8.ギャルスキルで戦場を再構築
聖女の座を辞退し、“ただの経理技官”として再び実務に戻った私だったが、休む暇はなかった。
その週、王国南部で大規模な衝突が起きた。
貿易要衝であるカーセ辺境に、隣国の傭兵団が侵攻したという。
「白河殿、前線へ出ていただきたい」
王の言葉だった。
兵站が壊滅寸前だという。物資はあるのに動かない。補給線はパンク寸前。
──そう、いわゆる**“現場の経理崩壊”**である。
「私が行っても、戦えませんよ?」
「戦うのではない。……回すのだ。物資、予算、人員を。
君にしかできぬ、あの“整理の魔術”で」
そうして、私は戦場へ向かった。
***
カーセ地方。焦土と化した野営地。
騎士団は疲弊し、補給は遅延し、連携は瓦解寸前だった。
「倉庫の中身、ぐちゃぐちゃじゃん……」
食糧と武器、薬草と飲料が、すべて混ざって山積み。
仕分けもなく、消費期限も無視。必要な装備が必要な場所に届かない。
──これが、前線の実態。
私はひとつ、深呼吸をしてスキルを起動した。
【スキル:《経理ギャル降臨(☆あげあげ収支管理☆)》発動】
【対象:戦場物流/補給動線/物資分類/人員配置】
【連動:地味かわ無双/バグらせ体質/盛れ視覚補正】
魔方陣が走り、空間が色づく。
光のフレームが展開され、兵士たちが“配置”されていく。
「第3倉庫の薬草は本陣ではなく東砦へ。
武器類は剣と盾を別配送。軽装部隊に斧は不要。
大型輸送は日暮れ前に。気温管理、忘れずに」
私は指示を飛ばす。
なぜか全員が、真顔でうなずく。
地味な命令、正確な分類、声に抑揚はない。
でもその姿に、“神託のような説得力”が宿っていた。
なぜか?
答えはスキルだ。
【“盛れ視覚補正”効果:本人の行動すべてが“ドラマティック”に映る】
【周囲に与える印象:女神降臨/光の司令官/存在感MAX】
【副次効果:士気+40%、命令遵守率+70%】
──ギャルの“盛れ感”、ここに極まれり。
そしてもうひとつ、戦場にて私が起動した“最終スキル”がある。
【スキル:《あげみざわ召喚》発動】
【条件達成:テンション/達成率/業務満足度が最大に達したため】
【召喚:バイブス精霊出現】
「うぃーっす☆ 現場のヤル気、ブチ上げにきました~!」
突如、空中に現れた“パリピ系の精霊”が、ラメのマラカスを振りながら踊り始めた。
その瞬間、兵士たちの表情が変わった。
「……な、なんだこの力……?」
「身体が軽い……痛みが引いた……」
「なんか……やれる気がする……!」
そう。
テンアゲ精霊は、“状態異常回復+士気上昇+感情安定”の複合バフを持つ。
見た目はふざけてるが、性能はガチ。
その場の空気が変わる。
ぐちゃぐちゃだった戦場に、秩序が戻り始めた。
私は、戦うことなく、戦場を再構築した。
経理で、物流で、ギャルスキルで。