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宇宙の方舟 ~妹とクローンが繋いでくれた愛~  作者: 月迎 百
第2章 過ちをくり返すのか (恵視点)
12/16

12 アイとミクラ

コールドスリープとクローンと宇宙開拓のスペースコロニーと舞台はSFです。

重めな設定でしたが、無事にハッピーエンドにできました。

後もう少しでラストです。

最後までお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

「まだ次期が早いわ」

 ミセスAには言われてしまった。


「プラネットチャイルドと過ごしてきた私達には、あの子達が普通の人間の子どもと変わりない存在だとわかりますが……。

 それは他の者にはどうなのかしら……ね」


 ミスターAは少し考えてから言った。

「これからのグループはどうするんだ?

 約5、いや4年後に第3グループ、それから19年後に第4グループだな。

 そこまで来てから考えられることなのでは?」


「私達にはわかるということは、交流を持ってもらえば、ということですよね。

 それを始められないでしょうか?」

 私は食い下がる。

 ミスターBはそんな私を見て助けるように話し出す。


「せめて……、まだ若い第2グループのメンバーだけでも、外部と交流を持てるようにはできないでしょうか?

 例えば、学校のイベントなど限定で参加させるとか……」


「うーむ。

 しかしそれだと第1グループが……。」

 ミスターAが唸り、それを見たミセスAが言う。


「第1グループを先に外部と交流させる方がいいのではないでしょうか?

 例えば、マークは薬局で働くことができます。

 アレクは病院で、ミネヴァやマリンは学校で子どもに教えるとか……。

 それぞれの知識や才能を生かした仕事ができるでしょう。

 中央コントロール室の監視業務は常時必要ですし、外部施設や生産プラントの監視業務、点検、修理業務などのシフトもありますが、月に1、2回ぐらいなら……」


 確かに彼らなら、社会の中に入り、大人として仕事をすることができる。


 私は未来を考えた。

 この社会への参加がうまくいけば、マークとミアはパートナーというより夫婦として、薬局を開設してもいいかもしれない。

 そうすれば子どもを5歳で手放すこともなく育てられる。


 ミスターAが頷く。


「そうだな。

 先に第1グループだ」


 私も頷く。

 第1グループからでも、前進だ。


「そういえばシンディとミネヴァの子は元気?」

 ミセスAが聞いてくる。


「ミネヴァの子は私の友人の家で健やかに成長してます。

 とても元気です。

 もう10歳になり、今はスケートボードに夢中です。

 我が家で迎えたシンディの子は、うちの子と本当の姉妹のように仲良く過ごしていますよ。

 もう12歳になります」


 ミセスAは微笑んだ。

「できれば、次代の子どもは引き離さず手元でそだてられるようにできたら……、いいわね」




   ☆ ☆ ☆




 アイは変わらず、ミクラとハルと必要以上の関りを持とうとせず過ごしている。

 第2グループの全員が同じ日に16歳を迎えた。

 

 第1グループは月に2回、スペースコロニー内の社会へ、仕事に行くことを始めていた。

 このことはまだ第2グループには内緒だ。


 マークはなかなかうまくやっている。

 仕事も早く正確なので、小さな支店への手伝いではなく、薬品を管理、開発する局での仕事を頼めないだろうか? と彼の上司からの依頼があるほどだ。


 アレクは定期診療の巡回医師スタッフとして、ミネヴァはコロニー内の植栽の手入れや管理をする部署に、マリンは学校で天文学の初歩を子ども達に教えている。

 それぞれ小さな職場で楽しく過ごせているようだ。

 

 しかし、月2回というペースはシフトをやりくりして何とかひねり出している状態で……。

 

「プラネットチャイルドが存在しなくなる前に、監視、点検業務を若者に引き継いで行かないといけない。

 それを早めてもいいのでは?」

 ミスターAが言い出した。


 彼は自分の担当した第1グループが社会で生き生きと働く姿を見て、心を動かされたようだ。


「ならば、研修という形で外部の子ども達にこの業務を体験してもらうのは?」

 ミスターBが言う。


 ミスターAが頷いた。

「自分達が置かれている環境を知ることもいい勉強になる。

 そして、交流にもなるか……」


「その前にアイの問題をなんとかしないといけませんね」

 ミセスAが言った。


「はい、人工繁殖のスケジュールを組んで準備を進めることで、彼女にもう一度考え直してもらいます」

 私は彼女が考え直してくれる期待を込めて言った。




   ☆ ☆ ☆




 私の期待とは裏腹に、アイはそのまま意固地になっているようだ。

 ミアやカイやササキには弱音や泣き言を言っているのに、私達には相談すらしてこない。


 ただ、彼女が仲間の友には怖いという本音を言えているのがまだ救いだと思った。


 私は姉のことを思い出し、ぎりぎりまで付き合うが、人工繁殖には進ませないという判断をした。

 ミセスAもそれを支持してくれ、ミスターのふたりも理解してくれた。

 彼らは彼らでミクラのことで心を痛めていたのだ。

 


 アイの人工繁殖予定日、当日。

 アイは緊張と不安でいつもの落ち着きがなかった。


 私は痛々しくて何とかしてあげたいという気持ちと、でも、頑固だった愛のことを思い出して『いい加減にしなさいよ』なんていう気持ちもあって……。


 私の説明に少し青い顔で頷くアイ。

 質問に答える声、聞き返す声……。少し震えている。


 私は説明を終えると液体状の飲み薬が入った小さなコップを手渡そうとした。


「麻酔の効きが良くなる薬だから、飲んで」

 

 アイが躊躇する。

 

 私はふっと微笑んで言った。

「人工繁殖、やめる?」


 アイはムッとした顔になり、コップを掴むと薬を飲み干した。


 あー、こんなところまで愛に似なくても……。

 

 薬は甘いシロップで撹拌され飲みやすくしてあるが、おいしくはない。


 アイは顔をしかめ何とか薬を飲みこんでから言った。

「う……、うがいしても大丈夫?」

「ええ、飲み込んだならうがいしても水を飲んでも大丈夫よ」


 慌てて手術着を手に風呂場のある部屋の方へ行くアイを見ながら思った。


 今度こそ、素直になるのよ……。


 処置室の陰に隠れていたミクラがミスターBと出てきた。


「今、アイに飲ませたのは睡眠薬です。

 まもなく彼女は寝てしまうわ。

 1時間ほどで目が覚めます。

 アイと話し合いなさい。

 私達がしてあげられる最後のチャンスです。

 もうあなた達は16歳。

 パートナーになれます。

 できたら……、抱いてしまいなさい」


 驚くミクラ。


「誰にも彼女を渡したくないのでしょう?

 そして彼女もあなたのことを本当は愛しています」


 ミクラは真剣な表情で頷き、風呂場のある部屋に入って行く。


 ミスターBが少し驚いたように言った。

「ずいぶんはっきりと……、大胆なことを言うんだね。

 驚いた。

 私でも、そう思ってもそこまでは言えなかったから……」


「たぶん、ここまで言ってもミクラはアイに乱暴なことはしないわ。

 アイが同意しない限りはね。

 そうでしょ?」

 頷くミスターB。


「でも、これが最後のチャンスだと覚悟して欲しかったから」

 私の呟きが静かな処置室に消えていった。

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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