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04.



アスタは陽が昇ると同時に目を覚ました。

聖女のときの習慣が抜けず、自身に苦笑する。早朝に起きては祭壇室へ向かい、(まつ)られた神像に祈りを捧げる。アスタは、神像に朝日が降り注ぐ光景が好きだった。信心がなくなった訳ではないので、窓に差す朝日へと祈る。

寝巻から着替え、一階へ降り洗面所で顔を洗う。身支度を済ませて、食卓の椅子へ腰かけてロルフが起きてくるのを待つ。

今は手持無沙汰だが、家事を習得したら彼が起きてくるまでに朝食の支度をしてみたい。それはなんだかお嫁さんみたいだ。想像してみると、憧れに頬が染まる。

ロルフが欠伸をしながら、のそりと起きてきた。そうして、アスタの姿を認めて目を丸くする。起こしてくれてよかったのに、と慌てて身支度をしだした。着替えて降りてきたアスタと違い、寝起きの彼は寝巻のままだった。彼は待たせたことを悪いと思ったようだが、未来の展望を楽しんでいたアスタは、待つのも苦ではなかった。しかし、起こしにいってもいいのか、と許可をもらえたことを、内心喜ぶ。

朝食はベーコンと目玉焼きにほぼレタスのサラダ、そしてトーストだ。アスタの分のコーヒーはカフェオレにしてだされた。テーブルの互いの間にはバターが置かれている。

即席で作れるものばかりだというのに、アスタはごちそうを前にした幼子のように頬を紅潮させた。男の一人暮らしなんてこんなものだと呆れられても奇怪しくないのに、とロルフは苦笑する。

ロルフは、花嫁修業先に向かないと気付いてもらおうと、気取らず平素通りを晒すことを決めていた。だが、彼女の様子をみて明日はせめてスクランブルエッグにするか、と考えてしまっていた。

つい彼女をもてなそうとしてしまっていることに気付き、自身を叱咤する。そして、平素通りに、と新聞を広げ、片手間に食べられるようトーストのうえにベーコンたちをすべてのせ、真ん中で折って食べ始める。ルーティンのため、ロルフはそのまま新聞を読み込み始めた。

彼の様子と自分の前のトーストたちの間を視線で往復し、アスタは見比べる。しばらく考えて、アスタはいそいそとそれぞれの皿を寄せはじめた。

視界の端の動きに気付き、ロルフは新聞を下げテーブルの向こう岸を確認する。するとどうだろう、大きく口をあけてベーコンたちをすべてトーストで挟んだものをアスタが食べようとしていた。真似をするとは思っていなかった。

ロルフが驚いている間に、彼女は簡易サンドイッチを頬張る。


「っふふ、こんな食べ方もいいわね」


咀嚼し終えたアスタは、一度に全部を味わえると可笑しげに笑った。

そんな彼女に胸打たれて、ロルフは読みかけの新聞紙をぐしゃりと握り込んでしまう。大口をあけても可愛いとはどういうことか。礼節に重きをおいて過ごしてきた彼女に行儀悪さを覚えさせた罪悪感より、新しい発見への驚きが凌駕する。彼女は柔軟なのか、懐が大きいのか、時折思いがけない対応をすることがある。護衛をしていたときにも垣間みえていたが、おそらく彼女の素なのだろう。

アスタは不思議そうに、彼の手元をみつめる。


「それで、新聞読めるの?」


「……読めないな」


彼女の素朴な問いに、自身の動揺の表れ具合を知り、ロルフは握り込んでしまった新聞の皺を伸ばした。



朝食後、昨日話のあった自分のベッドを買いに行くのかとアスタは思っていたが違った。


「陽が昇っているうちに最優先で覚えてもらいたいことがあります」


「何かしら?」


真剣な眼差しで最優先事項があると伝えられ、予想がつかないアスタは首を傾げる。人に世話されてきた彼女からすれば、できないことはすべて大事に思える。家事を覚えるのに優先順位があるとまでは想定していなかった。


「騎士も最初から戦闘訓練をするなんて無茶はしません。俺だって見習いの頃は筋トレばかりしてました」


「そうなのね」


何事もひとつひとつ習得していくもので、一度にたくさん覚えるものではない。彼自身、実践訓練に臨めるようになるまでは、筋力と体力をつけるため基礎訓練をひたすらしていた。ロルフの経験に基づいた習得法に、アスタも納得する。


「ロルフ、言葉遣いが戻ってるわ。それで、まず何をするの?」


「失れ……、いや、悪い。クセで。最初に覚えてほしいのは、洗濯だ」




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