チェンジしてもいいですか!?
璃々は英語の水沢先生に片思い中。友達の瑛捺の彼氏でもあった。
そんな中、瑛捺と入れ替わる事件が発生して、璃々にとっては、先生に近づけた感じがして嬉しいかぎり。
瑛捺にしてみれば、元に戻れないことを焦り、同じ状況を作ったものの、元には戻らなかった。
瑛捺は入れ替わったことを先生に話すが、信じてもらえずにいたけど…………。
「璃々、睦月君の事なんだけど……あたし達が入れ替わってること信じてもらえそう?」
3時間目も終わり、次は移動教室なので準備をして移動する最中、瑛捺が突然聞いてきた。
「え…っと…言っているんだけど、どうかな……?」
本当は先生と話していない。入れ替わった時に先生に何回か説明したけど、笑って全然信じてもらえなかったしね。
「気長に待とうと思ってたけど、元に戻れないなら、睦月君が信じてくれればそれだけでいいんだけどな。璃々だけが、頼りの綱だったんだけど、あたしが璃々の姿でもう一度、言うしかないか……」
「だ、大丈夫だよ、瑛捺……もう少し先生と話してみるから……………」
いくらあたしの姿でも、瑛捺と先生が一緒にいる所なんてみたくない。
入れ替わる前は、先生は瑛捺と付き合っているし、見ているだけで我慢しようと思っていたけど、入れ替わってからは、段々と欲張りになっている自分に驚いてしまう。
「そう?でも、久しぶりに睦月君とちゃん話したいし、お昼休みにでも準備室に2人で行こう」
「うん…………」
確かに入れ替わってからは、瑛捺が昼休みに英語準備室に行く回数が減ったし、先生と話してる所もほとんどみない。
そして、昼休みーーー。
お昼ご飯を急いで食べると、あたしと瑛捺は水沢先生がいる英語準備室へ行った。
「準備室に2人で来るの、久しぶりじゃないのか?どうしたんだ?」
珍しいという顔で先生は、あたし達をみた。
「睦月君、あたし達が入れ替わったって言った事覚えてる?」
瑛捺は、単刀直入に聞く。
それも、あたしの姿で名前で呼ばれて先生は驚いた顔をしている。
「どうしたんだ?高梨……森本の喋り方が移ったのか?」
「そんなわけないでしょ、睦月君のこと名前で呼ぶのは、あたししかいないんだから、いい加減気がついてよ」
瑛捺はムッとさせながら、唇を尖らせた。
「そんなこと言って…また、2人が入れ替わってるとか言いたいのか?」
「そうだよ、あたしは瑛捺なんだから、睦月君」
「先生をからかってるのか?そんなこと……………」
先生は腕組みをしながら、少し考え込んだ。
「からかってなんかいないよ。ね、璃々?」
真顔で瑛捺が、あたしの方へ視線を向ける。
「う、うん……」
あたしが小さく頷くと、先生は腕組みをやめ静かに口を開いた。
「わかった……信じるよ」
「本当!?」
先生の言葉に、瑛捺は目を輝かせた。
「森本が高梨で、高梨が森本でいいんだよな?」
「うん、そうだよー!!」
瑛捺は嬉しさのあまり、満面の笑みを浮かべた。
えこひいきされていた訳じゃないないけど、中身があたしだとわかった以上、今までのように接してくれないかも知れない。
先生の笑顔だって、瑛捺だと思って向けていたことなんだよね………。
そう思ったら、ちくんと胸が痛む。
「どうした、高梨?」
そんなあたしに先生は、心配そうに声をかけてくれる。
「あ…先生に信じてもらえて良かったなと思ったら、なんだか安心したっていうか………」
「悪かったな、高梨。信じてあげられなくて」
あたしは先生の言葉に、左右に首をぶんぶん振った。
「睦月君ー、璃々にばかり優しい言葉かけて、あたしには何もないわけ?」
不満そうに、瑛捺は口を尖らせる。
「ああ、森本も信じてあげられなくて悪かった……でも、何だか変な感じだな」
