エピローグ どんな世界でも君と
コールドスリープとクローンを組み合わせたSFです。
このエピローグで完結となります。
最後までお付き合い、どうもありがとうございます。
俺はアイとずっと一緒にいられると思っていた。
何も言わなくてもわかってくれるような、魂の片割れのような存在。
だから、距離を置かれ始め時には驚いたし、信じられなかった。
ミアには警告されてた。
「ハルには気をつけた方がいいかも」って。
そんな気をつけるも何も俺達は大丈夫と思っていたら、カイがハルに避けられているとボヤき始め……。
そのせいでカイがアイが気になると言いだして、ハルがアイと一緒に行動しようとすることが増え……。
何故か、アイは人工繁殖を、つまりパートナーが必要ないと決めてひとりでどんどん話を進めてしまい……。
気がついたらハルが不安がって、アイがハルのためにグループから身を引いたみたいなことになってた。
ところがそのせいもあり、第1グループと合同でという話になるとハルは再びアイをグループに戻そうとして拒絶されたそう。
ハルはアイに『不安だ』と縋って、自分を守るように動かしていたようだ。
「でも、もうアイは決めたから動かないよ」とミアには言われた。
それはハルに対して?
それとも俺に対しても?
アイは本当に徹底的にハルと俺との関りを避け、人工繁殖の準備に入ってしまった。
ミアとカイが様子を見に行くと不安がって泣いていたそう。
誰の精子がということではなく、処置の怖さで泣いていたという。
バカだよ、アイ。
そんなに怖いなら最初からやめておけばいいのに。
ミアが言った。
「アイはやめないと思うよ。
自分が人工繁殖を選んで犠牲になることが、ミクラとハルのためになると思ってるから。
そんだけミクラのこと好きなんだね、アイって……」
カイがびっくりした顔をして俺を見た。
俺は顔を歪めた。
「でも、もう話すらしてくれない。
アイと話すこともできないのに、どうやって……。
どうすればいいんだよっ!」
「もう襲っちゃえば?」
カイがびっくり顔をミアに向ける。
「アイは頑固だから、話しても認めないと思うよ。
もうミクラの本気を伝えるなら襲っちゃうしかないんじゃない?」
「それは、さすがに……」
「まあね。
ミクラには無理だと思う。
でも、ここで止めないとアイはもういなくなっちゃうよ」
俺は頭の中がぐちゃぐちゃのまま、ミスターの部屋に走って行った。
ノックしようとするとドアが開いて、ミスターBとぶつかりそうになる。
「あ、いいところに。
呼びに行こうとしてたんだ!」
俺の表情を見て、ミスターBは微笑んだ。
「何か決心したって顔をしてるな」
部屋の中に入れてくれ、俺の吐き出した整理されていない話をただ聞いてくれる。
俺がすべてを吐き出すとミスターBは言った。
「これからシフトだな」
「はい、アレクと一緒です」
「シフトが終わって、睡眠を取ったら、朝食後にここに来い。
頼みたいことがある」
明日はアイの処置日だ。
「焦るな。
まだ時間はある。
処置の前に会える時間を必ず作ってやる」
シフトをこなし、寝たのか寝てないのか自分でもわからない時間を過ごし……。
朝食後にミスターの部屋を訪ねる。
ミスターAとBのふたりがいて、俺がアイの人工繁殖のパートナーに選ばれたと言われた。
俺は戸惑ってミスターBを見る。
「詳しい説明をする。こちらに」
ミスターBが俺を連れて部屋を出る。
連れて行かれたのはほとんど入ったことのない医療系の区画で……。
「ここが処置室?」
俺の言葉にミスターBが頷いた。
「これからアイが来る。
私達はアイが人工繁殖の希望を取り下げることを期待している。
そうすればミクラ、君からパートナーになって欲しいと話をすることができるはずだ」
「もし、取り下げなかったら……」
「そうだな。
その時は……、まあ何とかしよう」
俺とミスターBは処置室の大きな機材の陰に隠れた。
アイがミセスBに連れられて入ってきた。
アイの声が震えている。
抱きしめてやりたい。
もう怖がらなくていいと、伝えてやりたい。
薬を渡されたアイが少しの間、躊躇している雰囲気が伝わってきた。
取り下げるなら、今だ!
