それだけで世界は救える。
でも、人は数字だけでは動かない。
感情が、盛れが、テンションが、流れを作る。
──私は、世界の“決算”だった。
過去の失敗と、未来の予算を繋ぐ。
静かに、冷静に、でもギャルの熱を内包しながら。
この力がある限り、私はこの異世界で──
“無双”してしまうのだろう。