「そりゃあ、そうよ。中身だけ入れ替わってるんだから。ってか、あたし達が元に戻れるように、睦月君も協力してよ~~」
瑛捺の甘えるような言葉に、先生は頷いた。
それから、先生の案も混じえ、1つ目は、入れ替わった場所とは違う場所という事で、放課後、屋上に上がる階段の所に集まることになった。
「まさか、ここで試そうって言うの?」
瑛捺は眉をひそめながら、先生に問いかけた。
「ここなら、人も来ないし」
「まさか…階段から落ちろなんて言わないよね?」
「ん……それも考えたけど、流石に危ないから、1人は階段を下りてもらって、もう1人は廊下から階段の方へ歩いて来て角で2人がぶつかる設定かな」
先生の話では、階段を下りて直ぐ曲がり角になってるから、そこで瑛捺とあたしがぶつかる方法を試そうとしているみたいだ。
「睦月君が言ってることは分かった……じゃあ、あたしは階段を下りて来るから璃々は廊下を歩いてきて」
「う、うん……」
どっちが階段を下りてきた方がいいのかな?なんて考えていると、瑛捺は、自分から何でも決めるタイプだから、すんなり役割が決まる。
「森本は、少し急ぎ足で階段下りてきて。その方がぶつかった時の衝撃が大きければ元に戻りやすいんじゃないかな」
先生に言われて、瑛捺は頷くと階段を上がって行った。
「高梨は、少し戻って歩いてきて」
「はい」
先生の指示通り、少し戻り屋上へ行く階段に向かって歩き出す。
曲がり角まで歩いてくると、タイミングよく瑛捺にぶつかった。
ドンっーーー!!!
「イタタっ…………」
「痛っ…………」
瑛捺もあたしも、ぶつかった拍子に尻もちをついてしまった。
先生は、衝撃があった方が元に戻りやすいと言うけど、本当に元に戻れたのかな?
お尻を擦りながら立ち上がると、瑛捺の方をみた。
「……………………」
視線の先には、お尻を擦りながら立ち上がる自分の姿が映った。
ほっ……どうやら、元には戻らなかったみたいだ。
ほっとしている自分とはうらはらに、
「………やっぱり、ダメみたい」
元に戻ってないことに気がついた瑛捺は、がっくりと肩を落とす。
「そんなに落ち込むことはないよ。他に方法があるはずだ」
先生は慰めるように、瑛捺の肩をポンと叩く。
「うん…………」
先生に励まされて、瑛捺は大きく頷いた。
「おっと、とっくに下校の時間過ぎてる。そろそろ、帰ろうか」
腕時計を確認しながら先生は、帰るように促した。
「えぇ~、もっと睦月君と一緒にいたいのにーーー」
子供が駄々をこねるみたいに、瑛捺は先生の腕に絡みつく。
「こらっ、高梨の姿で絡みつかない」
先生は、慌てて瑛捺の腕を解こうとした。
「ーーーーーーっ」
先生に拒否されてる自分の姿を前に、胸がツキンと痛む。
「璃々の姿じゃ、仕方ないかーー」
瑛捺は、小さな溜め息をつくと先生から離れた。
「璃々、帰ろ~~~」
名残惜しそうな顔で瑛捺に促され、歩き始めた時、右足首にズキッと痛みが走った。
「ーーーーっ」
突然の痛みに、眉間にシワを寄せる。
どうやら、さっき尻もちをついた時に、足首を捻ったみたいだ。
「璃々ー、帰らないの?」
「ご、ごめん。トイレに寄ってから行くから、先に行っててーー」
瑛捺に呼ばれて、とっさに嘘をつく。
「わかったーー」
瑛捺を先に行かせ、後からゆっくりと歩き始める。
「っーーー」
ううう、やっぱり痛い。
さっきより痛くなってきたみたいだ。
ズキズキする痛みに耐えきれず、立ち止まった時だった。
「高梨、大丈夫か?」
水沢先生が、あたしの前に来てしゃがむと怪我した足の方へ手を伸ばす。
「ここが痛いのか?」
そう言って、痛みがある場所を探るように、先生の指先が足首に触れた。
ドキンーー!!
