8 自慢の姉
SFです。
ここから視点が変わり過去になります。
どうぞよろしくお願いします。
私には自慢の姉がいる。
3歳年上で愛という名前だ。
頭も良く正義感も強く、しかも美人。
小さい頃は『素敵なお姉さんがいていいな』と言われることが素直にうれしかったけれど、成長するに従い、その言葉は『あの人の妹か!』『お姉さんはすごい人なのに、君は普通だね』『あの子の妹ならもっと才能あると思ったのに』と変化していき、増えていく。
初めて会った人にも言われたことがある……、私は、自分が優秀過ぎる愛の……、妹であることを呪うような気持になっていた。
だったら別の道を選べばいいのに、吸い寄せられるように同じ学校に進み、同じように医大を目指した。
姉ができたのなら、私だってできるという、変な対抗意識もあったのかもしれない。
姉の愛は医師として現場に出るのではなく、医学者として研究の道に入った。
コールドスリープの研究でたちまち頭角を現し、新たな治療法のひとつとしてコールドスリープ療法を確立した。
ただ、この治療にはたくさんの治療費がかかる。
受けられる人も経済的に余裕がある人に限られる。
未来のある子ども達、数年先ならば薬が治療法が発見されるかもしれない、そのようなケースにもっと適用できないかと姉は苦心していた。
その時、コールドスリープとスペースコロニーを組み合わせて、地球の人類を他の星系のハビタブルゾーン内と思われる惑星に向けて送り出すプロジェクトが進められていて、その研究開発に姉は関わることになった。
『宇宙の方舟計画』
すでに私達が生まれた頃の地球は温暖化が進み、地表には人間が住みにくい環境になっていた。
地下に、海中に都市を造り、生活していた。
ただ、地表は巨大な太陽光エネルギーを生み出せる発電所となり、そのエネルギーのおかげで人類は何とか生かされていたのだろう。
その研究開発チームで姉は、御蔵隼人と出会った。
ふたりはたちまち惹かれ合い、恋人となり婚約者となった。
隼人は新進気鋭の宇宙工学者としてスペースコロニー部分の設計やその後の宇宙における環境維持の中心人物だった。
宇宙船を打ち上げ、その後、宇宙船はスペースコロニーに変形し、コールドスリープの乗務員達が目覚め、生活……というより、もう人類の営みと言えるような長い年月を命を継いで生きていくことになる。
無事に新天地といえる生存可能な惑星を見つけることができたら、長期のコールドスリープの100人が目覚めて、その時の乗務員達と力を合わせて都市を造ることになっている。
そして乗務員達を守り、補助するために、クローンチャイルドを使うという方法が考え出された。
長期コールドスリープ組には優秀な才能がある人材が多い。
彼らのクローンに乗務員達の手伝いをさせればいい。
クローンには制限をかけず繁殖可能にすれば、長い期間を繁殖人員としても利用することができる。
新天地に着くころにはオリジナルと同じクローンの血は完全に薄まり、同時期に同じ人間が、片方はクローンだが、存在することはない。
コールドスリープの成功率は姉の研究の成果でかなり高くなり、安全性も高まっている。
しかし、宇宙空間、しかも100年以上、もしかしたら1000年単位のコールドスリープはまだ未知数なこともあり、万一、機械やコンピューターにトラブルや不具合、事故が生じたら、目覚めないまま死亡する可能性だってある。
それでも、地球の未来を憂う人は多く、『方舟』に乗って新天地を目指したいという人もそれなりにいたのである。
愛と隼人は専門分野は違えど『宇宙の方舟計画』に欠かせない存在であり、若き指導者だった。
ふたりの周りには若い学者達が集まり、様々な工夫を凝らしたスペースコロニーの居住空間の長期維持の工夫が論じられ、実験が行われていた。
植物学者で鈴木晴樹という名の女性がいた。
私と同学年で、かわいらしい雰囲気の人で……。
若い学者達のヒロインやマドンナという位置にいたと思う。
私はクローンの方の研究に少し関わっていて、医学的なアプローチで教育をするという研究をしていた。
そのため施設面の研究開発からは少し離れた位置にいた。
私は晴樹が少し苦手だった。
彼女はかわいらしい雰囲気ではあるが、周囲をうまく利用する強かさを持っていることに気がついたから。
彼女は周囲の若い学者達からちやほやされることを楽しんでいたが、ある時から、隼人の気持ちを自分に向けようと動いているのでは? と思うことが増えていた。
スペースコロニー内で植物を育てるということは大変重要なことだ。
大きな動物は飼育管理が難しいので、新天地でクローンを誕生させる用意はしているが、宇宙空間では植物がすべての食物や水や空気の元になると言ってもいい。
スペースコロニーの施設面の責任者である隼人と打ち合わせをする機会が増え、隼人はそのつもりはないようだったが、じわじわと周囲に隼人が愛と別れて晴樹を選んだようだという話が広がり始めた。
外堀を埋める。
言い得て妙な言葉だが、愛と隼人はそのような状況にじわじわと追い込まれていった。
読んで下さりありがとうございます。
時間と視点を行き来すると決め2章の最後の方で、物語の構成ができ、1章の次に書いていて没にした話がエピローグになることに気がつきました。
まだ執筆中なのにエピローグは書けてしまった。
後はパズルを埋めていくだけ。
これからもどうぞよろしくお願いします。