表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7.聖女の座を奪った地味女


 王宮の中枢、神殿評議室。

 祭壇を模した空間で、私はアリシア=ルーメンと対面していた。


 


「──聖女として、貴女に問います」


 彼女の声は、澄んでいた。

 魔力と聖光が混じり合う響き。神の器にふさわしい、清らかな響きだった。


 


「なぜ、貴女の周囲では人がひれ伏し、告白し、従っていくのです?」


 


 私は、静かに答える。


 


「わかりません。私は、黙って帳簿を見ていただけです」


 


 その言葉に、室内がざわめいた。


 だが、アリシアだけは静かだった。

 その目にあるのは、怒りでも嫉妬でもない。

 もっと深い、困惑だった。


 


「……私は、“信仰”の力をもってしても、貴女のようにはなれません。

 貴女が持つ“視線”と“沈黙”には、人の心を揺らす力がある。

 ……それは、“神聖”ではありません。だけど──抗えない」


 


 私は、少し考えてから答えた。


 


「多分、それ、“ギャルスキル”の影響です」


「──ギャル?」


 


 異世界の人々には聞き慣れない言葉だろう。

 だが、スキルに表示された文字は間違いない。


 私に付与されたのは、「地球文化由来:陽の民の感性体系」、通称──ギャルスキル群。


 神の誤配、あるいは文化の逆流。


 けれど、今やその“異物”が、王国中枢に根を張っていた。


 


「……認めましょう」


 アリシアが、そっと右手を掲げる。

 聖光が収束し、光の羽根が舞い上がる。


 


「あなたが“正統な聖女”ではないことも、

 それでもこの世界に“影響を及ぼしている”ことも──事実です」


 


 周囲に緊張が走る。


 そして、彼女が言った。


 


「よって、ここで一つ、儀礼的な“対話”を提案します。

 聖女の座が必要なわけではないでしょう?

 ですが、周囲がそうは見てくれない。ならば──ここで、決着を」


 


 ……やっぱりそうなる?


 


 私は深く息をついた。

 戦いたくない。暴れたくもない。

 でも、これ以上“無自覚無双”を続けても誤解が広がるだけだ。


 


「わかりました。……ただし、私の“戦い方”は、数字とスキルです」


 


「ええ。私の戦い方は、祈りと光です。

 ……形式は違っても、“意志”が届けばそれで十分でしょう」


 


 こうして始まったのは──“聖女対決”という名の、文化衝突だった。


 


***


 


「この予算書、各地の神殿への補助金配分が聖光信仰の偏重に偏っています」

「神の意志に基づく分配です」

「では、光を持たぬ者は補助の対象外なのですか?」

「……っ、それは……!」


 


「人々の声を無視しては、信仰は維持できません」

「光の加護は、万人に平等です!」

「ですが、帳簿を見る限り、“加護を届ける経費”が偏っています」


 


 光と数字。信仰と現実。

 言葉と、黙って掲げられる資料。


 ──その全てが、評議室を揺らしていた。


 


 最終的に、評議長が言った。


 


「アリシア殿。……あなたの光は、たしかに聖なるものです。

 だが、静殿の働きは“地に足の着いた奇跡”でした」


 


 神官たちが頷く。

 騎士たちが静に頭を垂れる。

 民衆の声が届く前に──“数字”が、世界を説得していた。


 


 アリシアは、肩の力を抜いて言った。


 


「……負けました。

 あなたは“聖女”ではない。けれど、

 この国にとって、希望です」


 


 そうして、私は“地味な経理女”のまま、

 光の聖女を“説得で”退けた。


 


 これは、聖なる戦いではなかった。

 ただの、ギャルスキルと帳簿の力による、静かな無双だった。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