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13.



その後も、自分ができる範囲だが、といいながらロルフは料理を教えてくれた。

アスタは、その甲斐あって簡単な炒め物やスープ類は作れるようになる。アスタの腕があがるにつれて、ロルフは見守ることもなくなり主菜を彼女に任せて、自身は副菜作りで補助するだけになった。形が変わったとしても、アスタは、夕方になると二人で料理するのが楽しみだった。

魚の捌き方も教わり、当初包丁を入れる前にアスタが黙祷を捧げるものだから、肉も魚も変わらないのにとロルフは気にしないように伝えた。しかし、アスタはその言に納得したからこそ、逆にすでに部位だけの肉塊にも黙祷を捧げるようになり、彼女の律儀さにロルフは可笑しくなった。

半月が過ぎて、一通りの食材を扱えるようになってきたので、ロルフは提案する。


「そろそろ買い物を任せていいか?」


「それって……!」


食材の買い物を頼まれるということは、アスタが晩御飯のメニューを決めていいということだ。これまではロルフがある食材で判断して作るものを決めていた。メニューの決定権は、期待と信頼の証のようでアスタの表情は喜色に染まる。


「ええ。もちろんっ」


行く前から何を作ろうかとアスタは思案し始める。売っている食材を確認してから決めた方がいいと、慌てて考えを振り払った。そんな彼女のはしゃぎようとロルフは微笑ましく感じる。


「荷物持ちに俺も付き合うから」


「じゃあ、お買い物デートね!」


「デ……!?」


買い物が楽しみなアスタは、彼を動揺させる発言をしたことに気付いていない。

デートといわれてしまうと、そのような他意はなかったのに妙に胸が騒ぐ。はしゃぐ彼女の隣で、ロルフは熱くなった頬がバレないように手で覆うのだった。

隣が八百屋とパン屋なので、そちらは戻りがてら買うことができる。なので、肉・魚類や缶詰など他のものを先に買いにいく。缶詰を眺めていて、トマト缶とひよこ豆の缶詰が目に留まる。


「トマト煮とかどうかしら?」


「いいんじゃないか」


アスタが確認すると、ロルフは賛同してくれた。メニューが決まったので、鶏肉やバジルなど他の購入物も決まってくる。あわせてチーズや牛乳、卵など常用できる食材の補充もする。そうしていくと、荷物が多くなってゆきロルフが荷物持ちでついてきた理由がよく解った。

隣を歩くロルフが心配で、アスタは見上げる。


「私も何か持つわよ?」


「これぐらい大丈夫だ。アスタさんにはパン屋で買うのもってもらうから」


缶詰数個に牛乳瓶などもあるので軽くはないはずだが、ロルフは平然と持っている。自分だったら持ちきれないと解っているから、アスタは心配したのだが、彼の頼もしさを実感する。


「ロルフはいい旦那さんになりそうね」


護衛時代から気遣いのできる男性だと思っていたが、一緒に暮らすようになってアスタは余計にそう思うようになった。力のいる作業は率先してくれるので、とても頼もしい。自分の申し訳なさを拭うために、役割を与えてくれるが、それだってパンなどの軽いものだ。当然のように彼はするが、その気遣いがアスタにはくすぐったいものだった。

彼の妻になれたら、こうした優しさに包まれた日々が送れるのだろうな、と夢想してしまう。だから、そんな感想が零れた。

だったら自分でいいのでは、と返しそうになり、ロルフは思いとどまる。ただ褒められただけだと、自身にいい聞かせて。


「いや、アスタさんこそ……」


いい嫁さんになりそうだ、という評価が口からでなかった。そんな評価を受けたら、彼女は一年も待たずに自分のところから卒業してしまうのではないか。不安が過り、言葉が詰まる。


「あら?」


アスタは、あるものに目を止め、首を傾げる。ロルフの家の前に誰かがいた。その人物のやわらかな白銀の髪に見覚えがある気がしたのだ。

彼女の声に気付いたのか、帰る家の前にいた人物が振り返り、微笑んだ。


「アスタ」


訪問者の正体に、ロルフは固まり、アスタは目を丸くした。


「ヨキアム殿下!?」


二人が驚くのも無理はない。この国の王太子が、突然お忍びで訪ねてきたのだから。


「会いたかったよ」


再会の喜びを表現するかのようにヨキアムはアスタに抱き着いた。二十歳のアスタからすれば、彼は十五の少年なので若者らしい表現だと感じるだけだ。むしろ、抵抗しては不敬にあたる。

しかし、ロルフの額には青筋が浮いた。そして、彼の掌の位置にあったトマト缶が音を立てて(へこ)んだのだった。




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