先生に触れられて、心臓の鼓動が速くなる。
「少し腫れてきたみたいだな……保健室に湿布があったから行こう」
先生は心配そうに言うと、しゃがんだまま背を向けた。
「えっ……と、先生…これって、どんな状況ですか?」
まさか、おんぶするとか言わないよね?
「その足じゃ、無理だろうから保健室までおんぶしていくから」
「ーーーー!!!」
先生の言葉に、さっきより鼓動が高鳴る。
「だ、大丈夫です!あたし、重いので……それに、他の先生や生徒に見られたら……」
「森本の姿で言われると、何てリアクションしていいか、わからなくなるな。それに、下校時間過ぎてるから、残っている生徒はほとんどいないし、先生方には事情を話せば大丈夫だから」
おんぶする体勢のまま先生は動かないので、ドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら、そっと先生の肩にてをやった。
「じゃあ……お願いします」
「よし、しっかり掴まってるように」
そう言って、先生は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。
先生の背中って、見た目より結構がっしりしてるんだ………。
ドキドキさせながら、先生の背中に手をやった。
入れ替わったことを知ってしまった先生だけど、今は璃々に接してくれって思っていいんだよね?
そんなことを思っている璃々に対して、瑛捺の方はというと、璃々がトイレに行ってから行くと言ったのが、後から気になって戻っていた。
「どうして……あたしには、おんぶしてくれたことなかったのに…………」
気になって戻って来てみたら、璃々は尻もちをついた拍子に足首を痛めたらしく、歩くのが不自由みたいだった。
それに、睦月君がおんぶするとか言い出して、いくらあたしの姿でもイヤな気持ちは変わらない。
「璃々も最後まで断ればいいのに……」
でも、不意に落ちないのは、璃々が睦月君を見る目が気になる。
あれは、どう見ても睦月君のことが好きって感じにみえた。
元に戻らなければ、あたしと付き合っている睦月君に近づくことができるし、好都合だよね。
だから、焦らなくてもっていいとか言ったのかも知れない。
嫉妬心が芽生え始めていることに気づかない瑛捺だった。
「ごめん高梨…俺が提案したばかりに怪我させるようなことになって」
保健室まで先生におんぶしてもらう途中、誰にも会わずに保健室まで辿り着けた。
保健室の先生もいなかったので、怪我した所を水沢先生が手当してくれることになった。
「謝らないでください!あたしがドジだっただけで、先生は悪くないです。それに、先生は協力してくれただけじゃないですか」
「でもな……高梨に怪我させたら、森本に怒られそうだ」
先生は足首に湿布を貼りながら、溜め息をつく。
「ーーーーー」
もしかして、瑛捺の体だから心配してる……ってこと?
「森本、一応…ネット包帯もしておくな?」
「あ、あとは、自分でやるので…先生は戻って」
何だか急に虚しくなって、どんな顔をしていいかわからず、先生を遠ざける。
「戻ってもいいけど、本当に大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、森本に言って保健室へ来るように言っておくから」
そう言って、先生が保健室を出ていった後でも、おんぶしてもらった時の先生の背中の温もりが、まだ体に残っていた。
翌日の学校ーーー。
「瑛捺、おはよう。昨日は、ごめんね。足捻挫しちゃって水沢先生に手当してもらってたの。先生、瑛捺のこと呼びに行ってくれたんだけど、先に帰ってたんだね?」
瑛捺が自分の席に座って1時間目の準備をしている所に、あたしは声をかけた。
昨日は、瑛捺が来るまで保健室で待っていたけど、しばらくして水沢先生が来て、瑛捺は先に帰ったみたいと教えてくれた。
先生は家に電話をしてくれて、結局、瑛捺のお母さんが迎えに来てくれて帰った。
「ごめん、1時間目の用意しないといけないから」
瑛捺は、鞄から筆記用具を出しながら口を開いた。
「あっ、ごめん………」
あたしは、慌てて口を閉ざす。
いつもなら、続く会話も続かない。
「…………………」
何だか、昨日までの瑛捺とは、様子がおかしいような気がするのは気のせいかな?
