チェンジしてもいいですか!?
璃々と瑛捺が入れ替わってから元に戻ろうと、水沢先生の協力で、色々と実験したものの元に戻れず、諦めかけていた。
そんな中、水沢先生を巡り、瑛捺とギクシャクしてしまい………。
璃々、戻ってこないな………。
お昼ご飯を食べ終わった後、璃々を気にしながら、チラッと辺りに視線を向ける。
お昼になって、璃々が売店に行こうと誘ってきたけど、無視してしまって、他の子達と机を囲んでお昼ご飯を食べることにしてしまった。
昨日、睦月君が怪我している璃々をおんぶしているのを目撃してから、自分でもどうにもならないくらい嫉妬心が芽生えてしまっていて、気づいたら璃々を無視していた。
璃々もあたしの態度に気がついて、教室に戻ってお昼を食べる気になれなかったのかも。
まさか、睦月君の所に行ってるんじゃ……!?
嫌な予感がして、あたしは威勢よく席から立ち上がった。
「どうしたの、璃々!?」
急に立ち上がったものだから、一緒にいた子達が驚いて目を丸くしているのも構わずに、あたしは教室を飛び出した。
英語準備室へ行く途中、睦月君の後ろ姿を発見。
良かった、璃々と一緒じゃなかったんだ!!
そう思ったのも束の間、睦月君の陰に璃々の姿が。
璃々は怪我た足が痛いのか、手で足を抑えながらしゃがんでいた。
睦月君もしゃがんで心配しているようだ。
そこまではいいけど、睦月君が璃々の足に手を伸ばした。
「ーーーーーー!!!」
いくら、あたしの身体でも触られることに、嫌な気持ちになってしまう。
それ以上、見ていられなくて、あたしはその場を離れた。
そんなことがあったなんて、璃々には露知らず、教室へ戻ると瑛捺の姿がなかった。
トイレにでも行ったのかな?
そう思っていたら、瑛捺が教室に入ってきた。
「瑛捺……」
なんとか、瑛捺に話しかけようと、近づいたものの言葉が喉に詰まる。
「何?」
「えっ…と、ば、売店に一緒に行かなかったから、珍しいなと思って」
「別に、お弁当持ってきてたから、行かなかっただけだけど?」
あたしとは視線も合わせずに、瑛捺は応えた。
「………………………」
やっぱり、いつもの瑛捺の態度とは違う。
瑛捺が素っ気ないのは、やっぱり先生が関係してること?
「え…瑛捺、あたし何か気に触るようなことしたかな?」
恐る恐る、遠回しに聞いてみる。
「別に」
「でも、瑛捺に冷たい態度とられると、気になるんだけど………」
「…………………」
「だから、何か気に触るようなことしてたら教えて欲しいの。ね?」
あたしは、神頼みするように両手を合わせた。
瑛捺は深いため息を着くと、静かに口を開いた。
「じゃあ、睦月君と喋らないって約束してくれるなら、いつものように話してもいいけど」
「ーーーー」
やっぱり、あたし避けられてたんだ…………。
「どうなの?」
「ーーーで、でも、授業でわからない所とか、先生に聞きたい時もあるし………」
「仕方ないなーーその時は、あたしも一緒に行くから、教えてもらう時だけなら許す」
「…………………」
「大体、璃々のケガだって、あたしの体だから、睦月君が璃々に優しくしてるんだよ、わかってるよね?」
瑛捺はチラッと、あたしのケガしている足の方をみる。
「ーーーーーっ」
そんなのわかってる……。
わかってることなのに、瑛捺にそう言われると胸が痛い。
「どう、約束できる?」
もう一度、瑛捺に聞かれて、少し考えた後、
「………わかった、約束する」
頷くことしかできなかった。
数日が経ったある日のこと。
「この前やった、テストを返すぞ~~」
水沢先生の授業の時間、先生はみんなに声をかけると、この前やった小テストを返し始めた。
「……………見目〜、君島~ーー」
先生は一人一人名前を呼んでいく。
「………坂口………高梨…」
そして、私の名前で瑛捺が呼ばれて、それから数秒後、私の番になる。
「………森本ーーー」
先生から答案用紙を受け取ると、
「どうした、高……森本?体調悪いのか?」
先生に言われ、どういう意味だろう?と思いながら、返された答案用紙を覗く。
「っーーーーー」
いつもなら、50点満点中、45点以上は取れていたのに、赤いペンで書かれた30の数字が………。
水沢先生と喋らない約束を瑛捺と
してから、授業以外は先生を見かけても避けるようにしていたけど、先生に逢わないぶん、凄く辛くて勉強に身が入らなかった。
落ち込んでいるあたしを、瑛捺がじっと見ているとも知らずに、点数を見つめることしかできなかった。
睦月君、璃々に何言ったんだろう?
