5.徘徊
改めてこの世界を見て地球で無い事を再認識させられた。
だって月が2つある。
それだけで異世界だ。
そしてこのスーツのステルスモードを発動すると視界が薄れ、音も若干篭っている。
例えるなら鏡の世界、ミラーワールドと名付けよう。
2つの月明かりに照らされた荒地を騎馬の向かった方にしばらく歩いて行き、小高い丘を登った先の景色を確認する。
眼下には目を逸らしたくなるほどの死体が見渡す限り残置されたままだった。
丘の上から意識を一杯に広げて【換金】する。
このまま放置よりはマシだろう。
死体の消えた残滓から青と赤の光が立ち昇り、俺の両腕の腕輪に吸い込まれて行く。
『渚、魔法とスキルはストック出来てる?』
『バッチリです』
『こっち戻ってから精査しましょう』
『じゃあ、駐屯地に潜入しに行くよ』
『はーい、お気をつけて』
丘から見える灯りの方へ進んで行くと、幾つもの大きめのテントが並んでいる。
テント周辺と櫓の上に見張りが居るけど正面から入って行く。
見張りの目の前を行ったり来たりしても見張りが気付く様子は無い。
声を掛けても気付か無い。
これなら問題無いとテントに入ろうとしたが入れない。
ミラーワールドからは干渉もされないが干渉も出来ない、何かに触れようとするにはステルスモードを切らなくてはならない。
一旦中に入るのは諦めて周辺の探索からする事にした。
しばらくプラプラと駐屯地を徘徊していると明らかに他よりも厳重に警戒してある場所があった。
『渚、ココ明らかに他と違うよな?』
『確かに見張りの数も倍はいますね』
『この天幕の一部だけ換金出来ないかな?』
『マスターのイメージ範囲で換金出来ると思います』
『裏に回ってやってみる』
『了解』
天幕の側面から裏に回って1メートル程の円をイメージして【換金】する。