チェンジしてもいいですか!?
璃々と瑛捺の中身が入れ替わったハプニングもあったけど、やっと元に戻った2人だったけど、璃々が睦月を好きなことに気づき始めた瑛捺に気疲れしてしまう璃々だったけど、
そんな中、瑛捺に誘われて睦月と咲良と一緒にお出かけしたりして嬉しい日を送っていた……。
水族館に行ってからというもの、毎日のように瑛捺は、私にストラップを見せびらかす日々を送っていた。
「はぁーーー」
あたしは深い溜め息をつきながら、咲良と一緒に学校の屋上でお昼ご飯を食べていた。
「それは、わざとだね」
あたしの話を聞いて、咲良はお弁当に入っていたウインナーをホォークで刺すと口の中に放り込んだ。
「やっぱり………」
「だって、そうでしょ?そうじゃなかったら、わざわざ、璃々に見せびらかしたりしないって」
「…………………」
瑛捺にしてみれば、先生とお揃いのストラップをつけることで、先生と繋がってるっていう安心感と、これ以上、先生に近づかないでと言っていることくらいわかってる。
沈んだ気持ちで、お弁当を食べていると、
「あ、いたいた〜!!」
瑛捺が弾んだ声で、あたし達の所にやって来た。
「瑛捺……」
噂をすれば……。
「丁度良かった、夏木さんも一緒だ〜」
「ーーー??」
不審そうに瑛捺をみる。
「これ、睦月く…水沢先生から預かってきた」
そう言うと、瑛捺は持っていた袋をあたしと咲良に渡す。
中を見てみると、チンアナゴのストラップが入っていた。
「記念にって、私達に買ってたみたい。でも、渡しそびれちゃったからって、今日になったみたい」
瑛捺も同じ物をポケットから出した。
「本当は、あたしだけに買ってくれたなら、凄く嬉しいんだけど、この際、仕方ないよね……」
少し残念そうな顔をする瑛捺とは反対に、あたしは凄く嬉しくてストラップを握り締めていた。
例え、みんなと一緒のストラップでも先生がくれた事には変わりがない。
先生に逢ったら、お礼を言おう。
「璃々、そろそろ昼休み終わるよ〜。教室に戻ろう」
そんな事を思っていると、咲良が携帯の時計を確認しながら、教えてくれた。
「そうだね、行こう」
あたしは、お弁当を片付けると立ち上がった。
「今日は、6時間目まであるよ〜、ダルっ!でも、6時間目は、睦月君の授業だしラッキー」
隣では瑛捺が、愚痴を零してた後、パチンと指を鳴らす。
「…………………」
6時間目は英語だ〜!水沢先生に逢える。
密かに、朝から楽しみにしていたのは、瑛捺には内緒だ。
5時間が終わるのを、待ち遠しく感じながら、やっと5時間が終わって休み時間を挟み、待ちに待った6時間目が始まった。
英語の教科書の英文を読みながら、説明する水沢先生の声を聞きながら、うっとりと目を閉じた。
先生の発音は
、綺麗で上手だし心地いいんだよね……。
「ーーじゃあ、次……この問題を答えてもらおうかな?前回は出席番号順で高田まで行ったから…高梨ーー」
急に、先生に名前を呼ばれて、あたしはハッと顔を上げた。
「えっ……と………」
慌てて教科書から問題を探していると、
「なんだ、聞いてなかったのかー?」
「は…い…」
怒られた子供のように、しゅんとしながら俯いた。
流石に、先生の声にうっとりしてたなんて言えない。
「高梨にしては珍しいな〜今、聞いてるのは13ページの問2な」
先生に言われて、教科書の問題を探す。
あ、あった……。この問題は、現在形になるから………、
「Ihaveーー………」
問2の問題を答えると、
「よく出来ました!ここは、テストに出るから、みんなも覚えておくように」
先生はあたしに微笑んでくれた。
良かった、合ってた!なんて思うより先に、先生があたしに向ける笑顔が嬉しくて、瑛捺がこっちを睨みつけてるとも知らずに、顔がニヤケてしまっていた。
放課後ーーー。
結局、水沢先生にストラップのお礼言えなかったな……。
そんなことを思いながら、教室を出ると咲良が廊下で待っていた。
「咲良」
「璃々、一緒に水沢先生の所に行かない?」
「え?」
「ほら、ストラップ…あたしも貰ったし、お礼言いに行こう!」
咲良は、あたしの肩をポンと叩く。
「咲良………」
咲良には、わかってたんだー。
あたしが先生の所に行きたいって言うことを……。
咲良の優しさに、胸がじーんとしてしまう。
「瑛捺には、授業以外…先生には逢わないでって言われてるし、どうしようかと思ってたの……」
「幾ら、森本さんが先生と付き合ってても、あたしは、璃々の味方だからね」
「ありがとう、咲良」
咲良にお礼を言うと、あたし達は英語準備室へ向かった。
準備室に着くと、ノックをしようとした時、
「きょ……ど……のこ……と…………!」
瑛捺の声が微かに聞こえてきた。
「し…かた…………………う」
水沢先生と話しているみたいだけど、よく聞こえない。
どうしよう……入ってもいいのかな……?
