10.聖女じゃない。けど、世界は私を見た
報告書の山を積み上げた机の前で、私は今日もペンを走らせている。
あれから、王国は変わった。
戦争は収まり、財政は立ち直り、軍も役所も“動く組織”になった。
贅沢と無駄遣いは減り、人々の生活が少しずつ安定し始めている。
だけど──
「……仕事、減らないんだけど」
吐き出すようなため息。
私は相変わらず、地味で静かな経理技官だ。
外見のスキルは相変わらず暴走していて、服は“やや”盛れてしまい、
最近は“沈黙するだけで王族が謝る”伝説が勝手に増殖している。
そして──
「白河殿。お暇、少しいただけますか」
声をかけてきたのは、王太子だった。
相変わらず礼儀正しく、少し緊張気味に、私の机の前で直立している。
「……何か、ありましたか?」
「ええ。いや……この国の財政も、軍政も、貴女の力なしでは立ち行かない。
ですが、貴女は“職位”を一切望んでいない。
……それならせめて、“旅”くらいしてみてはどうかと」
旅。
私は一瞬、ペンを止めた。
「世界には、まだまだ“整理されていない”場所が多い。
戦争で荒れた村もあれば、物流が寸断された地方もある。
貴女の目と、力があれば──どれだけの人が救われるか」
それは、任務ではなかった。
“選んでもいい”自由の提案だった。
……たしかに。
この国の中では、ある程度の整備は済んだ。
でも、外にはもっと複雑で歪んだ仕組みが広がっているのだろう。
私のスキルは、“陽の補正”として機能している。
整え、まとめ、最適化する力。
無理やりでも、無意識でも、私はもうこの力を使うしかないのかもしれない。
「……わかりました」
私は、静かに答えた。
「ただし、条件があります」
王太子は一瞬、息を飲んだようだった。
「“聖女”という呼び名は、今後一切禁止。
私はただの“地味OLスキル持ち”です。現場の経理係ですから」
「……ふ、ふふ。なるほど。承知しました」
笑った。
王太子が、心から笑ったのを見たのは、これが初めてかもしれない。
***
数日後、私は荷物をまとめ、王宮を後にした。
黒髪ボブ。無地の服。背筋の伸びた姿勢。
だけど──後ろ姿には、ほんのわずかな光の粒が舞っていた。
それは、“聖属性”ではない。
でも世界は、静かにそれを見送った。
「行ってらっしゃい、“白の帳簿聖女”──」
そんな呼び名は、きっとすぐに忘れ去られるだろう。
でも、それでいい。
私は、地味でいい。静かでいい。
ただ──スキルとともに、この世界を“整えて”いければ。
ギャルのスキルと、経理の誇りを抱えて。
──地味な私が、再び世界をバグらせる旅に出る。
* * *
そしてその夜。
神域の片隅で、小さな声が交わされた。
「──やっぱ、ギャルって神だったな」
「陽の文化、マジやべぇ」
「地味OLにギャルスキル仕込んだやつ、誰?」
「オレだわ。マジ反省してない」
神々の遊びは、終わらない。
お読みいただきありがとうございます。
地味で静かなOLが、なぜか“ギャルスキル”で異世界を整えてしまう──
そんなギャップ全開の10話読み切りを書かせていただきました。
聖属性ゼロ、戦闘力ゼロ、でも整える力は神域級。
戦わずして世界を変えてしまう“静かなる無双”を、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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静かに整える無双劇、次回が見たいという声があれば続きます!(たぶん)
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