璃々が睦月君から答案用紙を受け取る時、睦月君が何か璃々に言ったのを目撃した瑛捺。
あたしが答案用紙を受け取る時は何も言ってくれなかったのに……。
ちなみに、点数はというと50点中、40点。
苦手な英語も、睦月君の為に頑張ったんだけどなーーー。
あたしは、唇をそっと噛み締めた。
授業が終わるチャイムが鳴ると同時に、
「小テストに出た問題の中に、学期末試験にも出る問題もあるから、みんな勉強しておくように」
水沢先生は、それだけ伝えると教室から出て行くと、すぐに瑛捺があたしの所へやってきた。
「璃々、テストどうだった?」
「あ、うん……まあまあ」
点数が知られるのが恥ずかしくて、曖昧に応える。
「瑛捺はどうだった………?」
「それがさ~~~見てよ、これ!!」
そう言って、瑛捺が見せるテストに40の数字が………。
「が、頑張ったね……瑛捺」
瑛捺が苦手な英語の小テストで、この点数とれたことなかったんじゃなかったかな………?
瑛捺の点数を見て、ますます落ち込むばかり。
「瑛捺……テストで解らなかった所あったから、水沢先生の所に行きたいんだけど………」
「いいよ、じゃあ昼休みに行こう」
すんなりと、瑛捺は了解してくれた。
そして、昼休みーーー。
「先生~、テストで解らない所があったので来ました!!」
あたしと瑛捺は英語準備室へ行くと、瑛捺は元気良く中へ入っていった。
「じゃあ、2人とも座って」
水沢先生に誘導され、椅子に座ると、瑛捺は返されたばかりのテストをテーブルの上に広げる。
さっき、瑛捺にはテストの点数、曖昧に応えたけど、ここで出すとやっぱり、知られることになるのか………。
躊躇しながらも、テストを出した。
「高梨、大丈夫か?」
躊躇しているのが顔色に出ていたのか、先生があたしに声をかけてくれた。
「あ、はい………………」
「今回の小テスト、いつもの調子じゃなかったみたいどけど、何処か具合が悪かったのか?」
「……………………」
流石に先生が原因で、勉強に集中できなかったなんて言えない。
「何、璃々…点数まあまあとか言ってたけど、本当は悪かったの?」
瑛捺が興味本位であたしのテストを覗こうとして、先生に注意される。
「こら、高梨が落ち込んでるのに覗かない」
先生は瑛捺の頭に手をやった。
「ーーーー」
こうして2人を見ると、先生があたしに触れてることなんだよね………。
入れ替わってなかったら、この状況は凄く嬉しいことなのに、切ない気持ちになってしまう。
「時間がないし、そろそろ始めるぞ」
先生に言われて、気を落ち着かせテストで解らない所を教えてもらうことにした。
「あ~、分かんない!!睦月君」
あたしが、教えてもらってても、すぐに瑛捺に呼ばれて先生は行ってしまうから、あまり捗らない。
走行しているうちに、あっという間に昼休みは終わりに近づいてしまった。
「もう、昼休みも終わりだから、ここまでな」
腕時計を見ながら、先生は他の学年の5時間目の準備を始めた。
仕方なくあたしと瑛捺は、教室へ戻ろうと廊下へ出ようとした時、
「ちょっと、待った。2人とも、今日の放課後、何か用あるか?」
水沢先生に呼び止められて、あたしと瑛捺は足を止める。
「何なに、デートの誘い?」
瑛捺は期待の眼差しで、先生を見つめた。
「そうだけど、但し高梨も一緒にな」
「え~、2人でデートしようよーーーー」
不満そうに、口を奢らせる瑛捺に構わず先生はあたしの方に視線を向けた。
「高梨は、学校終わってからの予定は?」
「何もないです」
「じゃあ、学校が終わったら、2人とも校舎裏に集合な」
先生に言われて、あたしと瑛捺は頷くと準備室を出た。
