表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

4.裏帳簿に潜む影

 


「この会計処理、どう見てもおかしい」


 


 王国予算会議──正式には「年度再建特別会合」。

 王族・高官・ギルド代表・一部貴族が集まり、財務再建案を審議する臨時会議に、私は“技術参与”として帯同していた。


 技術といっても、私が扱うのは“帳簿”だけ。

 だがその視線は、すでに王国の最奥に届いていた。


 


「この“宮廷祝賀費”の支出先、領主家の名前が二重で登録されています。

 しかも金額がほぼ同額。……これは二重取りです」


 


 場に緊張が走る。

 私が差し出した帳簿には、ある貴族の名前が──二重に記載されていた。


 傍らにいた筆頭財務官が額に汗を浮かべながら口を開く。


 


「ま、待ちなさい、これは、古い記録の名残であって……! い、一概に不正と決めつけるのは──!」


 


「では、なぜ片方の支出だけに“納入証”がないのでしょう?」


 


 沈黙。

 それは、確かな“穴”だった。


 そしてそのとき、スキルがまた自動で反応した。


 


【スキル:《沈黙は最強の説得》発動】

【対象者の“発言意図”と“内部ロジックの整合性”を解析中……】

【結果:虚偽/合理性破綻/反論無効】

【影響:周囲が“真実”と確信し、対象を心理的に追い詰めます】


 


 私は、何も言っていなかった。

 ただ、黙って帳簿を指さしていただけ。


 なのに──


 


「……まさか、伯爵が……」

「こんなあからさまな不正……なぜ今まで気づかなかった……」

「いや、これは……きっと氷山の一角……」


 


 場がざわつく。

 疑念が波のように広がっていく。


 その中心で、私はただ静かに視線を落としたまま、再びペンを走らせる。


 


「これは、仮説ですが──予算の流れに意図的な“隠し経路”があります。

 複数の名義を使って補助金を分散、実質的に一系統の家に流れている構図です。

 帳簿の癖から見て、管理している人物は一人……筆跡と記録時間の一致から考えると──」


 


 私は、財務官の方を見た。


 彼は、青ざめていた。


 


「わ、私は……!」


 


 その瞬間、背後の警備兵が動いた。

 すでに控えていたらしい。


 財務官は、騎士たちに押さえられ、呆然としたまま連行されていく。


 貴族たちは誰も動かない。

 全員、わかっていたのだ。


 


 この地味で無口な女が、“聖女ではない”と判定されながらも──

 “国家の裏帳簿”を暴き、たった一言も発さずして人を潰したことを。


 


 会議の終盤、王が重い口を開いた。


 


「白河静殿……」


「はい」


「……我が国の財政は、すでにお主の目を離してはならぬ段階にある。

 我が願いだ。──今後、王国会計全般の“監査権”を汝に与える」


 


 どよめく議場。

 女官が震えながら“異例中の異例”である王命を書き記す。


 私は、静かに一礼した。


 


「承知しました」


 


 それは、国家中枢に“地味で静かなOL”が入り込む、決定的な瞬間だった。


 異世界の権力構造に──経理が食い込んだ。

 ギャルスキルを帯びた“帳簿魔女”が、世界の数字を握り始めた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