戸惑っていると、咲良がドアに耳を当てた。
「咲良?」
「しっー!立ち聞きしちゃおう」
咲良は、唇に人差し指を当てながら声を潜めた。
躊躇いながら、ドアに耳を当てる。
「前回の準備の時も出席番号順だったし、次は高梨の番になるのは当たり前だろ?」
どうやら、今日の授業のことを話しているみたいだ。
「そうかも知れないけど……睦月君が璃々のこと呼ぶのイヤなの!」
瑛捺は強い口調で、先生に言った。
先生が、あたしを指したことで、瑛捺がそんなふうに思っていたなんて知らなかった。
「何それ…いくらなんでも、独占欲がハンパないんだけど」
咲良はドアから離れると、溜め息つく。
「………………」
確かに、瑛捺が授業中まで先生のこと独占していたいなんて思ってもみなかった。
こんなに、瑛捺がピリピリしていると、先生も授業やりずらくなっちゃうんじゃないかな…大丈夫かな……。
「璃々、中へ入ろう」
咲良は決心したように、あたしを促す。
「でも……………」
今、入ったら瑛捺に睨まれそうで躊躇してしまう。
「このままだと、いつになっても先生にお礼なんて言えないよ。森本さんに遠慮することないんだから!」
咲良は、ノックするとガラッとドアを開けた。
「失礼しま〜す!」
咲良の後について、準備室へ入って行くと、瑛捺がどうして来たの?というかおで、あたし達をみていた。
「高梨と夏木、どうした?」
瑛捺と裏腹に、水沢先生は優しい瞳で訊ねてくれた。
「先生にストラップのお礼を言おうと思って、璃々と一緒に来たんだけど、お邪魔だった?」
咲良が言うと先生は、
「何、言ってるんだよー。邪魔なわけないだろ」
と、言いながら苦笑いする。
「でも、悪いなわざわざ」
申し訳なさそうに先生が言う。
「ううん、ストラップありがとう!」
「ありがとう」
あたし達が、お礼を言うと先生は嬉しそうだけど、瑛捺の方は不機嫌そうな顔をしている。
もう少し、先生といたいけど、これ以上は無理そうだ。
「咲良…そろそろ帰ろう」
気まずくなって、咲良を促した。
「う、うん…そうだね」
咲良も空気を読んだのか、頷いてみせた。
「先生さようなら」
「さようなら」
あたし達は挨拶すると、廊下へ出ようとした時、
「あ、その前に高梨」
急に先生に呼び止められて、心臓の鼓動が高鳴る。
「授業の時、様子がおかしかったけど、大丈夫か?何処か具合が悪いのか?」
「ーーー!!いえ、大丈夫です」
「なら、良かった。2人とも気をつけて帰れよ」
そして、あたし達は準備室を後にした。
「ごめんね、璃々」
昇降口まで行くと、咲良が申し訳なさそうな表情であたしをみる。
「え、何が?」
急にどうしたのかと思い、キョトンとさせる。
「もっと、先生と一緒にいたかったのかなと思って」
「咲良〜」
咲良の優しい言葉に、ジーンと身に染みて、つい抱きついてしまう。
「ふふふ…よしよし」
咲良は、小さい子供をあやすように、あたしの背中を撫でた。
「ごめんね、咲良。気を使わせちゃって」
「ううん、あたしは大丈夫だけど…でも、こうするしか仕方ないよね、森本さん怖い顔で睨んでるんだもん」
「あはは……そうだね」
瑛捺の顔を思い出して、苦笑いをする。
「でも、先生も可哀想。森本さんに束縛されて」
「……………」
それだけ、先生のことが好きってことなんだろうけど、確かに束縛がすぎるかも知れない。
それなのに、先生はあたしのこと心配してくれてたなんて嬉しい。
先生の英語の発音に聞き惚れてたなんてとても言えないけど………。
今頃、瑛捺と先生がどんな会話をしているのかも知らずに、あたしは浮かれていた。
