チェンジしてもいいですか!?
瑛捺と水沢先生は恋人同士。璃々も密かに先生のことが好き。
そんな璃々は、ある時、瑛捺と身体が入れ替わるハプニングが……。元に戻ろうと、色々と試したもののなかなか、戻れなかった2人だったけど、やっと、元に戻れることがてきたのだったーー。
「良かったね!おめでとう~~」
早速、元に戻れたことを咲良に報告すると自分の事のように喜んでくれた。
「ありがとう」
「それにしても、戻れたわりには元気ないわね」
「ん…………」
あたしは訳を話す。
元に戻れた途端、瑛捺が今まで以上に英語準備室に通うようになったこと。
今までは、一緒に行ったりしてたけど、瑛捺は独りで行くことが多くなって、教室に戻ってくるなり、自慢するように水沢先生のことを話する瑛捺を胸が張り裂ける思いで聞くことしかできない。
今日も、昼休みになった途端、先生の所に行ってるし………。
「それって……森本さん絶対、璃々が先生のこと好きなの気がついてるよね」
「………………」
やっぱり、そうか……あたしに、先生に近づくなって言ったり、先生の話ばかりしてるし、瑛捺は何も言わないけど、もしかしたら、あたしが先生のこと好きなの知ってるんじゃないかなと薄々は気づいてはいたけど……。
「そんな顔しないの!よし、休みに何処か行こう!」
咲良は、元気ずけるようにあたしの肩をポンと叩く。
「咲良…………」
あたしは、大きく頷いた。
一方その頃、瑛捺はーーー。
「睦月君~、休みの日にデートしようよぉーーー」
あたしは、睦月君の腕を掴むと猫なで声でデートを申し込む。
「休みの日に2人で出かけて、うちの生徒に会うかも知れないからダメだ」
デートの申し込みを睦月君は、キッパリと断った。
「変装してけば大丈夫だよ~~」
「あのな……森本」
「ね?いいじゃない!前みたいにデートしようよ」
「前は、まだ俺も大学生だったし……でも、今は状況が違うだろ?」
溜め息をつく睦月君に、次第にあたしは声のトーンが高くなっていく。
「睦月君のケチっ!あたし達、付き合ってるのにデートもできないなんて、付き合ってるって言える!?」
「こら、大声出すな!誰かに聞かれたらどうするんだ!?」
睦月君は、焦った顔で慌ててあたしの口を手で抑える。
「だって……睦月君冷たいんだもん」
あたしは、しょんぼりと肩を落とした。
「あのな……教師と生徒だってわかってるのか?」
「わかってるよ……でも、あたしにはそんなの関係ない。好きな人と一緒にいたいのに、どうしてダメなの……?」
「そう言われてもな…………」
困った顔で、睦月君は腕組みをする。
「じゃあ………あたしと2人じゃなければ大丈夫?」
「………まあ、それならーー」
少し考えた後、やっと睦月君から許可がおりた。
「良かった!!」
璃々でも誘って、あたし達が仲が良いとこ、見せつけてあげれば睦月君を意識してるのもなくなるはず。
あたしは、手のひらをぎゅっと握り締めた。
「え、休みの日?」
夜、珍しく瑛捺から電話がきたなと思ったら、水沢先生も含めて休日の日に出かけないかと言う誘いだった。
「うん、睦月君からはOKもらってるから、璃々も一緒に行かない?」
「休日は…咲良と約束してて……」
先生が一緒なら行きたい。でも、これって瑛捺と先生のデートなんだよね………?
「お願い!みんなと一緒じゃないと睦月君がOKしてくれないんだ……だから、夏木さんも誘ってみんなとで出かけない?」
「ーーーーー」
水沢先生にしたら、うちの学校や他の先生に見られたらマズいと思って、慎重なんだろうけど、瑛捺の必死さが伝わってきて、瑛捺の立場だったらあたしもそうするかも知れない。
そう考えると、首を縦に振るしかできない。
「わかった……でも、咲良に聞いてからでいいかな?」
「うん、ありがとう~!!」
瑛捺の弾んだ声が電話の向こうから聞こえてきたのだった。
休日ーーー。
結局、瑛捺達と一緒に出かけることを咲良が了解した為、何処に行くか話し合った結果、水族館に行くことになった。
「あ、あれ観たい!!」
瑛捺は、はしゃぎながら水沢先生の腕を引っ張った。
「森本、誰が見てるかわからないから、そんなにくっつくなって」
「えー、せっかく睦月君と出かけられたのに、くっついてもいいじゃない!それに、この辺は薄暗いから誰だか分からないって」
そう言って、先生にくっつく瑛捺。
2人の後ろ姿を見ていると、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「璃々…大丈夫?」
あたしの気持ちを察したのか、隣にいた咲良が、心配そうに声をかけてくれた。
「うん…………」
