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三題噺もどき4

夕暮

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくろく。

 



 橙に染まる街並みは、いつ見ても美しいと思う。

 徐々に暗闇に包まれていくその様は、何とも言えない高揚感に襲われる。

 空の青は濃ゆくなり、橙へと変わり、紫も混じりだし。

 陽の沈む直前に山並みは赤く燃える。

「……」

 あぁ美しきかな。

 そのまま陽の支配から逃れ、月の浮かぶ夜が来る。

 いっそそのまま宵闇に包まれていればいいとは思わなくもないが、それでは意味がないのだ。移り行くその様を目に移してこそ、高揚のままに夜を楽しめる。

「……」

 冷たさの増す冬の風に肌を刺されながらも、陽が沈むまで見て居たいと思う程に、私はこのベランダから見える景色が好きだ。

 もちろん、太陽がそこにいる事に変わりはないから、冷たさと共に陽の刺す痛みもなくはないが。そんなものは大した痛みにはならない。多少チクチクする程度だ。

 ……それでもアイツは嫌がるけれど。

「……」

 ぼうっと眺める夕暮れの空に、

 列をなす鳥が行く。

 アレは渡り鳥だろうか。この時期にどこへと行くのだろう。

 目を凝らしてしまえば何の鳥なのか分かってしまうけれど、それは面白みもないというものだ。ああいうのは、遠くから眺めているのが丁度いい。

「……」

 きいきいと、鉄と鉄がこすれるような音がする。

 公園でブランコにでも揺られている子がいるんだろうか。

 少し離れたところに公園があるので、時期になれば酒盛りをする人々がいたりする。

 寒い日が続く最近は、静かだったが。春になればきっと騒がしくなるのだろう。

「……」

 手に持っていた煙草を口に運び。

 ほう―と息を吐く。

 結局今年もやめられずじまいだろう。

 この景色を見ながら、こうして一服するのが毎日の楽しみなのだから、どうしようもない。

 アイツも今年は諦めたようだ。

「……」

 更に少しづつ染まり出す空。

 もう少し眺めて居たいところだが。

 さすがに今日は寒さが勝る。

「……」

 それと、道路からやけに視線を感じる。

 何かと思えば帰路についているらしい子供たちだった。

 この時間に出歩いているのはいかがなものかと思うが、塾とやらに行っていればそんなものだと教えられた。

「……」

 何が珍しいのか分からないが、人をそんなにじろじろと見るものではないぞ。

 人でないものなんて、特に見るものではない。

 ベランダに置かれている灰皿に、煙草を押し付け、火を消す。

「……」

 未だに見続ける子供に、ひらひらと手を振ってみながら、室内へと戻る。

 ベランダから見えるキッチンには、すでに食事の用意を始めている姿があった。

 生真面目にエプロンをしている姿は、さすがに見慣れたが、なんというか……こういうと怒られるが、可愛らしく見えてしまうな。

「……」

 窓の鍵を閉め、今日の朝食は何かとキッチンを覗いてみる。

 材料的にはスープか味噌汁あたりを作っているようにも見えるが、はて。

 そう思い、包丁を扱っているところにぐいと顔をのぞかせる。

「……なんですか」

 と。

 そういいながら、ボロ―と、突然涙を流すから、何かと思った。

 多分、ギョー!?という効果音が聞こえたと思う。

「なんだ、玉ねぎ切ってたのか」

「なんだって何ですか」

 こればっかりはどうしようもないんですよ。

 そうぶつぶつ言いながら、また包丁を動かし始める。

 ……その対策方法はあるらしいのだけど、コイツはまだ知らないらしい。常温にしていたらいいんだったか。まぁ、教えたりはしないが。

「……煙草臭いですよ」

「あぁ、すまん。風呂に入ってくる」

 煙草を吸ったから風呂に入るのではなくて、風呂に入る前だから煙草を吸ったのだ。

 毎日やっていたことだし、毎日やっていくことだ。

 決して。臭いと言われるのが悲しいからとかではない。

「……上がったら教えてください。ご飯を炊くので」

「わかった」

 部屋に戻りながら、そう告げる。

 着替えを取って、風呂に入って。

 出来立ての朝食を食べて、今日も働くとしよう。




「そういえばさっきベランダにいたら子供に見つめられたんだが」

「……はぁ」

「なんかおかしなものでもあったのか?」

「この時期のこんな時間にあんな薄着で外にいるからですよ」

「そんな薄着だったか、あれ」

「……半袖は薄着です」










 お題:渡り鳥・ブランコ・涙

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