絶対に勝たないといけない使命を抱えた玉入れチームに所属するとこうなる
「じゃあ売木、お前が一番上な」
「はーあ!?」
おい、ちょっと待て、ふざけるんじゃねえぞ。ちょっとこんなのありえねえだろ皆聞いてくれよ!
俺こと売木はごく一般的な男子高校生そのもののような存在の男であるが、今日は近日行われる地区別対抗運動会のミーティングの為俺は集会場に来ているんだけど…… ちょっとそこで厄介事に巻き込まれてしまいそうな目に遭っている。
事の発端は俺がその『地区別対抗運動会』に参加することが決定してしまった時から始まった。そもそも運動が苦手な俺にとっては運動会に参加すること自体滅茶苦茶抵抗があったが『隣町には絶対に負けるな』との町長からのお達しがあり無理矢理参加させられてしまったのだ。
まぁ、それでも俺の出る競技が『玉入れ』であったことがまだ救いだ。競技系の中でも負担が軽くてまだ救いがあるからな。
そんでもって、俺はこの7人で構成される玉入れチームのミーティングに今参加しているのだが……
まずもってして平日の真昼間にやるなと言いたいところだ。お陰様で俺は学校を休んでまでここに来るハメになったんだぞ。おまけに玉入れという競技でこいつら長々と2時間近く話してやがるし、そんな必要があるのかと問い正したいところである。そんなに勝ちたいのか知らねえけど練習した方が絶対に有意義だと俺は思うぞ。
そして玉入れに絶対に勝つため作戦を練ること2時間、ついにその作戦の方向性が固まったのはいいもののその作戦内容が……
『5人肩車』であった。
「ふざけるな! なんで俺が5人肩車の一番上に乗らねえといけねえんだよ! 大体なんだよ、さっきから黙って聞いていれば2時間話し合って出た作戦が『5人肩車』っておかしいだろ!!」
『5人肩車作戦』……言わずもがな、5人で肩車を組んで玉入れの容器の高さにまで届かせるという無茶苦茶すぎる作戦である。俺は今いるメンバーの中で一番体重が軽いという理由で選定されてしまったのだ。ちなみに余った2人は肩車勢に玉を渡す係らしい。
あまりにも下らなさすぎて、作戦会議当初からマトモに参加していなかった俺だが、流石に不服を申し立てるぞ。2時間もコイツら何を話し合っていたんだよ。それこそ最初は『玉を拾う係』と『玉を入れる係』の振り分けとかそれっぽいことが話に出ていたのに、どうしてそうなったんだよ!? 行き着いた先が5人肩車って大丈夫なのかよこのチーム。
高いところが怖いとかそういう問題じゃねえよ、あまりにも作戦内容がクソすぎてやってられねえんだよ!
「僕のデータによればこの作戦を用いた時の勝利確率は100%です。売木君、作戦に間違いありませんよ」
ギラリと眼鏡を光らせ、持ち前のノートPCを打ち込みながらそう言ってくるのは俺の前に座るメガネ男だ。通称データメガネ、見てくれはプログラマーとかハッカーとかやってそうなインテリチックな雰囲気が醸し出ているけど、実態は近所に住むニートの兄ちゃんだ。一応肩車では俺の下である4番目を担当することになっているらしい。
このデータメガネがこの5人肩車作戦を提唱したのが事の始まりだったのだが……
「全然完璧じゃねえよ! どこをどう掻い摘んで5人肩車が完璧だと言い切れるんだよ! 第一ルールとか大丈夫なのか!?」
「ルールなんて関係ねえ! 勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ!!」
データメガネの隣にいた野郎がそう叫んだ。肩車で下から3番目を任されている男だ。
お前……本業は裁判官なのにそんなこと言っていいのかよ!? 仕事とプライベートは別だと言っても立場上言っていい事と悪い事があるだろ。なんで国家公務員までこのミーティングにいるんだよ……、玉入れごときに気合い入れすぎだろ。
「問題ありません。ルール上では5人肩車は許可されていますので」
許可されているワケじゃねーだろ。5人肩車なんて想定外すぎて規定に乗ってねえだけだろ。さもルールの抜け穴を生かした軍師みてえなこと言ってくるけど、そんな頓珍漢な思考する野郎の相手をする程大会運営も暇じゃねえよ。
「はあ!? だとしても5人肩車なんて危険すぎるだろーが! 俺は反対だぞ!」
落っこちたら大変だろーが。ましては俺は一番上なんだ、危険すぎるにも程があるぞ。
「はあ? 売木、絶対勝たねえといけねえ玉入れなんだ。町長の顔を汚す気か売木!」
「そうだぞ、俺達『中町』は『東町』だけには絶対負けちゃいけねえんだ! 何がなんでもやるぞ売木!」
っと俺の申し立てに対して噛みついてくるのは一番下担当、商店街で魚屋を営む店長とと2番目担当、花屋の店長だ。二人とも肩車の下を任されているだけにかなりガタイが良い。
たかだか玉入れのメンバーこんな恵体野郎共が集っている事自体おかしいだろ。年寄りオンリーでもやってける競技なのに絶対勝つ為か町内の精鋭達が揃っていやがる。
5人肩車が出来るようなポテンシャルを秘めた人材が揃っているチームなんだぞ、もっとまともな作戦を立てろやデータメガネ!