「睦月君とデートしたかったのに、残念。でも、校舎裏に集合って、何するんだろう」
先生の言葉に疑問に思ったのか、瑛捺が首を傾げる頃、先生はーーー。
「よし、5時間目の準備完了」
俺は、次の1年生の授業で教える為のプリントをまとめバインダーに挟める。
森本と高梨が準備室に来てから、次の授業の準備が進まなかったけど、なんとか準備完了した。
「どうしたものかな………」
俺は小さな溜め息をつく。
2人には放課後、校舎裏に来るように言ったけど何も考えず、つい口から出てしまった言葉だった。
これと言うとも、高梨が元気がないように感じた俺は、未だに2人が元に戻らないままでいる事で、高梨は勉強に身が入らず、テストでもいつもの力が発揮できなかったのかも知れない。
そう思った俺は、つい2人を呼び止めてしまった訳だけど、高梨が落ち込んでると何か力になってあげたくなってしまうのは、どうしてだろう?
心は高梨でも身体が森本だからか?
疑問に思いながら、準備室を出たのだった。
「雨降りそうだね」
放課後、瑛捺と校舎裏へ向かう途中、空を見上げながらあたしは呟いた。
5時間目が終わる頃から、雲行きが怪しなってきて、放課後には、どんよりとした空に変わってきていた。
校舎裏で待っていると、少し経ってから水沢先生が急ぎ足でやってきた。
「悪い、遅くなって」
「大丈夫だよ、睦月君ー!!」
先生が来ると瑛捺は、すぐに駆け寄るとピタッとくっついた。
「校舎裏とはいえ、誰が見てるか分からないし、先生って呼ぶように言ってるだろ?」
先生は辺りをキョロキョロ見回す。
「大丈夫だって、璃々しかいないし」
そんな2人を見ているあたしの胸は、チクンと痛む。
「コホン!とにかく、今日呼び出したのは、今から2人を元に戻す為だけど……」
先生は咳払いをする。
「良い案が思いついたのーー!?」
瑛捺は期待の眼差しで、先生をみつめた。
「これといった案は浮かばなかったけど……現場まで行けば、何か良い案が浮かぶかも知れない」
先生の提案で、現場に直行することになった。
雨が降りそうだったので、先生の車で行くことになったけど、瑛捺が助手席に乗ろうとして先生に止められる。
「ストップ!森本は高梨と一緒に後部座席」
「えーーー」
「さっきも言ったけど、誰が見ているかわからないからな」
「助手席は、彼女の特権なのにー」
不満そうにしている瑛捺に構わず、先生は車を発車させた。
あたしからしたら、瑛捺が助手席に乗らなくて一安心だけど。
何分か車を走らせ、現場に到着すると、
「しばらく、元に戻る実験もやってないのか?」
先生は考え込むように顎に手をやった。
「睦月君が協力してくれた後も色んな方法を試してみたけど、ダメだったから、諦めてその後はやってない」
瑛捺は、小さな溜め息をついた。
確かに、先生に協力してもらった後、何度か色々と試してみた。
単純だけど、机に置いた筆箱を瑛捺と同時に落として、拾おうとして瑛捺の頭と自分の頭をぶつけた事もあった。
それ程、思いっきりぶつけた訳じゃないけど、瑛捺もあたしも痛くて頭を摩った覚えがある。
その後は、瑛捺と微妙な関係が続いていたから、元に戻る方法を考える余裕もなかったけど………。
そんな事を考えていたら、一粒の雫が顔にあたった。
空を見上げると、幾つもの雫が落ちてきて、次第に道路も雨で湿り始めた。
ゴロゴロ………。
おまけに、遠くで雷も鳴ってる。
「最悪、傘持ってないのに」
瑛捺は唇を尖らせると、あたしの方を振り向いた。
「璃々は、傘持ってる?」
「ううん」
あたしは、首を小さく振る。
朝は良い天気だったから、傘は持ってこなかった。
「降ってきた!ひとまず、車に戻ろう」
先生に促され、ひとまず車に戻ることにした。