そう思っていたけど、それはすぐに気のせいではないことが確信する。
「瑛捺、一緒に売店行かない?」
4時間目が終わり、あたしは瑛捺を誘いに席までいく。
「あ、ねえ、一緒に入ってもいい?」
あたしの声に気づかなかったのか、瑛捺は他のグループの方へ行ってしまった。
聞こえなかったのかな?でも、いつもなら一緒に売店に行くのに、無視された?
仕方なく、売店に独りで行くことに。
売店に行くと、咲良が自販機でジュースを買っている所だった。
「えっ……と、璃々?」
確かめるように咲良は、あたしをみる。
「うん、合ってるよ」
あたしは、大きく頷く。
「今日は森本さん一緒じゃないんだ?」
咲良は、きょろきょろ見渡した。
「うん………」
「璃々、お昼まだなら一緒に食べる?」
あたしの様子に気がついたのか、咲良はお昼に誘ってくれた。
そして、売店でお昼を買うと、2人で屋上で食べることにした。
「それで、何があったの?足も怪我してるみたいだし」
足をびっこ引いてるのに気がついて、あたしの足の方へ視線を向ける。
「昨日、いろいろあって………」
あたしと瑛捺の入れ替わりをもとに戻す為に、水沢先生も協力してくれたことや、その時に足を怪我して、先生におんぶしてもらったことや今日の瑛捺の態度が可笑しいことを咲良に話た。
「そんな事があったんだー?でも、璃々にしてみれば、先生に近づけてラッキーだったんじゃないの」
話が終わると咲良は、にやにやさせながら、購買で買ったパンを噛じった。
「そ、そりゃあ……先生におんぶしてもらって手当もしてもらって、凄く嬉しかったけど………」
「あっ、わかった!」
何かピーンときたのか、咲良は頷きながら口を開いた。
「先生が璃々のこと特別扱いしたから、森本さんが嫉妬してるんじゃないの?」
「えっ……でも、あの時は瑛捺は先に教室に戻ってて、いなかったけど………」
「怪我した璃々の事が心配で戻って来たとしたら?」
「………………………」
確かに、咲良が言う通り、瑛捺が途中で戻ってきて、あたしが先生におんぶしてもらってる所を何処かで目撃していたら納得がいく。
「お昼は付き合ってあげるから、いつでも声かけて」
「うん、ありがとう。咲良」
お礼を言うと、パックのジュースを一気に飲み干した。
お昼ご飯を食べ終わると、咲良と教室に戻る途中、前方に水沢先生の姿を発見。
「璃々、あたしは先に行くから先生の所に行ってきな」
咲良も先生に気がついたのか、あたしを先生の所へ行かせようとしてくれる。
「え…でも、なんて声かけたら……」
咲良は、戸惑っているあたしの背中を押す。
「とりあえず、昨日のお礼を言ってこなくちゃ!!」
「そうだね」
咲良に言われて、大きく頷くと先生の方へ歩き出した。
近くまで行くと、あたしに気づいたのか、先生が振り向いてくれる。
今日は英語の授業がないから、廊下で逢えるなんて奇跡みたいに感じてしまう。
「高梨ー?」
本人確認のように、先生が名前を呼ぶ。
「はい」
受け応えるように、返事をした。
「足、大丈夫か?病院には、行ったのか?」
先生は心配そうに、怪我した方の足をチラッとみた。
「はい、昨日病院に行って、軽い捻挫って言われたけど、大丈夫です!」
つい、飛び跳ねるマネをしようとして、足首に痛みが走る。
「いたたたっ………」
あまりの痛さに、足首を押えた。
「大丈夫か!?」
先生は慌てて、足首に触れようとした時、先生の手があたしの手に触れた。
どきんっ!!
一気に身体の体温が上昇して、鼓動が高鳴る。
あたし……きっと、真っ赤な顔してるよね?
「だ、だ…大丈夫なので、失礼します!!」
そう思ったら、顔を見られたくなくて、慌ててその場から離れた。
教室近くまで行くと、先生が触れた自分の手と手合わせてを包み込む。
先生の手は冷たかったけど、手が冷たい人は心が温かいって言うし、やっぱり先生はあたしにとって、かけがえのない存在だ。
目を閉じると、そっと胸に手を当てた。