1.帳簿の魔眼と、聖女詐欺のはじまり
はじめまして、またはこんにちは。
地味な経理OLが、異世界でなぜかギャルスキルを授かってしまったら──
そんな、静かにおかしくて、気づけば無双してしまう物語を書きました。
聖女でも勇者でもない彼女が、
帳簿とスキルで王国を整え、人々の心を動かしていく。
戦わず、語らず、でもいつのまにか“中心”にいる。
そんな“沈黙系最強”が好きな方に届けば嬉しいです。
好感度がバグったり、帳簿が光ったり、世界が勝手に従ってきたり──
そんなよくわからない方向に進みますが、どうか最後までお付き合いください。
※ご感想や評価をいただけると、とても励みになります!
転職活動を考え始めていた矢先に、私は“神の間”へ召喚された。
……なんて言っても、これが比喩じゃないのだ。
昼下がり、勤め先の会議室で伝票整理をしていたら──いきなり床が光って、天井が抜けて、目の前が真っ白になった。
目を開けた先は、荘厳な玉座の間。
金の柱に、大理石の床。奥には神官服の集団。脇には……鎧の兵士と、装飾過多の老人。
どう見ても、異世界だった。
「──女神の加護を受けし者よ! よくぞおいでくださいました!」
そう言って、髭も眉も白い老人が手を広げてくる。
え、誰?
なぜ私はここに?
あとなんでこの服、パジャマじゃないの?
──そう思った瞬間、頭の中に“情報”が流れ込んだ。
召喚理由。聖女候補。女神の加護。魔王の再来。光の力。
……テンプレ通りのファンタジーだ。
でもその中でひとつだけ、私は引っかかっていた。
(……“聖属性保有者”である可能性……?)
私、地味なOLですけど……?
たしかに数字には強いし、経理の腕には自信ある。
でも「世界を救え」って言われても、領収書しか処理できませんが?
それでも、私はそのまま壇上に立たされた。
周囲からは「美しい……!」「聖女様だ……!」という声が上がっている。
違う。
私、ただのアラサーOLなんですけど。
「では──聖属性測定、始めッ!」
神官の声が響く。
私の前に置かれたのは、水晶のような光球。
それに手をかざした瞬間──
【属性適性:聖属性 0(ゼロ)】
空間が、凍った。
「…………ゼ、ゼロ……?」
「ま、待て、これは測定器の故障では……」
「えっ、こんな美貌でゼロって逆にすごくない……?」
ざわざわとどよめく王族たち。
私はそっと、手を下ろした。
「……すみません、あの、帰っていいですか?」
返答はなかった。
全員が、目を逸らした。
──地味なのに。
──美人すぎて聖女に見えたのに。
──でも、属性ゼロ。
これが、聖女詐欺のはじまりだった。
***
それから、私は幽閉……もとい、“保護”された。
城の一室に通され、食事は豪華。着替えも用意され、召使もついた。
でも、誰も私に話しかけようとしない。
使節も、王族も、神官も、みんな“関わるな”という目で見てくる。
「……これ、完全に“なかったことにされてる”やつだな」
呟いた言葉は、誰にも届かない。
届いていたのは、たったひとつ。
【特殊判定──異文化適性検知】
【該当者に“世界バランス補完スキル”を自動付与します】
【スキル選定中……】
え?
今なんか変なログが……?
頭の奥に、無機質な声が流れ込んできた。
【魂の偏り補正を確認──地味:陽性成分不足】
【“陽”の文化データからスキルを選定します】
【選定対象:ギャル文化・強気文化・盛れ主義】
【付与スキル一覧:】
ちょ、ちょっと待って。
ギャルって言った? 今、ギャルって言ったよね?
【スキル《帳簿の魔眼》を付与しました】
【スキル《経理ギャル降臨(☆あげあげ収支管理☆)》を付与しました】
【スキル《好感度バグらせ体質》を付与しました】
【スキル《沈黙は最強の説得》を付与しました】
【スキル《地味かわ無双(見た目無自覚補正)》を付与しました】
「………………えええええええええええ!?」
部屋に響き渡る、唯一の悲鳴。
私の異世界生活は、“ギャルスキル”から始まった。