「どうして、そんなに璃々のこと気になるの?」
高梨達が、準備室から出て行った後、森本が俺を睨みつけた。
「生徒が1人でも様子がおかしかったら、気にするのは教師として当然のことだろ?」
森本には、そう言ったものの、高梨が足を怪我した時も、今回も気になってしまっていたのは事実だ。
「じゃあ、あたしの様子がおかしかった時も気がつくわけ?」
「当たり前だろ」
「ふーん、それなら彼女として気にしてほしいな」
「あのなー、前にも言ったけど、ここは学校だぞ。特別扱いはできない」
「何よ、いつもそればっか」
森本は、ムスッと口を尖らせた。
「……………」
強引に迫られ、推しに負けて森本と付き合うようになったものの、彼女の強引な性格は変わらない。
「じゃあ、学校が終わったら生徒じゃなくなるし、恋人としてあたしの事、気にしてくれてデートしてくれたら嬉しいな 」
「それも、却下。誰が見てるかわからないから」
俺は、大きく首を横に振る。
「睦月君の意地悪!どうして、口を開けばすぐそんなことばかり言うの?」
森本は、泣きそうな顔で俺を見つめた。
「……………」
「あたし達、付き合ってたって、2人でデートだってできないし……おまけに手しか繋いだことないんだよ?それなのに、付き合ってるっていえる?」
不満そうに、また森本は口を尖らせた。
「そう言ってもな………」
大学4年の時に森本と付き合い始めてから、就職活動も忙しくなって、デートも数えるほどしかしないで、あれよあれよという間に、今の学校に赴任が決まったから、森本に不満があるのは当然のことだろう。
「もういい、帰る!」
俺の煮え切らない態度に、森本は怒って準備室を出て行ってしまった。
「はぁーーー」
森本が出ていった後、思わず溜め息をついてしまった。
森本としては、放ったらかしにされて、不満があるのかも知れないけれど、彼女のわがままな性格がたまに重荷になる時がある。
森本に比べて、高梨は我慢する性格みたいなのに、よく友達が続いてる。そんなんだから、今日もつい、高梨に視線が………って…何、高梨のこと考えてるんだオレはーー!!
気を取り直そうと、自分の顔を軽く叩いた。
ーーー数日後ーーー
「次、移動教室だよ。瑛捺、一緒に行こう」
2時間目も終わり、休み時間。次の授業の準備をすると、瑛捺を誘った。
「ーーーーー」
声をかけたものの、
「あしたしも一緒に行ってもいい?」
瑛捺は、他の子達に声をかけると、あたしを無視して行ってしまった。
ぽつんと残されたあたしは、仕方なく独りで歩き出す。
この前、英語準備室で瑛捺に会
って次の日から、瑛捺に無視された状態が続いている。
前にもこんなことあったし、原因は水沢先生のことだとは思うけど…………。
でも、あの日……先生とどんな話をしたのだろう。瑛捺が気に触ること、先生が何か言ったのかな…………。
なるたけ、先生には逢わないようにしているのに、どうしてそんなに無視されないといけないのだろう。
「はぁ〜〜」
深い溜め息をつく。
でも、3時間目が終われば4時間目は、水沢先生の授業だし、先生に落ち込んでる顔を見せられない。
そう思っていたのに……
「 体調不良の為、水沢先生がお休みなので、この時間は自習にします」
楽しみに待っていた水沢先生の授業は、自習になってしまった。
体調不良って……先生、大丈夫なのかな?瑛捺に聞けば、何かわかるかも知れない。
そう思いながら、瑛捺の方に視線を向けると、机の下に隠しながら携帯を触っているのが見えた。
どうやら、メールを打っているみたいだ。
先生にメールしてるのかな?
