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25.



「花街」


聞き取りやすいようアスタは、しっかりとくり返した。ロルフは聞き取れなかったのではない。ただ彼女の口からでた単語が信じられなかっただけだ。

花街は歓楽街の別称だと彼女は解っているのだろうか。気軽に遊びにいきたいという様子に、アスタの理解度をロルフは勘繰ってしまう。


「な……、ど……??」


驚きの度合いが強すぎて、ロルフは疑問もうまく口にできない。しかし、アスタは理由を問い質したい彼の意図を汲んだ。


「家事を覚えるだけじゃダメだって気付いたの」


家事技能の習得は根本的な自活能力を得るためだ。誰かと暮らすというとき、生活を支える技能でもあるので花嫁修業にもなりはするが、婚姻の決め手には欠ける気がする。ロルフのように自身も家事ができる異性もいるのだ。家事以外にも魅力を得る必要性にアスタは気付いた。


「私に足りないのは色気だと思うの」


「色気」


自分はすでに理性の糸をすり減らしているのだが。ロルフは全面的に否定をしたいものの、想いを隠しているため、いうにいえなかった。


「ただでさえ()き遅れているし、聖女のときは逆のことを求められていたもの。だから、男女の機微を専門の方に教わりたいの」


確かに娼館に勤める者は男女関係の専門家といえなくもない。公平な精神を求められていた彼女の観点に、ロルフは悩む。どういう立場の人間であっても偏見をもたないところは彼女の美徳ではあるが、今回ばかりは多少の嫌悪感をもってほしかった。

純潔が義務付けられていた彼女も、子どもの成し方などは知識としてある。ただそれらはどちらかというと生物学的観点によるもので、詳細は嫁いだ男性に身をゆだねるものだとしか教わらなかった。

アスタは、ロルフの甘える日を設けてから、自分に異性としての魅力が足りないのではないかと疑念をもった。自身の甘え期間は気だるさゆえに思考がうまくまとまらないが、彼を甘えさせるときは冷静だ。いや、実際は彼の方から触れられることに心臓が騒ぎはするのだが。その点は一旦おいておいて、相手に身をゆだねられるというのは信頼関係あってのことだが、異性として意識されていないことの証明にも感ぜられた。それは、少しばかり悲しい。

アスタの花嫁修業の目標は、ロルフに花嫁に相応しいと一言でいいから認めてもらうこと。つまり、彼に異性として認識してもらうことにある。だから、奮起して色仕掛け習得のため、今回の外出要望にいたった。


「だが、そういう場所はお金が……」


「大丈夫よ。お金ならあるわ!」


聖女引退費をまさか娼館通いに使われるとは、教会も思わないだろう。アスタは、引退してからロルフの家で世話になっているため、不足分の家具購入費と毎月の生活費以外かかることがなく消費が少ない。衣服も最低限必要な分を買っただけなので、ただでさえ半生を過ごせる金額がほとんど減っていないのだ。

懸念要素を伝えてもアスタの決心は折れない。彼女の努力姿勢を私情ではばめないロルフは、かなり葛藤したうえで、折れた。


「…………いい店がないか聞いておく」


「ありがとうっ」


満面の笑みで感謝され、ロルフは複雑だ。

彼自身、花街を訪れたことはない。これまで誘われても断ってきた。聖女時代、純潔を義務付けられたアスタの傍にいる自分が穢れた身で傍にいるのは不誠実に思えたし、何より付き合いだろうと他の女の匂いを付けて彼女に接したくなかった。そうして頑なに守り通してきたものを瓦解させる理由が彼女になるとは。

いくからには、警備体制が十二分にあり娼婦の品格もよいところでないといけない。アスタに何かあっては困るのだ。ロルフは、同僚や上司に揶揄われる覚悟をした。

アスタも、いくからにはヒントだけでも得るのだと、気合を入れる。


私だけがどきどきしてるんだもの。ほんの少しでいいから、ロルフもどきどきさせたいわ。


色仕掛けを覚えてしたいことがそれだった。アスタのささやかな願望は、とうに叶っているのだが。知らないのは本人ばかりである。



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