「人工繁殖、やめる?」
ミセスBの声がして、アイが薬を飲む音が聞こえてきた。
「う……、うがいしても大丈夫?」
「ええ、飲み込んだならうがいしても水を飲んでも大丈夫よ」
アイが立ち去る音と、ドアが閉まる音がした。
俺達は陰から出た。
ミセスBが微笑んだ。
「今、アイに飲ませたのは睡眠薬です。
まもなく彼女は寝てしまうわ。
1時間ほどで目が覚めます。
アイと話し合いなさい。
私達がしてあげられる最後のチャンスです。
もうあなた達は16歳。
パートナーになれます。
できたら……、抱いてしまいなさい」
俺は驚いた。
先生達にそんなことを言われるなんて思ってもいなかったから。
でも、本当にこれがアイと話せる、会える最後のチャンスなんだとひしひしと感じた。
「誰にも彼女を渡したくないのでしょう?
そして彼女もあなたのことを愛しています」
俺は必死に溢れ出そうな自分の気持ちを抑えて、アイが入って行ったドアを開けた。
部屋になっていた。
ベッドや棚があり、病院の設備みたいな感じだ。
その奥の薄いドアの方からシャワーの水音が響いてくる。
そこが風呂場なんだろう。
シャワーの音が止んで、水音がした。
湯舟に入ったのか?
睡眠薬を飲んでいるなら湯舟の中は危険では?
ドアにくっつくようにして中の気配を窺った。
その時、壁を叩くような音がして、ばちゃんと大きめな水音。
慌ててドアを開けると湯舟にアイが沈みそうになってて、俺はアイの頭を掬い上げるように抱いた。
「バカアイ!
死ぬとこだったぞ!」
俺はアイに口づけした。
ずっとしたかったけれど、ずっと我慢してきたことだ。
眠っているアイは少し苦しそうな顔をして俺を押しのけるような素振りをする。
ぐったりとしたアイを湯船から出すのはとても大変だった。
棚からタオルをたくさん出してアイを包んで、髪の毛もよく拭いてやった。
俺ももうびしょ濡れだ。
とりあえず、濡れた服を脱いだ。
アイを抱えてベッドに横たえ、タオルを剥がしていく。
アイは眠っている。
俺はアイを抱きしめた。
「やだ……、助けて……」
俺はアイから身体を離して顔を見た。
目を瞑ったまま、泣きそうな表情で呟いている。
「やだ、助けて、ミクラ……。
ミクラじゃなきゃ、やだ……」
「アイ!!
俺だよ! ミクラだ!」
アイが目を開けた。
「あ……、ミクラだ」
安心したようににっこり微笑むとまた目を閉じた。
俺はそれで安心して、アイを抱きしめることができた。
俺の腕の中にアイがいる。
それだけで幸せだと思った。
心の底からアイを愛しいと思った。
もう離さない。絶対守る。誰にも触らせない。泣かさない。
アイは自分達をクローンチャイルドと言って、人間として扱われてないことに、たぶん俺達の中でも一番敏感に気がついている。
俺だって思うこともある。
でも、そんな中でも、今、生きているんだから。
小さな世界でも、例え、違う存在に命を握られているとしても……。
俺はそんな世界の中でもいいから、アイと一緒に生きたい。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
たぶん2章にミクラ視点を持ってきてたら、延々とスペースコロニー内の話を書くことになりそうだなと思い……。
でも、何が起きたか(恵視点の話で予想ついてるでしょうが)書いておきたいなと思ってたので、最後に持ってくる構成を思いついたのは良かったと思います。
私の書く主人公はSFでも異世界物でも、基本、アイや恵みたいな子が多いです、はい。
アイを気に入ってもらえたら、他の作品もぜひ読んでみて下さいませ。
最後まで読んで頂けたら、評価の方どうぞよろしくお願いします。
感想もお待ちしています!!
この話を書き終わってから、それぞれの姓について調べたら、御蔵さんって非常に珍しい姓だったのですねっ!
『転生ガチャ』の登場人物のミクラから名を取ったので、漢字は後から決めました。
カッコいい姓ですよね。
私の結婚前の姓が二文字で6画という超シンプルだったので、余計にそう思います。
最後までお付き合い、ありがとうございました!