瑛捺も、先生が体調不良で学校を休んでること知らなかったとか?
必死にメールを打つ瑛捺を気にしながら、机に頬杖をついた。
放課後ーーー。
「璃々、帰りに新しくできたクレープ屋さんに寄っていかない?」
咲良に誘われて、あたしは少し寄り道することにした。
最近、新しくできたクレープ屋さんで、行列ができるほどの人気らしい。
でも、家に帰るのと反対方向でバスに乗って、3つ先の停留所まで行かないとならない。
あたし達は、近くの停留所でバスに乗った。
「たまには、いいよね。バスに乗るのも」
バスに揺られながら、咲良は窓の外をみる。
バス通学じゃない、あたし達にとっては新鮮な気持ちだ。
「そうだ…璃々、森本さんとケンカしてるの?」
「ケンカって言うのかな…………」
突然、咲良に聞かれて言葉に詰まった。
「やっぱりか…前は森本さんが璃々と一緒にいるの見かけてたけど、最近は森本さん、他の子達と一緒にい所、よく見かけるから」
「実は……瑛捺に無視されてるんだよね……前にもこんなことあったけど。多分、理由は前と同じことだと思う…………」
「水沢先生のことか……はぁ〜、どんだけ嫉妬深いのよ」
「…………………」
それだけ、水沢先生のことが好きなんだよね……。
でも、あたしだって、瑛捺に負けないくらい先生を好きな気持ちは変わらない。
バスに揺られて数分後、目的地の停留所に到着すると、バスから降りた。
「クレープ屋さんまで、確かバス停からそんなに遠くないはず」
そう言って、咲良は先に歩き出した。
10分くらい歩いて行くと、お目当てのお店が見えてきた。
「あそこだ!げっ、もうあんなに並んでる」
そこには、クレープ目当ての人達の長い行列ができていた。
ざっと、15人くらいはいるかな?
「よし、並ぼう!」
気合いを入れて、咲良は最後の列へ並び始めたので、あたしも後について並んだ。
順番がくるまで時間がかかるかなと思ったけど、意外と早く順番がきて、あたしも咲良も一番人気のクレープを注文する。
「レアチーズバナナクレープ、1回食べてみたかったんだーー!!」
咲良は、空いている席に座ると、大きな口でパクッと食べた。
「おいしい!」
「うん、意外とイケる」
お店でも人気なのも分かるような気がする。
それに、レアチーズ大好きなあたし達だけど、苦手な人にとってはどうなんだろう。
「バス停まで近いし、流行るのもわかる」
満足そうに、ペロリと平らげると、あたし達は、お喋りをしながらバス停へ向かった。
「あっ、そこのコンビニ寄ってかない?甘いもの食べたら、甘くない飲み物欲しくなった」
あたしは、目の前にコンビニにがあることに気づき指差した。
「賛成〜〜〜」
咲良も賛成してくれたので、あたし達はコンビニに寄ることにした。
「ストレート紅茶にしよう」
中へ入ると、何にしようか少し迷ったけど、紅茶にすることに。
「あたしは、レモンティーにしよう。あと、お菓子も買ってくるから、璃々、レジしたら外で待ってて」
「わかった」
咲良に言われて、レジを済ませ外で待つことにした。
暇つぶしに、周りを眺めながら待っていると、前方の植え込みの所で、うずくまる人がいることに気がつく。
具合でも悪いのかな?
少し気になったので、近寄って行った。
「あの……どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」
あたしは、恐る恐る声をかけたのだった。