車に戻ってすぐ、大粒の雨が威勢よく降り出して、しばらく車から外を眺めていたけど、雷の音もさっきより近づいてきていた。
「結構、降ってきたな……」
先生は車のフロントガラスにあたる雨粒を見つめながら呟いた。
「今日は、無理なんじゃないかな……」
諦めモードで、あたしは少し濡れた髪をハンカチで拭いた。
「何、弱気になってるのよ!せっかく、睦月君が協力してくれるって言ってるのに」
「…………………」
瑛捺は、そう言うけど、最近まで諦めかけてたのは瑛捺も同じだ。
「そんなに、焦ると上手くいかないぞ。俺も良い案が浮かばなかったのも悪いんだし……それに、雷も酷くなってきたし、今日は帰ろう」
さっきより、稲光が酷くなってきていた。
「睦月君がそう言うなら、仕方ないけど…あたしも、また良い案がないか考えてみる!!もし、良い案が浮かんだら協力してくれる?」
後部座席に座っていた瑛捺が手を伸ばすと、運転席に座る先生の腕に絡みついた時だった。
ピカッ!ドシーーン!!!!
「きゃッーーーー!?」
「きゃーーーー!!!」
雷が縦に光ったかと思うと、凄まじい音がして、あたしと瑛捺は思わず悲鳴をあげた。
「近くに…落ちたみたいだな……」
先生も驚いたのか、一瞬固まっていた様子だったけど、落ち着きを取り戻すと、
「2人とも大丈夫か!?」
あたしたちの方を振り向いた。
「怖かったよ~、睦月くーん!!」
甘えた声で、瑛捺が先生に抱きつこうとした時、
「ちょっと、何で璃々が睦月君の腕に絡んでるわけ?」
唇を尖らせながら、瑛捺はあたしの腕を掴んだ。
「えっ…………」
あたしは、恥ずかしくなって慌てて先生の腕から離す。
ちょ……ちょっと、待って……。
先生の腕に絡んでたのは、瑛捺じゃない……。
違和感にあたしは、さっきと違う状況に気づく。
あたしの目の前で、先生に抱きつこうとしている子は、まさしく瑛捺だったからだ。
「え…瑛捺、あたしの顔を見て!!」
こっちを見てもらおうと、瑛捺に呼びかけた。
「何よ、あたしが睦月君とイチャイチャしてるの邪魔したいわけ?」
「いいから、早く!!」
あたしに急かされて、仕方なく振り向く瑛捺だったけど、次の瞬間、目を丸くさせながら、あたしの肩に触れた。
「ウソ………璃々、本当に璃々なの!?」
「うん、元に戻ったんだよ………あたし達!!」
「良かった~~~~!!」
小さい子供のように瑛捺は、両手を上げて喜んだと思うと、ふと真顔になる。
「でも……どうして、元に戻れたんだろう……?」
そんな、瑛捺の疑問に応えるように水沢先生が口を開いた。
「多分、さっきの雷のせいじゃないかな?」
「あ、そっか~~~」
瑛捺は、納得したように頷いた。
漫画や小説の中では、雷が原因で入れ替わったなんてあったけど、実際に起きるなんて夢のようだ。
「でも、これからは思う存分、睦月君とイチャイチャできるわけだ!」
「今までだって、べったりくっついてたのは誰だ?」
呆れ顔で、先生は溜め息をつく。
「べったりって……今までは、璃々の身体だったし、思うようにいかなかったんだけど………だから、こんなことだって出来なかったんだからね!!」
そう言って、瑛捺は後ろから先生に抱きついた。
「あ、こら!高梨が見てるだろう」
「いいのいいの、璃々はあたし達のこと知ってる、唯一の友達の独りなんだから。ね、璃々?これからも、あたし達のこと応援してね」
「ーーーーっ」
瑛捺と先生がイチャついてる所を目の前に、あたしの心は締め付けられる。
入れ替わってから、もっと先生のことが好きになってしまった璃々にとっては、こんなに辛いことはない。
心を閉ざして、小さく頷くことしかできなかった。