「は? 売木、舐めたこと言ってんじゃねえぞっ! おめーら、勝つ以外の選択ねーからな。勝利にしか価値はねえんだよ! 負けなんてゴミクズ同然!!」
ジャッジマンが高らかに叫べば俺以外の全員が「うっっす!!」と気合を入れる。
なんで玉入れでこんなやる気に満ちた野郎共が集結するんだよ。聞いてねえぞ、くる前までのんびりとした年寄りばかりかと期待していたのに真逆じゃねえか。お前ら運動神経に自信あるなら他の競技に行ってくれよ。玉入れのチームの雰囲気じゃねえぞこのチーム。
「競技時間は3分だ売木、その間に肩車を組んで玉入れをしないといけない。勝負の肝はいかに早く肩車をするかだな……」
魚屋が俺を無視して話を進め始める。なんだその競技、もはや『玉入れ』じゃなくて『早肩車選手権』だろ。冗談じゃねえぞ、そんな急いで肩車なんてしたらそれこそ落下不可避だし観客だって困惑するだろーが。
「絶対無理だろ、そんな早く肩車なんてできっこねえ! 5人だぞ5人! 俺たちはサーカス団じゃねえぞ!」
俺が抵抗して見せると前にいるデータメガネが「ふむ」と顎に手を添える。
「今ルールを確認しましたが、何も競技開始時に急いで組む必要はないみたいですね。入場の駆け足時点で肩車をやっちゃいけないとはルールに書かれておりませんよ。つまり入場時から肩車状態にしておけば良いのです」
それを聞くや否や俺以外の6人全員が「よっしゃ!!」と声を上げた。
んだから、そんなルール書かれているワケねーだろ! そんなことまで懸念し始めたらルールブックが六法全書なみになっちまうだろうが!
しかも何が「よっしゃ!!」だ。入場の駆け足時から肩車する気満々じゃねーかコイツら。そんな芸当俺だって見た事ねえし、一番上の俺を殺す気か!? ゆらゆら揺らされながら生きた心地のしないまま玉籠まで向かえって言うのかよ!? 考えただけで冷や汗が出てくるぞ。
それにどんな光景だよ、5人肩車が駆け足しながら入場してくるシーンなんて。あまりにも絵面がおかしすぎるだろ!
「おいおいおい、ちょっと待ってくれ。お前ら全員頭を冷やして一旦考え直せや! ぜっっったいに肩車以外にいい作戦があるだろ! もっと安全で効果的かつ戦術に満ちた作戦がよ!」
「この作戦が完璧すぎてそれ以外見当たりませんね。今回の大会は絶対に勝たないといけないのです。それにそんな悠長な時間なんてありませんよ」
データメガネがキーボードを鳴らす。お前さっきからノートPCで何やら分析しているように見えるけど何を確認しているんだよ。たまったもんじゃねえよ、こんなボロボロな作戦をキッパリと「完璧」だなんて主張されたらよお。他の人の意見というデータも入れる余地を与えろや。
ていうか、マジかよこいつら。ガチで5人肩車するのかよ……
俺が言葉を失ってしまうと花屋が立ち上がりながら手を叩いた。
「よし売木! 今から肩車のリハーサルするぞ、5人全員集まれ!」
「「「うっっす!!!」」」
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運動会当日。なんと俺たちの『中町』ライバルチームである『東町』まで同様に5人肩車を仕掛けてきた。
熾烈な戦いの結果ドローという形で終わったのだが…… なんというか、玉入れで勝ちたくなると皆肩車をしだすんだな……。