「それにしても…森本さんって、ちょっと強引すぎると思わない?あたしには、先生が困ってるように見える」
瑛捺の行動に、咲良は呆れた顔をさせた。
確かに瑛捺は強引な所もあるけど、積極に猛アタックしたから、先生のハートを掴んだに違いない。
「2人とも次、行くよーー!」
瑛捺に呼ばれて、あたしと咲良は2人の後について行く。
しばらく、あちこち観覧した後、あたし達は館内にあるカフェで、いったん休憩することに。
「次、イルカショーに行きたいけど、まだ時間あるし、お土産を先に買いにいかない?」
瑛捺は、注文したドリンクを飲みながら、近くの時計に視線を向ける。
「そうだな、あまり大きい物を買わなければ、荷物にもならないだろうし。高梨と夏木はどうかな?」
水沢先生は、瑛捺の提案に賛成すると、あたしと咲良にも意見を聞いた。
「森本さんの提案に賛成でいいよね、璃々?」
「うん」
咲良に聞かれて、あたしは頷く。
「じゃあ、決まりね!」
あたし達が賛成すると、瑛捺は嬉しそうに微笑んだ。
そして、ひと休みしたあたし達は、お土産売り場へ直行した。
「璃々、何買う?」
お土産売り場に到着すると、咲良が聞いてきた。
「んー、やっぱり邪魔にならない物かな……ストラップかキーホルダーかな?」
「………やっぱり、そうだよねー。」
咲良と会話しながら、ストラップやキーホルダーがある場所へ行くと瑛捺もそこにいた。
「瑛捺は、何買うか決まった?」
あたしは瑛捺に訊ねる。
「あ、璃々。今、ストラップにするかキーホルダーにするか迷ってるところ」
真剣に選んでいる瑛捺の隣で、あたしも探すことに。
どれにしようかな…………。
そんなことを思いながら、あちこち迷っていると、
「璃々、これとこれどう思う?」
瑛捺は、ストラップを手にとると聞いてきた。
「いいんじゃない?色違いで可愛い」
瑛捺が持っていたのは、2つの色違いのペンギンのストラップ。
「じゃあ、これにしよう!!」
瑛捺は、嬉しそうに満面の笑みで微笑むと、レジの方へ歩いていってしまった。
私もさっさと決めなくちゃ……。
「あっ、これにしようかなー」
ストラップにしようかキーホルダーにしようか迷ったけど、目に止まったのは、イルカのキーホルダーだった。
思わず手に取ると、
「璃々も、それにするのー?」
さっきまで何を買おうか迷っていた咲良が、私が持っていたキーホルダーを覗いてきた。
「うん……ん?咲良もそれ買うの?」
いつの間にか、咲良も同じキーホルダーを持っていたことに気づく。
「うん、なんか気になって」
「咲良も?」
「うん、オソロにしちゃう」
「そうだね、それもいいかも」
2人で話し合った結果、お揃いのキーホルダーを買うことにした。
「森本さんと先生何処に行っちゃったんだろうね?」
キーホルダーを買って、お土産売り場を出ると、2人の姿がないことに気がつく。
「もう少しでイルカショーの時間だし、先にそっちの方へ行ったのかも」
あたしは、キョロキョロと辺りを見渡した。
「璃々、あたし達も行こう!」
咲良に促され、あたし達はイルカショーの会場へ向かった。
一方、イルカショーの会場近くの休憩場の所で、瑛捺達はいた。
「睦月君~、あたしからプレゼント!お揃いのストラップ、あたしだと思って肌身離さずつけてね♡」
あたしは、さっき買ったストラップのお土産を渡そうとしたけど、
「悪い、プレゼントは貰えない」
睦月君は、首を左右に振るとプレゼントを断ってきた。
「えっ…どうして?」
「あのな…あくまでも、教師と生徒なんだぞ?誰かに見られたり聞かれたりしたら、どうするんだよ」
「これじゃ……恋人同士なんて言えない……。あたしは、睦月君となんでもいいから、同じ物共有したかったのに…」
「…………………」
「そうだ!休みの日だけでもいいから、使って欲しいな」
「……………………」
あたしは、提案してみだけど、睦月君は無言のままだ。
「…………貰ってくれないなら、あたし達のこと校長先生に言うから……」
あたしは少し考えた後、自分でも信じられないことを口にしていた。
「あのなー、どうしてそうなるんだよ」
「だって……睦月君が、そんなこと言うから…」
あたしは、しゅんとさせながら肩を落とした。
「………………わかった、休みの日だけでもいいなら使うよ…」
睦月君は少し考えた後、やっとプレゼントを受け取ってくれることにしてくれた。
「その代わり、絶対に校長先生には言うなよ」
「わかってる!じゃあ、早速つけてね。今日は、休日だしいいよね?」
袋からペンギンのストラップを出すと、睦月君に渡した。
あたしも、早速つけよう!
自分用に買った、色違いのストラップを携帯電話につける。
睦月君も携帯電話につけてくれたし、璃々が来たら自慢しちゃおう!
あたしは、そっとストラップを握り締めた。
「あ、いたいた!」
イルカショーの会場へ到着したあたしと咲良は、瑛捺と先生が前から3番目の席に座っていた。
瑛捺もあたし達に気がついて、手を振ってくれた。
「ごめん、席とっといてくれてありがとう」
あたしが瑛捺の隣に座ると、咲良も続いて座る。
そして、イルカショーはすぐに始まった。
イルカが高くジャンプして輪をくぐったり、ボールを使って芸をしたりと大急ぎ達のイルカ達。
あっという間にショーは終わって、帰りのアナウンスが流れると、みんな一斉に出口の方へ押し寄せた。
こうしてみると、子供連れの家族なんかが多いことに気づく。
やっと、出口を出ると先生が口を開いた。
「全部、観たしそろそろ、帰ろうか」
「え、もう〜?」
瑛捺は、不満そうに口を尖らせる。
「森本が、高梨と夏木を無理に誘ってるのはわかってるんだぞ?そろそろ、2人を解放してあげないと」
先生は、あたし達に気を使ってくれているんだ……。
でも、先生といられないなんて、ちょっと寂しい。
「はぁ………仕方ないな〜、睦月君がそう言うなら」
残念そうに、瑛捺は溜め息をついた。
「先生!あたし達は、時間大丈夫なので、もう少し観ましょう」
気持ちが落ち込んでいると、咲良が間に入って声をかけてくれた。
「んー、夏木は大丈夫でも森本は?」
先生があたしにも聞いてくれたので、
「大丈夫です」
あたしは、大きく頷いた。
「2人とも、そう言うならもう少し観るかー」
先生の許可がでて、あたし達はもう少し水族館にいられることになった。
「じゃあ、あたしペンギン観たい!」
瑛捺は小さな子供のようにはしゃぎながら、先生の腕を引っ張るとペンギンがいる場所へ歩き始めた。
あたしと咲良は、苦笑いしながら後をついていく。
「咲良、さっきはありがとう」
「璃々の気持ちを、そのまま言っただけだけどね。合ってた?」
ニヤニヤしながら、咲良は言う。
「うん、合ってる。先生ともう少しいたいと思ってた」
「でも、森本さんが先生のこと独り占めしてるのに、それでもいいの?」
「仕方ないよ……付き合ってるんだもん」
チクンと痛む胸を抑えながら、ペンギンコーナーに到着すると、
「睦月君と一緒にペンギンの写真撮りたいな〜」
瑛捺は、甘える声で先生におねだりした。
「却下!でも、みんなで撮るならいいぞ」
「え〜、2人だけの写真1枚しか持ってなかったから、もっと欲しかったのにーー。仕方ないか……」
瑛捺は、ガッカリと肩を落とす。
その写真って、多分あたしが撮ってあげた写真だ……。
確か、先生が大学生の時、瑛捺と先生が付き合い始めた頃、瑛捺に頼まれて2人のデートについていったことがあった。
瑛捺に頼まれて2人の写真を撮ってあげたことがあった。
そっか…あれから、2人の写真一枚もないんだ……。
少しホッとしたような気持ちになったのも束の間、瑛捺は「写真を撮ろう」と言ってきたので、4人でペンギンコーナーの前で携帯で写真を撮った。
写真を撮り終わってから、瑛捺の携帯にさっき買ったばかりのペンギンのストラップがつけてあることに気づいた。
「瑛捺、そのストラップ早速、つけたんだ?」
「ふふふ……可愛いでしょ〜。早速、写真送信するね。夏木さんのメアドは知らないから、璃々から送信してもらって」
瑛捺に言われて、送信された写真を確認すると、今度は咲良に送った。
ピロン〜♪
「璃々、届いたよ」
咲良は早速、携帯を確認。
「睦月君のは、写真届いてるー?」
瑛捺は、今度は先生に聞いた。
そうか…瑛捺、先生のメアド知ってるんだ……ってか、付き合い始めた頃にメアド交換したこと、瑛捺が言ってた。
あたしも、先生とメアド交換したいな………。
羨ましそうに、2人を見つめていると、なかなか確認しない先生の洋服のポケットから、瑛捺がヒョイっと携帯を取り出した。
「あ、こら!」
先生は慌てて、携帯を取り返そうとしたけど、瑛捺はさっさと携帯の画面をチェック。
「写真届いてた〜、よかった。最近、メールしても、観てくれないからメアドが変わったのかと思った」
瑛捺は、ホッとした顔で胸を撫で下ろす。
そうなんだ……。それ、知っただけでも、あたしにしては嬉しい気持ちになる。
そんな気持ちも砕け散るように、先生の携帯についているストラップに視線が止まった。
「そのストラップ………」
あれ……って、瑛捺が色違いで買ったストラップ?
先生のストラップに釘付けになったまま、立ち尽くしているあたしに気がついたのか、瑛捺が満面の笑みを浮かべて、
「これ?睦月君にプレゼントしたんだ!色違いだけど、あたしとお揃い。睦月君、早速つけてくれたんだーー」
見せびらかすように、自分のストラップも一緒にみせた。
「……………………っ」
あたし、本当に鈍感だ。なんであの時、気が付かなかったんだろう……。
沈んだ心を癒すように、隣で咲良が背中を摩ってくれていた。